元黒聖女シャーロットはもう祈らない

くま

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聖女見習いオフィーリア

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聖力認定日ーーー

その日、王都の大聖堂は、朝から異様な熱気に包まれていた。白い石造りの広間には、教会関係者、貴族、そして聖女見習いたちが集められている。

「……緊張している子がほとんどですね」

「君は緊張してないようにおもえるな」

義父の言葉に同意したのか、ユリウスも同じくコクンと頷く。私達の声は、ざわめきに紛れて消えていき、祭壇の前には、認定用の星の形をした聖具が並んでいた。

中央の玉座には――ラージル神官が私達を見下ろすかのように座っていた。その姿を見ただけで、胸の奥がムカムカする。相変わらず、嫌な気配というか‥‥。
ラージルは、穏やかな笑みを浮かべながらも、その目は獲物を値踏みするように、見習いたちを見渡している。
客席の一角には、見覚えのある顔もあった。

「あ」

白と青の制服でかつて森でソラを虐めていた、教会の見習いの子供たちだ。こちらに気づくと、ひそひそと囁き合い、私を見て、露骨に顔をしかめる者もいる。

「……黒い髪の子、なんだか不気味じゃない?」

「聖女見習いなのに……」

前世でも、同じことを言われたけど、なんとも思わないわ。

「ユリウス、我慢しろ」

何故か義父がユリウスを宥めていた。トイレを我慢しているのかしら。私はユリウスの肩をポンとたたき、

「いいのよ、ユリウス。トイレに行ってきても」

そう私が声をかけると、ユリウスの瞳は何故か冷めていた。

やがて、見習いたちが一列に並ばされる。
白、金、淡い栗色――光を思わせる髪色の中で、私の黒髪は、ひどく浮いていた。

その時だった。

「ねえ、貴女が噂のシャーロットさん?」

聞き覚えのある、柔らかな声、振り向くと、そこに立っていたのはピンク色髪の少女だった。
彼女が現れると、皆一気に彼女に見惚れていた。
清楚なドレスを身につけて穏やかに微笑む姿は、まさに“聖女”の理想像なのだ。彼女の母親である人は私を見て嫌悪感を出していた。
確かオフィーリアの母親とラージル神官は兄妹だっけ?

オフィーリア‥‥‥

胸の奥が、きゅっと締め付けられる。
前世で、唯一、信じていた友人であり、そして――“白の聖女”と称えられた彼女は、私を裏切った張本人。
聖力を奪い、虐げ、必要ないと判断をしたら、殺そうとするのだから。


そう言いながらも、視線は一瞬、シャーロットの髪へ落ちる。

「黒髪……珍しいわ。少し驚いたけれど」

その口調は柔らかいけど、わかる。どこか“評価する側”の響きがあるわね。

「一緒に頑張りましょうね!」

オフィーリアは、安心させるように微笑むが、いますぐに髪を抜きたいぐらい。

自分は問題なく通るという自信が透けて見え見え。
オフィーリアは、義父カイロスとユリウスの存在に気づいて挨拶をする。‥‥ユリウスもここで、彼女に惚れたのよね‥‥。

「ユリウス様ですよね。学園では学年は違いますが、貴方の事はよく聞いてます!剣術に長けていると」

「……そうですか」

あまり、彼女に‥…興味がないのかしら?ユリウスはすぐに私の手を引っ張りだし、離れていった。


周囲の見習いたちは、自然とオフィーリアの周りに集まり始める。

「オフィーリア様は、聖力がお強いと受けているんですって」

「さすが次期聖女様!」

称賛の声に、彼女は控えめに首を振る。

「そんな、大したことじゃないわ…」

そう言いながら、その立ち姿には揺るぎない余裕があった。

その時、ラージル神官が立ち上がった。

「――これより、聖力認定を始める。名を呼ばれた者から、前へ出なさい」

一人、また一人と、見習いたちが進み出る。

白い光が聖具から溢れ、安堵と称賛が広がる。
オフィーリアが呼ばれた時、彼女は迷いなく前へ進み、完璧な所作で聖具に触れると、柔らかな白光。

「……素晴らしいな。我が姪っ子だ」

ラージル神官が、満足げに頷き、戻ってきたオフィーリアは、穏やかな笑みのまま、私を見て声をかける。

「次、あなたね」

その瞳は、優しい。けれど――

「……次、シャーロット・フィナンシェ、、黒髪、か」

名を呼ばれ、
私は一歩、前へ出ると、ラジール神官は私を見て品定めするような、、いや、何故かしら?私の姿を見て一瞬驚いていたような気がする。そのあと、嫌な笑顔を私に向けた。


ラージル神官の合図で、私は祭壇中央へと進む。星型の聖具は、先ほどまでと同じ――はずだった。
手を伸ばし、そっと触れた瞬間ーー

――空気が、震えた、、白でも、金でもない。
澄み切った光の奥から、深く、濃く、圧倒的な輝きが溢れ出す。

それは“眩しい”というよりも、

見ている者の心の奥まで照らし出すような光だった。

「……っ!?」

ざわ、と広間が揺れる。聖具は音を立てて共鳴し、床に刻まれた古い紋様が一斉に浮かび上がった。誰かが息を呑む音が、はっきりと聞こえる。
光は天井近くまで立ち昇り、まるで一本の柱のように私を包み込む。

「……こ、これは……ヤツと同じ…はは」

ラージル神官の声が、かすれていた。彼は立ち上がることも忘れ、玉座から身を乗り出している。
その顔から、さきほどまでの余裕と嘲りは消え失せていた。

「コホン!記録に……いや、これは……聖力、測定不能」
ぽつりと、神官は呟いた。

オフィーリアの方を見ると彼女は微笑んでいたが、目は笑っていない。瞳の奥が――明らかに濁っている。
爪が、ドレスの裾に食い込んでいた。

「……すごい、わね」

 
ほんの一瞬だけ、彼女の完璧な仮面が、ひび割れるのを、私は確かに見た。


前世と同じね。この時から、彼女は私を敵視していたはず。
自分が“一番”でなければならない。
自分より上の存在を、決して許さない。

ラージル神官は、ゆっくりと私の方へやってきた。ここまでは、前前世の通り、彼は私に優しく手を差し伸べて教会へと誘うのだ。


「……シャーロット・フィナンシェ。君とオフィーリアでこの教会を支えてくれ。次の聖女としてーー」

私は彼に微笑みながら答えた。

「私は、神になんて祈りたくないわ。神など信じないし、聖女にもならない」

そう言いきった。


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