元黒聖女シャーロットはもう祈らない

くま

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大人達の会話

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馬車から降りたカイロスを目にした城の衛兵達は、背筋をピンとし緊張した顔でカイロスに挨拶をする。
カイロスは無表情のまま慣れた行き先へと歩く。白を基調とした大理石の廊下をまっすぐ歩き、国王がいる執務室へと向かいドアを叩いてから部屋へと入る。

王城の執務室は、相変わらず無駄に広く、何故かすぐ寝れる体制のある大きなベッドと、そしてソファーがあった。

「お、きたか。んで?」

自国の服装ではなく何処か異国のもののであろう、簡単なシルクの服に、机に足を投げ出したまま、王冠すら被っていない男が、面倒くさそうに言う。この国の王であるビートル国王だった。

「今度は何だ?カイロス。はっ!まさか今さら『信仰心に目覚めました』なんて言いに来たわけじゃないよな?聖女候補の子を養子にしたという話も聞いて、俺は驚いたよ」

「……お前の顔を見たら、神など信じる気も失せる。それにあの子を見つけたのは、私ではない。……息子のユリウスがシャーロットの存在に気づいたんだ」

「はっ、相変わらず口が悪いな」

「お前もだろう」

ビートル国王は、愉快そうに笑っていた。
この国の王に対してあまりにも不敬な態度だが、それを咎める者はいない。二人は、昔からの腐れ縁だった。

「んで?」

ビートルは肘をつき、視線を細める。

「あー、今回もまたお前の養子のことか?」

「……察しがいいな。そうだな、、、。うちの妻が倒れた。治療をしてもらうために、神官達を呼んだが、神官は『神の御心』だの何だの言ってばかりだったな」

そこで、言葉を切る。

「……妻を助けたのは、娘だ。娘の……シャーロット」

ビートルの眉が、ぴくりと動いた。

「……本当に、聖女か?」

「正確には、まだ“候補”だ」

「……ふん」

王は鼻で笑った。

「どうせ黒髪だの、赤い目だの言われてるんだろう」

「よくわかるな」

「もう有名だぞ。お前の養子は、まあ、教会や他の者達の考えることなんぞ、昔から同じだ」

ビートルは、椅子から立ち上がり、窓の外を見やる。

「で、その娘は祈ってなおしたんだな?」

「……いや」

カイロスは、少しだけ口角を上げた。

「祈らなかった。神は糞だといい、自分の意志で力を使った」

「糞だと?!あははは!いいじゃないか!亡くなった姉上みたいな事をいうじゃないか!」

ビートルが、声を上げて笑った。そんな国王の姿に少し呆れた様子のカイロスだった。

「……まだ話の続きはある。娘は目立ってしまった。あの力は教会までにも届いた。神官達はすぐにでも教会へ連れて行きたいと騒いでいた」

「まあ、だろうな。お前の息子ユリウスと歳は変わりないのだろう?凄いな」

カイロスは、真っ直ぐに王を見る。

「許可が欲しい」

「……何のだ?」

一瞬、空気が引き締まった。

「“病院”の設立だ」

ビートルの動きが止まる。

「ほう……」

「神官任せの治療では限界がある。薬草、外科、他国の医療知識――神に祈らずとも、助かる命はある」

「へえ、、、教会が黙っていないぞ」

「承知の上だ」

王は、真剣な目でカイロスを見つめる。

「病院を作るということは、教会の“治療独占”を崩すということだ。覚悟はしている」

少しだけ、父の顔になるカイロスにビートル国王は少し不思議そうな顔をする。

「なんで嬉しそうなんだ?」

「…娘が、、」

「え?なんだ、娘が?」

「しっかり者だと感動している。あの子は可愛らしい」

「……いや、くそ真面目で無表情に語られても気持ち悪いんだけど…」



「…とにかく、だ。今はまだ前に出さない。まずは、私が動く」


ビートルは、しばらく沈黙した後――ふっと、悪戯っぽく笑った。

「面白いな。許可は出そう!」

「表向きは、“神官の補助施設”だ」

「……なるほど」

「だが実態は、医療の研究拠点。平民も受け入れろ」

王は、はっきりと言った。

「教会が嫌がることを、全部やれ」

「……昔から変わらんな、教会嫌いのお前は」

二人は、短く笑い合う。

「その娘早く、そのうち会わせてくれよ?俺の息子とどうだ?二人いるけど、あ、王太子の婚約者になんて、ーー睨むなよ」

「……まだ、会わせん」

「はは。父親だな!」

カイロスは立ち上がり、踵を返す。教会に頼らない治療の道。その中心に、黒の聖女が立つ未来を、二人は、少しだけ、予感していた、かもしれない。



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