元黒聖女シャーロットはもう祈らない

くま

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シャーロットのご褒美

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義母の容体が安定したのを確認すると、神官たちは私を取り囲むように立った。

「シャーロット・フィナンシェ嬢」

最も年嵩の神官が、硬い声で切り出す。

「これほどの聖力、しかも制御ができている。教会としては、早急に教育を施す必要があります!」

……来たわね。

「明日からでも、教会へ。あぁ、正式な聖女候補として――」

「行かないけど」

神官の言葉を、私は静かに遮った。

「聖力認定日までは、教会へ行かないわよ」

部屋の空気が、ぴしりと張りつめる。

「な、それは……」

「規則は知ってる。でも、強制じゃないでしょう?」

私は淡々と続けた。

「教育を受けるかどうかを決めるのは、認定日以降。今は、フィナンシェ家の娘として、ここにいるもの」

神官たちは不満を隠さなかったが、義父が一歩前に出る。

「この件は、我が家で預かる」

それ以上、押し切ることはできなかったのだろう。
神官たちは名残惜しそうな視線を私に向けながら、屋敷を後にした。
部屋に残ったのは、私と義父、そしてユリウスだけだった。

義父は、しばらく黙って義母の様子を見てから、私の方を向いた。

「……シャーロット」

「はい」

「今回は、助けてくれてありがとう」

短い言葉だったが、そこに偽りはなかった。

「褒美を取らせよう。欲しいものはあるか?」

私は、少し考えた。宝石でも、衣装でも、権限でもない。
そういうものは、結局、誰かに奪われる。

「……褒美というより」

私は、正直に言った。

「自分で稼げるようになりたいです」

義父が、意外そうに眉を上げる。

「稼ぐ?」

「ええ。いつでも、どこでも、一人で生きていけるように」

使われる立場ではなく、選べる立場でいたい。

「そのための“仕事”を作りたいんです」

義父は、興味を示すように腕を組んだ。

「……続けなさい」

「この世界では、治療といえば神官に頼るばかりです」

私は、言葉を選びながら話す。

「でも、薬草はあります。傷を縫う技術も、病を見分ける知識も。それを扱う人たちはいるのに、何故か立場が弱い」

義父は、黙って聞いている。

「神頼みだけじゃ、救えない命があります」

私は、義母を一度見た。

「だから、提案します」

視線を戻し、はっきりと言う。

「病院を作りましょう」

「病院……」

「神官の代わりじゃありません。補う場所です」

薬草による治療。他国の医療知識の導入。身分に関係なく、平民でも通える場所。

「教会は、どうしても貴族優先になります。でも、病院は身分を選ばない」

私は、少しだけ笑った。
「私は、そのような場所で働きたいです。
聖女とか興味ありません。“助ける手段”を、聖力だけに縛られたくないんです」

長い沈黙。義父は、やがて低く息を吐いた。

「……なるほど」

その目には、警戒ではなく、評価があった。

「確かに、それなら、、お前は、誰の庇護がなくとも、生きていけるか、すぐにとはいかないが……検討する価値は、十分にある」


義父は、しばらく考え込むように顎に手を当てていたが、やがて現実的な声で言った。

「ただし――病院を作るとなれば、一つ大きな壁がある」
私は顔を上げる。国王陛下の許可、だ」

やはり、そこか。

「医療施設の新設、しかも教会の管轄外となれば、王の勅許なしでは動かせん。教会が快く思わぬのは、目に見えている」

ずっと黙って聞いていたユリウスが、少し緊張した面持ちで口を挟む。

「…あの、陛下は……教会と、あまり折り合いがよくないと聞きます」

義父は、苦笑とも皮肉ともつかない笑みを浮かべた。
「ああ。仲が悪い、などという生易しいものじゃない」
そして、ぽつりと付け加える。

「『神などおらんおらん! おるなら、なぜ戦場で人が死ぬ』とな。教会側は顔を真っ赤にしていたが、陛下は一切取り合わなかった」

義父の視線が、私に向く。

「奇跡や聖力を否定しているわけではない。ただ――
“それだけに頼るな”という考えの方だ」

私は、思わず小さく笑った。

「……合理的ですね」

「だろう?」

義父は、ゆっくりと頷く。

「民を救う手段が増えるなら、それが神の力でも、薬草でも、知恵でも構わん。そういう御方だ、陛下が一番嫌うのは、“神の名を借りて、何もしない者”だ」

私は、一度陛下に会った事がある。黒聖女と呼ばれていた時、、、確か王太子もなくなり、次に陛下も具合が悪くなってきたのよね……お会いした時は既に私の当時の力では何もできず、、、陛下を殺したのは私だと黒い噂も広まっていたわ。

あの時私を見て、少し笑いながら同情の眼差しで私を見つめて話すのを覚えている。


『可哀想に……すまないな』


それだけだ。そうそれだけだった。


「あの、会ってみたいです。国王陛下に」

義父は、わずかに目を見開き、そして――彼は立ち上がり、私の肩に手を置く。

「まずは、陛下へ話を通そう」
その声音は、決断を含んでいた。







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