Blissful Kiss

雪原歌乃

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Chapter.6 好きだから

Act.3

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 アパートに着くと、私は早速買ってきたものを台所で広げ、調理に取りかかった。
「手伝うことある?」
 高遠さんの問いに、私は、「いえ」と答える。
「特に何もないです。ここ、ちょっと狭いですから、かえってひとりの方が作業しやすいです」
「ああ、そっか。そうだね……」
 淋しげに返してきた高遠さんに、私はハッとする。こっちとしては全く悪気がなかったのだけど、ずいぶん冷たい応対の仕方だった。
「えっと、別に邪魔とかそうゆう意味で言ったんじゃないんです! 誤解しないで下さい!」
 焦るばかりに一気に捲し立ててしまったことで、帰って墓穴を掘ってしまった気がする。
「――すいません……」
 冷静になれ、と自分に言い聞かせながら、高遠さんに謝罪した。
 そんな私に、高遠さんは、「それだよ」と言いながら私の頭をそっと撫でてきた。
「絢の悪い癖。何でも謝っちゃダメだよ? 絢が言ったことは間違ってないんだから」
「でも……」
「いいから。ほら、邪魔者は部屋に下がるから絢は好きなようにやるといいよ」
 そう言って、高遠さんはニッコリと笑いかけてくれた。
「分かりました」
 私も高遠さんに応えるように満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ、頑張って作りますから」
「期待してるよ」
 さり気なくプレッシャーをかけられる。でも、それはそれでやりがいを感じる。
 高遠さんが台所から出ると、私は、「よし!」と小さく気合いを入れて作業を再開した。

 ◆◇◆◇

 少しでも早く作ろうと思ったのだけど、結局一時間ぐらいかけてようやく出来た。
 私が料理をしている間、高遠さんはノートパソコンを広げていた。多分、仕事をしていたのだろう。私が静かに出来上がった料理を運んできた時、普段は見せない厳しい表情でディスプレイを睨んでいた。
「出来ましたけど……」
 恐る恐る声をかけると、高遠さんは、「ああ」と顔を上げた。いつもの柔らかい雰囲気の高遠さんに戻っていた。
「ごめんごめん。つい集中してしまってた」
「いえ」
 私は首を振り、「大変ですね」と続けた。
「お休みでも仕事してるんですか?」
「うん、ちょっとだけね。出来る限り家には持ち込みたくなかったんだけど、どうしても終わらせられなくてね……」
「えっ! じゃあ、今日はここに来ちゃダメだったんじゃ……」
「そんなことないよ。むしろ絢に逢わないと、かえってストレスでどうにかなってしまってた。ああでも、仕事してる姿は見苦しかったかな?」
「いえ、それはないですけど……。ほんとに大丈夫、ですか……?」
 不安になって、ついつい重ねて問うも、高遠さんはやはり、「大丈夫」と少し呆れたように笑いながら返してくる。
「さっきも言ったろ? 絢に逢わないとストレスでおかしくなる、って。絢に逢うとホッとする」
「私、高遠さんの精神安定剤になってます?」
「なってるなんてもんじゃない。絢がいないと困る」
 高遠さんはそこまで言うと、パソコンを畳んで立ち上がった。
「さて、出来たようだからいただくよ。ありがとう、絢」
 高遠さんの唇が私のそれに触れる。感謝のキスのつもりだったのだろうか。
「えっと、冷めちゃいますね! 高遠さん、今度はお手伝いしてくれますか?」
 照れ臭さを隠すために声が少し大きくなってしまった。
 高遠さんはそれもお見通しだったようで、笑いたいのを必死で堪えている。
「それじゃ、取り皿でも持ってきますか?」
 わざとらしく敬語を使った高遠さんに、私は背中を押されながら台所へと導かれた。
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