元黒聖女シャーロットはもう祈らない

くま

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義弟ユリウス

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屋敷の廊下は、相変わらず静かだわ。
それにしても、、、聖力が成人並みにあるのがわかる。
まだ、この頃はコントロールさえもできず、ただ少ししか聖力が発揮してなかったのに‥‥

「…こんな力、いらないのに」


曲がり角の向こうから、ぱたぱたと小さな足音が近づいてくる。

 「……あ」

現れたのは、私より背の低い少年だった。
義父と同じ、淡い銀髪。まだ幼さの残る顔立ちだが、その色だけははっきりと“この家の血”を示している。

 ――ユリウス・フィナンシェ。

私の義弟で、年下の男。私と彼は良好な関係ではなかった。義父と同じくいつも私を睨みつけて、何を考えているかわからない男だったのだから、当時の私は義父以上に、彼が怖くて苦手だった。

聖女と任命され、避けて教会へ通い、顔を合わせないと思っていたのに、、、聖騎士の団長となっていた。
彼もまた、白聖女のオフィーリアに惹かれていたのだから……いつも彼女のそばにいた一人だものね。

とはいえ、まだ幼い彼を見ると、なんだろう…少し可愛いくみえちゃうわ。うん、年ね、、、中身は日本で育ったアラサーだもの。怖いとすら感じない。小さな子供はやっぱり可愛いとしか思えない。

彼は両手で何かを大事そうに抱えていた。

「……こんにちわ」

「あ、はい、こんにちわ僕」

「「…‥…」」

僕と呼んでしまった。今の私も対して変わらないのに、なんだか飴ちゃんあげたくなる、、、うん、気まずいわね。まあ、急に姉が出来て、戸惑っているのはわかるし、他人がきて嫌だろうから‥。

「……あの…これ…‥」

相変わらず無表情、いや、少し遠慮がちな顔に差し出されたのは、小さな白い花だった。

「……庭に咲いてたんです。母上がきっと好きだと思って。どうでしょうか」

「……あ、もしかして、お見舞い?」

私がそう尋ねると、ユリウスはこくりと頷いた。

「………今日は少し、起きていられるって」

「あっ!」

思い出した!私がこの屋敷に引き取られて間もなく、義母の容体は急激に悪化し、ベッドから起き上がることもできなくなったのだ。

そして、ほどなくして、3ヶ月後に亡くなった。

 『あの子が来てから、奥様は弱った』

 『やっぱり、悪魔の子なんじゃ……』

そう囁かれ始めたのは、あの日からだ。

 「ねえ、一緒にお見舞いへ行っていい?」

そう言うと、ユリウスは一瞬だけ目を丸くし、また無表情でコクンと頷くだけだった。
いや、やはり子供ながらに何を考えているよくわからないわ。でも、顔は可愛いらしい。

私は、その小さな背中についていき屋敷の奥へと向かう。
扉をノックすると、中から柔らかな声が返ってきた。

 「どうぞ」

部屋に入ると、そこには穏やかな笑みを浮かべた女性が、ベッドに腰掛けていた。義母だわ。顔色はまだ良くて、前の人生で感じた“死の気配”は、まだないわね。

「あら、まあ……」

彼女は私を見ると、ぱっと表情を明るくした。

「シャーロットちゃん、来てくれたの?」

あまり関わって来なかった義母だけど、優しい雰囲気の人ね。

「……あの、母さま、これ」

ユリウスが花を差し出すと、義母は本当に嬉しそうにしていた。

「あら、可愛い!ありがとう、ユリウス」

それから、私の方を見て手招きする。

「あなたも、こっちへいらっしゃい」

ためらいながら近づくと、彼女は私の手を、そっと包み込んだ。うん、、、温かい。

「ふふ、孤児院から来たばかりでしょう?慣れない場所で、不安よね。大丈夫よ。あなたは、うちの娘なんだから!主人も娘が出来たと喜んでたのよ」

え、いや、それはないでしょう。あのお義父様が喜ぶ姿、、、想像出来ないです、奥さん。

前の人生では、彼女は容体を崩した。そして私は、“悪魔の子”になった。聖女の力とやらが、強くても見た目が陰気な為、黒の聖女と呼ばれる始末だった。


 「ねえ、シャーロットちゃん甘いお菓子は好きかしら?」
 
 「あ、甘いものより、ビールです」

 「え!?だめよ?!大人になってからよ?!」


私、今10歳だったのを忘れていたわ。隣りにいるユリウスは、口をポカンと開けており、義母は私にお菓子をあげながら「お酒は大人になったらね」と言い、私とユリウスは部屋へと出る。

義母の手は温かったな。それに、まだ、死んでいない。

私は自分の部屋へと戻ろうとすると、近くにいたメイド数人が私をみて怪訝な顔をしながら、頭を下げて小声で

「……不気味な髪色だわ」

そう言いながら去っていった。

ふぅとため息を吐くと、私の背中をツンとさしてきたのはユリウスだった。なるほど、ユリウスがいたから先程のメイド達は頭を下げたのね。たしか……いつも無視されてたからね。

ユリウスは相変わらず無表情のまま、私に小さな飴を渡す。

「なんで飴なの?」

「……ビールじゃないけど、これあげます」

パッと渡して、走り去るユリウスの後ろ姿を私は少しだけ見つめた。

変な感じだわ。あの子と、久しぶりに、、いやまともに?話したかも…

「飴ちゃん、あげるのは私の方じゃない?」

そう私はつぶやいた。

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