元黒聖女シャーロットはもう祈らない

くま

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祈らない者

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ざわめきに満ちていたはずの大聖堂から、音という音が消え失せる。誰もが、今、私が口にした言葉の意味を測りかねていた様子だった。

「……な、にを……」

最初に声を失ったのは、ラージル神官だった。
差し伸べていた手が、空中で止まり、指先がわずかに震えている。

「神を、信じない……?栄誉ある聖女に、ならない……?」

まるで聞き間違いだと言いたげに、彼は笑みを作ろうとした。だが、その笑顔はひどく歪み、目の奥には隠しきれない焦りがあった。

「冗談だろう?君ほどの聖力を持つ者が……神に選ばれた証だ。拒む理由など――」

「あります」

前世の記憶が、背中に冷たい影を落とす。
暗い地下、鎖、鞭、そして――祈ることを強要される日々。

「………私は、自分の力は“神のため”には使わない」

ラージル神官の顔色が、目に見えて変わった。彼は一歩、私に近づき、声を低くする。

「……君は、自分が何を言っているかわかっているのか?
これは教会への反逆だ」

私は微笑んだまま、視線を逸らさない。

「この力は、教会の為ではありません」

ユリウスは、私の手をぎゅっと掴んでくれた。

「シャーロット……」

彼の声は低く、怒りと不安が混じっていた。それでも、私の言葉を止めようとはしなかった。
ラージル神官は、ぐっと大声を出すのを歯を食いしばりながら話す。

「…なるほど、聖女の道は拒むと、、、カイロス殿、貴方がこの子を見つけてくれたのは我々と同じだとは思っていたが、、なるほど……」

「はい。聖力を持っていても、聖女としての道だけではありませんよね」

その間に、義父――カイロスが、静かに前へ出た。

「娘の意思です」

低く、揺るがない声。

「我が家は、この決断を支持します。これ以上の干渉は、貴族として看過できません」

貴族、という言葉に、ラージル神官の喉が鳴る。

「…しゅ、週に一度は来ないといけない。これは聖力のある者としての義務だ。まだ彼女は幼くコントロールもできない」

「いや、月に一度通うぐらいなら構わん。シャーロットはこの辺のゴロツキより上手いだろう」


月に一度だけ、教会へ足を運ぶこととなるが、こうして、前代未聞な事に、瞬く間にこの噂は広まった。
聖女の力を持っていても祈らない者がいるとーー。


シャーロット達が大聖堂を去ったあとも、場の空気は元に戻らなかった。認定が続けられてはいたが、誰が前に出ても、誰がどれほどの白光を放っていても、その度に、囁き声が交わされる。

「さっきの……見た?」

「測定不能って……なに、あれ……」

「黒髪なのに……」

話題の中心は、ただ一人。
既にいないシャーロット・フィナンシェだった。

「聖女を辞退した、って本当かしら?」

「神を信じないって……そんなの、あり得るの?でも噂で病院とやらを設立する準備をしてるってーーー」

恐れと好奇、そして――僅かな羨望。それらが混じり合った視線が、いつの間にかオフィーリアへ向けられていた。
「……あ、でもオフィーリア様なら、安心ですよね」

「次期聖女は、やっぱりオフィーリア様だわ」

そう言われるたびに、オフィーリアは優しく微笑みかけていた。

「そんな……私は、あの方のような力は持っていません」

控えめな言葉と謙虚な態度。
けれど――胸の奥では、別の感情が渦巻いていた。


全てが終わり、皆が帰る中教会で一人女神の像に祈っているオフィーリアは悔しがっていた。
爪が、手袋の内側で、きゅっと握り締められる。

「どうして、あんな子が……私より目立つわけ」

白光を放ったはずの自分よりも、祝福されるべき自分よりも。

圧倒的に、向こうの力が強かったのだから。


「…いえ、私が1番だわ。そうでしょう?神様」

そうオフィーリアは呟いていた。






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