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Chapter.7 愛され続けて
Act.2
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春休みに入ってからはほぼ、バイトに明け暮れる毎日だった。お金を稼ぎたいのはもちろん、書店自体が繁忙期だから猫の手も借りたい状態だ。
卒業や入学祝用にと、本や図書カードがよく売れる。そして、教科書も扱っているからそれを目当てに来る人も多い。辞書や参考書の問い合わせも多いし、店はまさに戦場だった。こんな状況で、「予定外の休みを下さい」なんてなおさら言えるはずがない。
四時間フルで稼ぎ、ようやく休憩に入った頃にはさすがにグッタリしていた。店裏の狭い事務所兼休憩室で折り畳み椅子を広げ、家で簡単に拵えてきたおにぎりに齧り付き、温かいお茶を飲んで一息吐く。
壁ひとつ隔てただけなのに、この空間は不思議と静かだ。だから店の喧騒を忘れてのんびり寛ぐことが出来る。
ひとりでおにぎりを平らげ、お茶をゆっくり喉に流し込んでいた時だった。
「はあーっ、疲れた疲れた……」
そうぼやきながら、立原さんが小部屋に入って来た。
「お疲れ様です」
私は椅子に座ったまま、立原さんに会釈する。
立原さんも私に向けて、「お疲れ」と返し、自らのロッカーからお弁当を出して事務机に向かって腰を下ろした。
「今日も凄いわ。問い合わせ問い合わせ問い合わせ……。もうキリがないったら!」
「ですよね……。時期が時期だから仕方ないのかもしれませんけど……」
私が立原さんの言葉に応じる側で、立原さんは机にお弁当を広げ、ムシャムシャと食べ始めた。
「あ、そうそう黒川ちゃん」
玉子焼きを咀嚼し、お茶で流し込んでから立原さんがおもむろに口を開いた。
「来週の木金だけど、確か連休になってなかった?」
改めて問われ、私は少し考える。確かに、今回は平日の連休が多かったな、と自分のシフトを見ながら溜め息を吐いたような気がする。
「確か、休みだったと思いますけど……?」
当然、怪訝に思いながら訊き返す。
すると、立原さんの口から思いもしないことが告げられた。
「あのさ、来週木金だけど、雪那ちゃんと里衣ちゃんが急に休み欲しいって言い出してきて。悪いんだけど、何も予定がなかったらその日出てくれないかな? 代わりに土日を休みにするから」
私は目をパチクリさせた。今、木金に出てもらう代わりに土日を休みにする、と言った気がする。
「――いいんですか……?」
つい、本音が出てしまった。土日を休みにしてもらえたら、高遠さんに逢える。
そんな私を前に、立原さんは訝しげにしている。
「いや、頼んでるのはこっちだけど。てか、張本人達の代わりにだけど……」
「大丈夫です!」
立原さんが言い終わるか終わらないかのうちに私は勢い良く立ち上がり、立原さんとの距離を縮めた。
「木金出ます! 土日休んでいいんですもんねっ?」
「お、おう……」
立原さんが見るからに引いている。それに気付き、私は自らを落ち着かせながら居住まいを正した。
「まあ、なんにしても助かるわ。木曜が里衣ちゃん、金曜が雪那ちゃんって……。じゃ、あのふたりにはちゃーんと言っとくから。ふたりでしっかり相談して、土曜か日曜、どっちか必ず出ろ、ってね」
「ありがとうございます!」
「いやいや、礼を言うのはこっち――じゃなくて、あの二人組だから」
名前を言うのも面倒になったのか、立原さんの中でセットとして括られてしまった里衣さんと雪那さん。でも、立原さんのことだから、本人達がいようといまいと同じように言っていたに違いない。
いい意味で予想外の展開になった。立原さんの言う通り、私がお願いされた立場になるわけだけど、私としても願ってもないことだから胸が躍る。
自分で言うのもどうかと思うけれど、いつも真面目にバイトをしていて良かったとつくづく思う。
ふいに気付いて壁時計を見上げた。そろそろ戻らないといけない時間になっていた。
「あ、私そろそろ戻ります」
まだ食べている立原さんに告げると、立原さんは、「いってらっしゃい」と挨拶を返してくれた。
「来週、よろしくね?」
「はい」
私はニッコリと頷き、いそいそと店へ出た。
卒業や入学祝用にと、本や図書カードがよく売れる。そして、教科書も扱っているからそれを目当てに来る人も多い。辞書や参考書の問い合わせも多いし、店はまさに戦場だった。こんな状況で、「予定外の休みを下さい」なんてなおさら言えるはずがない。
四時間フルで稼ぎ、ようやく休憩に入った頃にはさすがにグッタリしていた。店裏の狭い事務所兼休憩室で折り畳み椅子を広げ、家で簡単に拵えてきたおにぎりに齧り付き、温かいお茶を飲んで一息吐く。
壁ひとつ隔てただけなのに、この空間は不思議と静かだ。だから店の喧騒を忘れてのんびり寛ぐことが出来る。
ひとりでおにぎりを平らげ、お茶をゆっくり喉に流し込んでいた時だった。
「はあーっ、疲れた疲れた……」
そうぼやきながら、立原さんが小部屋に入って来た。
「お疲れ様です」
私は椅子に座ったまま、立原さんに会釈する。
立原さんも私に向けて、「お疲れ」と返し、自らのロッカーからお弁当を出して事務机に向かって腰を下ろした。
「今日も凄いわ。問い合わせ問い合わせ問い合わせ……。もうキリがないったら!」
「ですよね……。時期が時期だから仕方ないのかもしれませんけど……」
私が立原さんの言葉に応じる側で、立原さんは机にお弁当を広げ、ムシャムシャと食べ始めた。
「あ、そうそう黒川ちゃん」
玉子焼きを咀嚼し、お茶で流し込んでから立原さんがおもむろに口を開いた。
「来週の木金だけど、確か連休になってなかった?」
改めて問われ、私は少し考える。確かに、今回は平日の連休が多かったな、と自分のシフトを見ながら溜め息を吐いたような気がする。
「確か、休みだったと思いますけど……?」
当然、怪訝に思いながら訊き返す。
すると、立原さんの口から思いもしないことが告げられた。
「あのさ、来週木金だけど、雪那ちゃんと里衣ちゃんが急に休み欲しいって言い出してきて。悪いんだけど、何も予定がなかったらその日出てくれないかな? 代わりに土日を休みにするから」
私は目をパチクリさせた。今、木金に出てもらう代わりに土日を休みにする、と言った気がする。
「――いいんですか……?」
つい、本音が出てしまった。土日を休みにしてもらえたら、高遠さんに逢える。
そんな私を前に、立原さんは訝しげにしている。
「いや、頼んでるのはこっちだけど。てか、張本人達の代わりにだけど……」
「大丈夫です!」
立原さんが言い終わるか終わらないかのうちに私は勢い良く立ち上がり、立原さんとの距離を縮めた。
「木金出ます! 土日休んでいいんですもんねっ?」
「お、おう……」
立原さんが見るからに引いている。それに気付き、私は自らを落ち着かせながら居住まいを正した。
「まあ、なんにしても助かるわ。木曜が里衣ちゃん、金曜が雪那ちゃんって……。じゃ、あのふたりにはちゃーんと言っとくから。ふたりでしっかり相談して、土曜か日曜、どっちか必ず出ろ、ってね」
「ありがとうございます!」
「いやいや、礼を言うのはこっち――じゃなくて、あの二人組だから」
名前を言うのも面倒になったのか、立原さんの中でセットとして括られてしまった里衣さんと雪那さん。でも、立原さんのことだから、本人達がいようといまいと同じように言っていたに違いない。
いい意味で予想外の展開になった。立原さんの言う通り、私がお願いされた立場になるわけだけど、私としても願ってもないことだから胸が躍る。
自分で言うのもどうかと思うけれど、いつも真面目にバイトをしていて良かったとつくづく思う。
ふいに気付いて壁時計を見上げた。そろそろ戻らないといけない時間になっていた。
「あ、私そろそろ戻ります」
まだ食べている立原さんに告げると、立原さんは、「いってらっしゃい」と挨拶を返してくれた。
「来週、よろしくね?」
「はい」
私はニッコリと頷き、いそいそと店へ出た。
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