元黒聖女シャーロットはもう祈らない

くま

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お化けがいるかいないかとか

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遠い昔――そう遙昔のお話。

まだ「聖女」という存在が生まれる以前、この世界には人間だけでなく、魔獣や精霊たちも当たり前のように同じ大地に生きていた。

人の数が増えるにつれ、争いは生まれ始まる。魔獣たちは人間を「土地を穢す存在」とし、山へ、森へ、川の奥へと身を引き、人との共存を拒ばむ。
一方、精霊たちは違った。彼らは人間の中にも善き心を見出し、共に生きる道を模索していた。
そんな対立の最中、一人の少女が現れる。癒やしの力を持ち、誰にも敵意を向けず、ただ祈り、手を差し伸べ続けた少女――
後に「初代聖女」と呼ばれる存在である。
精霊たちは彼女に応え、選ばれた人間にも癒やしの力を分け与えた。
それが、この国に伝わる聖女の始まりの物語だ。




まだ春は来ず、急に真っ白な雪の景色になった屋敷の外。
私達は義母と一緒に、聖女のお話を聞いていた。

「ふふふ、それでね」

暖炉の火がぱちりと弾ける音の中、義母レイチェルは少し声を潜めた。

「私たちのご先祖様が封じた“魔獣の鏡”――そう呼ばれているものが、東の塔に置かれているの」

「東の塔……すか?あ、向こうの古ぼけたとこ?」

ソラが小さく首を傾げ、義母レイチェルは意味ありげに微笑んだ。

「そうよ、だけどね、東の塔には――出るんですって」

「「「なにが?」」」

声が揃った瞬間、空気がぴたりと止まる。

「お化け、よ」

あっさりと言い切られ、シャーロットは「あ、、ありえないわ」と肩をすくめた。

「そそそそんな非現実的なもの、いるはずないわ!」

そう私が言うと、右隣にいたソラは「聖力もつ人間とかも結構珍しいーけど」とつっこんでいた。

前世では大人だったとはいえ、今は子供。――しかも、幽霊や怪談は大の苦手なのよ!!!
なのに、対照的に、ユリウスとソラは目を輝かせていた。

「ユリウス様!行ってみよう!」

「‥…剣で切れるかな」

「俺、最近爆竹とか開発したんで大丈夫だね!」

いや、ソラよ。君は将来有望な薬剤師なのに、今とても不吉な事を口にしてたわよ!?

「え、ちょ、雪がとても積もってるし、ゆっくり今日は本でも、、、」

そう私が話すと、二人は瞳をキラキラして私を見つめる。
駄目だ。断れないわ、、。

最近のユリウスとソラは、仲良しというか、なんというか、、、止める間もなく話は決まり、その日の夕暮れ、私達三人は東の塔へ向かった。

東の塔は、思ったより静かだった。風もなく、鳥の声すら聞こえない。

「……ねえ、何も出ないじゃないのか、かしら」

シャーロットが少し安堵したように言った、その時。
――カラン。
どこかで、小さな金属音が鳴った。

「……今の、聞こえたか?」

ソラが足を止めなんだか物騒な物を手にとり、ユリウスは木刀の剣を持ち構える。

塔の奥を登っていくと、埃をかぶった鏡が立てかけられている。その表面には、三人の姿が映っていた。

「…‥鏡、ですね」

「ただの大きい鏡じゃん」

そうユリウスとソラは後ろを振り向くと、いつも冷静なシャーロットがプルプルと震えており、少し弱々しい声で

「ね、ねえ、もういいでしょ?か、帰ろう?」

涙目の彼女を見て二人は頬を赤らめて固まったその時だった。鏡には、私達三人ではない、大人の、、、、

大人になっている私と、ユリウス、ソラだった。

かつての、、、自分だわ。私はニッコリと微笑んでいた。

え!?な!?一瞬だけ、映ったような気がしたたたたたた?!

「姉上?どうされましたか?」

ユリウスが鏡をもう一度見ても、鏡は先ほどのまま。



「……………もう、むりぃ」

シャーロットの声は、少しだけ震えていた。

シャーロットは一歩下がると、次の瞬間、、、
ふわり、と光が灯った。淡く透き通るような光。
それは鏡の中から溢れ、シャーロットの足元へと落ちた。

音楽が鳴り始まる。知らない音楽と女の子の声、、、

「こりゃ、わけわからんな!帰ろうぜ!いや、ユリウス様、その光は剣で切れない!」


「む、無理無理無理!!聞いてない!!」

恐怖が一気に押し寄せ、足から力が抜ける。

「姉上っ」

――へたり、、

腰が抜けて、その場に座り込んだ私を見て、ユリウスは一瞬だけ驚いた顔をして――次の瞬間、迷いなく背を向けた。

「……乗ってください」

「え?」

「早く」

状況を説明する余裕はない。
私を背負った瞬間、ユリウスは足早に階段を降りた。

「走るぞ!!」

三人は全力で駆け出した。塔を飛び出した瞬間、背後で――
何かがパリンと鏡が壊れた、音を立てた。振り返る余裕はない。
外に出た途端、すべてが嘘のように静まり返る。




「……生きてる?」

ソラが息を切らして言う。

「……生きてる……」

シャーロットはユリウスの背中にしがみついたまま、ぐったりしていた。

「……もう大丈夫だよ。ユリウス、、ありがとう」


雪が積もっている地面に、私達三人は倒れ込んだ。



「……お化けいたな」

「……切れませんでしたね」

「私はもう二度とあそこに行きたくないわ」

ぷんすかと怒る私を見て、珍しくわかりやすく笑った顔をするユリウス。

「な、なんで笑うの?!」

「……いえ、ただ可愛いと思いました」



9歳の子に、お化けが苦手と知られて、可愛い言われる私って、、、、
なんだか、今日はどっと疲れてしまった。

もう少しで病院の設立が完成するわね……

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