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Chapter.9 言葉の代わりに
Act.2
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身支度を整え、外に出てみると、ほんのりと暖かさを感じた。空は透き通っているし、見事な花見日和だ。
高遠さんとは私の家の最寄り駅で待ち合わせすることになっている。
正直、お弁当が重い。でも、重みよりも逢えることの嬉しさの方が断然勝っていたから、そんなものはさほど気にならなかった。
待ち合わせ場所に行くと、高遠さんはすでに来ていた。何となく予想はしていたけれど、ニ十分近くも早かったから少し慌ててしまった。
「おはよう」
私に気付くなり、高遠さんはにこやかに挨拶してきた。
高遠さんの笑顔に釣られ、私も頬が緩んでしまう。
「おはようございます。ずいぶん早いですね」
「絢こそ。もう少しゆっくり来ても良かったのに」
「そうゆうわけにはいきませんよ。わざわざ来てもらってるのに、待たせるなんて失礼じゃないですか。――結局待たせちゃってましたけど……」
「俺が好きでやってることだから気にしない」
そう言うと、高遠さんはお弁当の入ったトートバッグを私から取った。
「お、結構重いな」
「つい張りきっちゃって……」
「たくさん作ってくれたの?」
「前に作った時より多いかもしれません」
「そっか。それは楽しみだ」
高遠さんは今度は私の手を取る。人前でこういう行為をすることも、今ではすっかり当たり前になっていた。
慣れとは恐ろしいもので、私も普通に高遠さんに手を絡めている。むしろ、手を握ってくれることを期待していた。
手を繋いだままで駐車場に向かった私達は、それぞれ車に乗り込む。
運転席でハンドルを握る高遠さんの隣で、私はやはり当然のように助手席に座っている。それが不意に、不思議なことに思えてくる。
「やっぱり混んでるな……」
高遠さんがひとりごちる。イライラしているのかと不安になり、恐る恐る高遠さんを覗ってみると、高遠さんも私を一瞥した。
「どうした?」
前を向いたままで私に訊ねてくる。
私は少し躊躇い、けれどもおもむろに口を開いた。
「高遠さん、疲れてるんじゃないかな、って思って……」
「どうして?」
「――ちょっと、イライラしてるようだったから……」
「イライラしてるように見えた?」
「――少し……」
「そっか」
高遠さんは溜め息を交えながら答え、左手を私の右手へと伸ばしてきた。
「嫌なトコを見せちゃったね。けど、絢には全然イライラしてないから、それだけはちゃんと言っとく」
高遠さんの手が、私の手を強く握り締める。運転中だし、危ないと思いつつも、高遠さんの温もりを感じられたことで私の中の不安はいっぺんに掻き消えた。
「絢に嫌な思いをさせちゃダメだな」
「大丈夫です。嫌とか思ってませんから」
「絢は優しいな、ほんと」
高遠さんの口元が綻んだ。
「でも、あんまり無理はしないでくれよ? 絢は何でもギリギリまで我慢しちゃうから心配だ」
「それ、そのまま高遠さんに返します」
高遠さんはまた、私にチラリと視線を向けた。
私は高遠さんの横顔を見つめたままで続ける。
「高遠さんこそ、無理し過ぎな気がするんです。凄く真面目だし。――倒れたりしたら、心配どころじゃないです……」
「そっか、そうだな」
ウィンカーを点滅させた高遠さんは、私から手を離した。
「さて、あと少しで到着だ」
手が離れ、少し淋しさを感じていた私に、高遠さんが声をかけてくる。
「人が多そうだし、あんまりゆっくり出来ないかもしれないけどね」
「高遠さんと一緒なら、私は何でもいいです」
ほとんど無意識に口にしていた。ハッと気付き、慌てて口を抑えたものの、出てしまったものを戻すことは出来ない。
「俺も絢と過ごせるなら何でもいい」
高遠さんが私の髪に触れる。ほんの一瞬だったけれど、そのさり気ない優しさが私には堪らなく嬉しかった。
高遠さんとは私の家の最寄り駅で待ち合わせすることになっている。
正直、お弁当が重い。でも、重みよりも逢えることの嬉しさの方が断然勝っていたから、そんなものはさほど気にならなかった。
待ち合わせ場所に行くと、高遠さんはすでに来ていた。何となく予想はしていたけれど、ニ十分近くも早かったから少し慌ててしまった。
「おはよう」
私に気付くなり、高遠さんはにこやかに挨拶してきた。
高遠さんの笑顔に釣られ、私も頬が緩んでしまう。
「おはようございます。ずいぶん早いですね」
「絢こそ。もう少しゆっくり来ても良かったのに」
「そうゆうわけにはいきませんよ。わざわざ来てもらってるのに、待たせるなんて失礼じゃないですか。――結局待たせちゃってましたけど……」
「俺が好きでやってることだから気にしない」
そう言うと、高遠さんはお弁当の入ったトートバッグを私から取った。
「お、結構重いな」
「つい張りきっちゃって……」
「たくさん作ってくれたの?」
「前に作った時より多いかもしれません」
「そっか。それは楽しみだ」
高遠さんは今度は私の手を取る。人前でこういう行為をすることも、今ではすっかり当たり前になっていた。
慣れとは恐ろしいもので、私も普通に高遠さんに手を絡めている。むしろ、手を握ってくれることを期待していた。
手を繋いだままで駐車場に向かった私達は、それぞれ車に乗り込む。
運転席でハンドルを握る高遠さんの隣で、私はやはり当然のように助手席に座っている。それが不意に、不思議なことに思えてくる。
「やっぱり混んでるな……」
高遠さんがひとりごちる。イライラしているのかと不安になり、恐る恐る高遠さんを覗ってみると、高遠さんも私を一瞥した。
「どうした?」
前を向いたままで私に訊ねてくる。
私は少し躊躇い、けれどもおもむろに口を開いた。
「高遠さん、疲れてるんじゃないかな、って思って……」
「どうして?」
「――ちょっと、イライラしてるようだったから……」
「イライラしてるように見えた?」
「――少し……」
「そっか」
高遠さんは溜め息を交えながら答え、左手を私の右手へと伸ばしてきた。
「嫌なトコを見せちゃったね。けど、絢には全然イライラしてないから、それだけはちゃんと言っとく」
高遠さんの手が、私の手を強く握り締める。運転中だし、危ないと思いつつも、高遠さんの温もりを感じられたことで私の中の不安はいっぺんに掻き消えた。
「絢に嫌な思いをさせちゃダメだな」
「大丈夫です。嫌とか思ってませんから」
「絢は優しいな、ほんと」
高遠さんの口元が綻んだ。
「でも、あんまり無理はしないでくれよ? 絢は何でもギリギリまで我慢しちゃうから心配だ」
「それ、そのまま高遠さんに返します」
高遠さんはまた、私にチラリと視線を向けた。
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「高遠さんこそ、無理し過ぎな気がするんです。凄く真面目だし。――倒れたりしたら、心配どころじゃないです……」
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