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Chapter.9 言葉の代わりに
Act.3
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予想通り、駐車場は満車状態だった。でも、運良く一台出て行く車があって、高遠さんは真っ先にそこに狙いを定めて駐車した。
車を降り、桜並木の続く公園の中まで入った時にも人の多さに目眩がしそうだった。本当は元々、私は人混みが得意ではない。それでも私は、高遠さんとお花見がしたかった。
「疲れてない?」
手を繋いで私と並んで歩いていた高遠さんが声をかけてくる。
私は少し躊躇ったけれど、正直に「ちょっと」と答えた。
「分かってたけど、人が多過ぎますね……」
「そうだね。ここは平日でもそれなりに人が来るから」
深い意味はなかったのかもしれない。でも、高遠さんの言葉に私の胸がチクリと痛む。やはり、疲れているのに無理をさせてしまったのではないか、と。
「ごめんなさい……」
つい、謝罪が口から出た。
「また出たな、絢の悪い癖」
そんな私に、高遠さんがやんわりと指摘してきた。
「絢のことだから、どうせ気にしてるんだろ? 無理させちゃった、とか、疲れさせちゃったかも、とか」
「――気にするなってゆうのが無理ですよ……」
「車の中でイライラしてるトコを見ちゃったから?」
「そうゆうわけでもないですけど……。いや、それもあるかな……?」
「どっちなんだよ」
高遠さんは、あはは、と声を上げて笑った。
「絢のそんなトコも嫌いじゃないけどね。でも、せっかくだから素直に楽しんでもらわないと」
高遠さんに言われ、私はまた、「ごめんなさい」を言いそうになったけれど、あと少しのところで飲み込んだ。
「それじゃ、せっかく来たからもう少し歩こう」
高遠さんの言葉に、私は素直に頷いて見せた。やはり、せっかく来た以上はすぐに帰ってしまうのももったいない。
どこまでも続く桜並木はとても綺麗だし見応えがあると思った。県内でも有数の名所だから、国内だけでなく、海外の人も時おり見受けられる。
「人の多さはともかく、こうしてのんびりと歩くのも悪くないな」
高遠さんが不意に口を開いた。
「毎日仕事に追われていると、自然に触れることもほとんどないからね。花見らしい花見もここ数年はロクにしてないし、やっぱり来て良かったかもしれない」
「そうですね」
私も桜の木を見上げながら続けた。
「桜が咲くと、春が来たんだな、って嬉しくなりますし。でも、散るのもあっという間ですけどね……」
「確かに。だからなおのこと、桜を綺麗なうちに一目でも見ておこうって思うのかもしれないね」
「あれ、高遠さんって結構ロマンチストだったりします?」
「ん? 俺変なこと言った?」
「いえ、ちょっとビックリしただけです」
「うーん、別に大したことは言ってないと思うけど……」
高遠さんにとってはさり気ない台詞だったのかもしれない。でも、正直なところ、桜を愛でる気持ちを強く持っているとは考えていなかった。
「高遠さんも桜が好きなんですね」
ニコニコしながら言うと、高遠さんは、「嫌いな人間はいないだろ」と少し不貞腐れたように答えた。それがちょっと可愛く思え、またさらに笑いが込み上げてきた。
「大人をからかうんじゃないよ」
「私も成人してますけど?」
「そりゃそうだけどね……」
なおも笑い続ける私に、高遠さんはとうとう諦めたように深い溜め息を漏らした。
◆◇◆◇
桜並木を一通り歩いてから、私と高遠さんは車に戻った。外でお弁当を食べるつもりだったのだけど、どこもかしこも人がいっぱいで、結局、高遠さんのアパートに行って食べようということに落ち着いた。天気がいいから外が良かったけれど、私も高遠さんもふたりきりでのんびり出来ることを最優先に考えた。
車を降り、桜並木の続く公園の中まで入った時にも人の多さに目眩がしそうだった。本当は元々、私は人混みが得意ではない。それでも私は、高遠さんとお花見がしたかった。
「疲れてない?」
手を繋いで私と並んで歩いていた高遠さんが声をかけてくる。
私は少し躊躇ったけれど、正直に「ちょっと」と答えた。
「分かってたけど、人が多過ぎますね……」
「そうだね。ここは平日でもそれなりに人が来るから」
深い意味はなかったのかもしれない。でも、高遠さんの言葉に私の胸がチクリと痛む。やはり、疲れているのに無理をさせてしまったのではないか、と。
「ごめんなさい……」
つい、謝罪が口から出た。
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「絢のことだから、どうせ気にしてるんだろ? 無理させちゃった、とか、疲れさせちゃったかも、とか」
「――気にするなってゆうのが無理ですよ……」
「車の中でイライラしてるトコを見ちゃったから?」
「そうゆうわけでもないですけど……。いや、それもあるかな……?」
「どっちなんだよ」
高遠さんは、あはは、と声を上げて笑った。
「絢のそんなトコも嫌いじゃないけどね。でも、せっかくだから素直に楽しんでもらわないと」
高遠さんに言われ、私はまた、「ごめんなさい」を言いそうになったけれど、あと少しのところで飲み込んだ。
「それじゃ、せっかく来たからもう少し歩こう」
高遠さんの言葉に、私は素直に頷いて見せた。やはり、せっかく来た以上はすぐに帰ってしまうのももったいない。
どこまでも続く桜並木はとても綺麗だし見応えがあると思った。県内でも有数の名所だから、国内だけでなく、海外の人も時おり見受けられる。
「人の多さはともかく、こうしてのんびりと歩くのも悪くないな」
高遠さんが不意に口を開いた。
「毎日仕事に追われていると、自然に触れることもほとんどないからね。花見らしい花見もここ数年はロクにしてないし、やっぱり来て良かったかもしれない」
「そうですね」
私も桜の木を見上げながら続けた。
「桜が咲くと、春が来たんだな、って嬉しくなりますし。でも、散るのもあっという間ですけどね……」
「確かに。だからなおのこと、桜を綺麗なうちに一目でも見ておこうって思うのかもしれないね」
「あれ、高遠さんって結構ロマンチストだったりします?」
「ん? 俺変なこと言った?」
「いえ、ちょっとビックリしただけです」
「うーん、別に大したことは言ってないと思うけど……」
高遠さんにとってはさり気ない台詞だったのかもしれない。でも、正直なところ、桜を愛でる気持ちを強く持っているとは考えていなかった。
「高遠さんも桜が好きなんですね」
ニコニコしながら言うと、高遠さんは、「嫌いな人間はいないだろ」と少し不貞腐れたように答えた。それがちょっと可愛く思え、またさらに笑いが込み上げてきた。
「大人をからかうんじゃないよ」
「私も成人してますけど?」
「そりゃそうだけどね……」
なおも笑い続ける私に、高遠さんはとうとう諦めたように深い溜め息を漏らした。
◆◇◆◇
桜並木を一通り歩いてから、私と高遠さんは車に戻った。外でお弁当を食べるつもりだったのだけど、どこもかしこも人がいっぱいで、結局、高遠さんのアパートに行って食べようということに落ち着いた。天気がいいから外が良かったけれど、私も高遠さんもふたりきりでのんびり出来ることを最優先に考えた。
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