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体力作り
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ユリウスの背中が角を曲がって見えなくなるまで、私はその場に立ち尽くしていた。
「飴、か」
手のひらの小さな包みを見下ろしながら思い出す。前の人生でも、二度目の人生でも、誰かが私を気遣って何かをくれるなんて、ほとんどなかった。
いや、木下君からビールはご馳走になったけど、飲んでないからノーカウントだわ。
それにしてもあの義弟が飴をくれる日がくるとは。不思議な事もあるものだわ。
私は教会へ行く時、青年になったユリウスと最後に話たのは…
【私を嫌っているのはわかっているから、これからは聖女として、教会で住んで人々の為に祈るわ】
【………そうですか】
それだけだった。
それからというもの、私はユリウスと一緒に、よく義母の部屋を訪れるようになった。
「……母上、今日は調子どうですか」
ユリウスは相変わらずぶっきらぼうに声をかけるが、けれど、その手には必ず何かがあった。庭の花だったり、難しい本だったり、子供だった時は知ろうとしなかったけれど、、、子供の頃のユリウスは母親想いの子ね。
「まあ、二人とも、今日も来てくれたのね」
義母は、ベッドの上で穏やかに微笑む。前回は、この人達と関わろうとせずにしていたけれど、、、
「あの、夫人」
「…お母様とは呼んで欲しいわ」
「…こほん、えっと、、お義母様」
「なあに?」
私は、ベッドの横に椅子を引き寄せながら言った。
「ずっと寝てるだけじゃ、余計に体が弱わまります!」
ユリウスは驚いたようにこちらを見る。義母は、きょとんとした顔をしたあと、困ったように笑った。
「でも……立つと、すぐ息が上がってしまって……」
「じゃあ、まだ立たなくていいです」
私は即答した。
「まずは、座る!次は、部屋の中を少し歩く!それで十分のーー」
……前世、日本でブラック労働者である、私の謎の実践知識であるもの。病弱だけど、、うん、これ正直環境が悪いと思うんだよね。陽の光を浴びねば!!ご飯食べて!
「シャーロットちゃん、それは……」
「体力作りですよ。あと、ご飯」
「ご、ご飯?」
「そう。食べないと回復しないですよ」
ユリウスも小さく頷く。
「……母上は昨日、ほとんど食べていませんでしたね」
「えぇ……ユリウスまで……」
義母は苦笑しつつも、どこか嬉しそうだった。なぜ?
最初は、本当に短い距離だった。ベッドから起き上がり、窓辺まで行くだけくらい。その間、私は義母の腕を支え、ユリウスは反対側からそっと手を添える。
「……大丈夫ですか?」
「ええ……ふふ、二人に挟まれるなんて、贅沢ね!」
そんな冗談を言えるくらいには、顔色も少しずつ良くなっていった。屋敷の廊下を歩くようになると、使用人たちは驚いた顔をした。
「奥様が……歩いていらっしゃる……?」
ひそひそと、噂が走る。でも、以前のような不吉な囁きではなかった。
「今日は、廊下の突き当たりまでですよ」
「……それよりも、シャーロットちゃん、私に敬語はやめてちょうだい。貴女も私の大事な家族よ。春休みが終わったら、学園へ通わなければいけないわね?忙しくなりそうね、でも私はねーー」
そう、ずっと義母がおしゃべりをしているとあっというまに散歩という体力作りは終わる。
散歩の後は、必ず軽めの食事をするようにした。
「今日はスープを多めにしましょう」
「……お肉も」
「ふふ、お肉大好きよ。あら、ユリウスは苺が好きねえ。シャーロットちゃんは、、、何故かつまみ類ね…」
まるで、家族の食卓のような会話で、義母は嬉しそうに食事をして、少しずつ、でも確実に、食べる量が増えていく。
「シャーロットちゃんは、好きなものある?」
「……え、びー」
「それは、だーめ!」
即座に却下されるのが、もはや恒例になっていた。
そのたびに、ユリウスが「……姉上は変です」と呟くのだ。
「失礼ね。正直なだけよ」
そう言い返すと、彼はほんの少しだけ、笑った……気がする。
そんな日々が、しばらく続いた。だからこそ、油断していたのかもしれない。その日の朝、義母はいつもより息が荒く、顔色も悪かった。
「……少し、疲れただけよ」
そう言って笑ったけれど、私は見逃さなかった。
――前回と、似ている。胸の奥が、嫌な音を立てる。
「今日は散歩、やめましょう」
「え……?」
「休養日。無理は禁物ですからね。また夕方頃にユリウスときますね」
そう私達は義母とわかれた。
夕方になると、ユリウスは庭で剣を振り、私はその近くで木陰に座って眺める。時々、彼が転びそうになると「今のは足運びが悪いわね」なんて、前世でも前々世でも関係ない素人意見を言ってみたりしていた。そんな私の言葉に、無表情のまま私の方を見て話すユリウス。
「……姉上は剣がわかるんですか」
「え?わからないわよ」
即答すると、ユリウスは一瞬固まって、それから「……ですよね」と小さく呟く。そうやって、少しずつ、言葉を交わす回数が増えていくのに、なんだかもう慣れてしまったわ。
屋敷の中では相変わらず、冷たい視線や小声の陰口がつきまとう。それでも、ユリウスが近くにいると、使用人たちは露骨な態度を取らなかった。
お義母様も……本当に優しい方で、なんだか戸惑ってしまう。
成人したら、この国を出て平民生活をしようと計画する事を考えていた。
屋敷内へと帰ると、屋敷中が慌ただしくなった。
「奥様の容体が……!」
廊下を駆ける足音、青ざめたメイドたちの顔。胸が、嫌な予感で締め付けられる。
――来た。
前回と同じだ。ここから、歯車が狂い始めた。
「飴、か」
手のひらの小さな包みを見下ろしながら思い出す。前の人生でも、二度目の人生でも、誰かが私を気遣って何かをくれるなんて、ほとんどなかった。
いや、木下君からビールはご馳走になったけど、飲んでないからノーカウントだわ。
それにしてもあの義弟が飴をくれる日がくるとは。不思議な事もあるものだわ。
私は教会へ行く時、青年になったユリウスと最後に話たのは…
【私を嫌っているのはわかっているから、これからは聖女として、教会で住んで人々の為に祈るわ】
【………そうですか】
それだけだった。
それからというもの、私はユリウスと一緒に、よく義母の部屋を訪れるようになった。
「……母上、今日は調子どうですか」
ユリウスは相変わらずぶっきらぼうに声をかけるが、けれど、その手には必ず何かがあった。庭の花だったり、難しい本だったり、子供だった時は知ろうとしなかったけれど、、、子供の頃のユリウスは母親想いの子ね。
「まあ、二人とも、今日も来てくれたのね」
義母は、ベッドの上で穏やかに微笑む。前回は、この人達と関わろうとせずにしていたけれど、、、
「あの、夫人」
「…お母様とは呼んで欲しいわ」
「…こほん、えっと、、お義母様」
「なあに?」
私は、ベッドの横に椅子を引き寄せながら言った。
「ずっと寝てるだけじゃ、余計に体が弱わまります!」
ユリウスは驚いたようにこちらを見る。義母は、きょとんとした顔をしたあと、困ったように笑った。
「でも……立つと、すぐ息が上がってしまって……」
「じゃあ、まだ立たなくていいです」
私は即答した。
「まずは、座る!次は、部屋の中を少し歩く!それで十分のーー」
……前世、日本でブラック労働者である、私の謎の実践知識であるもの。病弱だけど、、うん、これ正直環境が悪いと思うんだよね。陽の光を浴びねば!!ご飯食べて!
「シャーロットちゃん、それは……」
「体力作りですよ。あと、ご飯」
「ご、ご飯?」
「そう。食べないと回復しないですよ」
ユリウスも小さく頷く。
「……母上は昨日、ほとんど食べていませんでしたね」
「えぇ……ユリウスまで……」
義母は苦笑しつつも、どこか嬉しそうだった。なぜ?
最初は、本当に短い距離だった。ベッドから起き上がり、窓辺まで行くだけくらい。その間、私は義母の腕を支え、ユリウスは反対側からそっと手を添える。
「……大丈夫ですか?」
「ええ……ふふ、二人に挟まれるなんて、贅沢ね!」
そんな冗談を言えるくらいには、顔色も少しずつ良くなっていった。屋敷の廊下を歩くようになると、使用人たちは驚いた顔をした。
「奥様が……歩いていらっしゃる……?」
ひそひそと、噂が走る。でも、以前のような不吉な囁きではなかった。
「今日は、廊下の突き当たりまでですよ」
「……それよりも、シャーロットちゃん、私に敬語はやめてちょうだい。貴女も私の大事な家族よ。春休みが終わったら、学園へ通わなければいけないわね?忙しくなりそうね、でも私はねーー」
そう、ずっと義母がおしゃべりをしているとあっというまに散歩という体力作りは終わる。
散歩の後は、必ず軽めの食事をするようにした。
「今日はスープを多めにしましょう」
「……お肉も」
「ふふ、お肉大好きよ。あら、ユリウスは苺が好きねえ。シャーロットちゃんは、、、何故かつまみ類ね…」
まるで、家族の食卓のような会話で、義母は嬉しそうに食事をして、少しずつ、でも確実に、食べる量が増えていく。
「シャーロットちゃんは、好きなものある?」
「……え、びー」
「それは、だーめ!」
即座に却下されるのが、もはや恒例になっていた。
そのたびに、ユリウスが「……姉上は変です」と呟くのだ。
「失礼ね。正直なだけよ」
そう言い返すと、彼はほんの少しだけ、笑った……気がする。
そんな日々が、しばらく続いた。だからこそ、油断していたのかもしれない。その日の朝、義母はいつもより息が荒く、顔色も悪かった。
「……少し、疲れただけよ」
そう言って笑ったけれど、私は見逃さなかった。
――前回と、似ている。胸の奥が、嫌な音を立てる。
「今日は散歩、やめましょう」
「え……?」
「休養日。無理は禁物ですからね。また夕方頃にユリウスときますね」
そう私達は義母とわかれた。
夕方になると、ユリウスは庭で剣を振り、私はその近くで木陰に座って眺める。時々、彼が転びそうになると「今のは足運びが悪いわね」なんて、前世でも前々世でも関係ない素人意見を言ってみたりしていた。そんな私の言葉に、無表情のまま私の方を見て話すユリウス。
「……姉上は剣がわかるんですか」
「え?わからないわよ」
即答すると、ユリウスは一瞬固まって、それから「……ですよね」と小さく呟く。そうやって、少しずつ、言葉を交わす回数が増えていくのに、なんだかもう慣れてしまったわ。
屋敷の中では相変わらず、冷たい視線や小声の陰口がつきまとう。それでも、ユリウスが近くにいると、使用人たちは露骨な態度を取らなかった。
お義母様も……本当に優しい方で、なんだか戸惑ってしまう。
成人したら、この国を出て平民生活をしようと計画する事を考えていた。
屋敷内へと帰ると、屋敷中が慌ただしくなった。
「奥様の容体が……!」
廊下を駆ける足音、青ざめたメイドたちの顔。胸が、嫌な予感で締め付けられる。
――来た。
前回と同じだ。ここから、歯車が狂い始めた。
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