30 / 73
第三章 二人の会話
2.先輩と後輩
しおりを挟む
「あー、おれもあずさみたいにさっさと推薦取っていたら良かったんだよな」
子供が悔しがるような勝久君の言い方に、くすくす笑って言葉を返した。
「残念だったね」
「ちゃんと心込めて言ってるか? 棒読みだぞ、あず」
すかさず俊成君が突っ込んでくる。まったく。油断するとすぐこうやって人の事をからかうんだ。
「心こもっているよ。本当に、二人とも受かるの願っているもん。勝久君にも俊成君にもいい結果が出るといいよね」
「いい結果、出したいよな」
勝久君が真面目な口調でつぶやいて、空に向かって伸びをした。
「そうだな」
その手の先を見つめながら、俊成君がうなずいた。
「そういえば私、二人の第一志望って聞いていない気がする。どこ希望しているの?」
思いついて聞いてみて、二人の顔を交互に見つめた。
「え? 知らなかったっけ」
「うん」
勝久君に聞き返されて素直にうなずく。
「俊、言ってないのか?」
なぜだか勝久君は私に答える代わりに俊成君に確認してきた。
「でも、私も別に聞かなかったし」
めずらしくどこか責めるような口調の勝久君に戸惑って、一応フォローを入れておく。俊成君だけじゃなくて勝久君の第一志望だって聞いたことないし、なんでこの点で勝久君がそんな反応するんだかが良く分からない。お互い、よっぽど現実離れした大学選んじゃったとか、聞かれると恥ずかしいような大学にしちゃったとか、そんなことなんだろうか。
「ま、俺は良いとして」
「センパーイ、お早うございます!」
勝久君の言葉は、後ろから聞こえる女の子の呼び声でかき消されてしまった。
「倉沢先輩、勝久先輩、どうでしたか試験」
この朝の寒さで勝久君だけじゃない、私達の動きは鈍い。それに比べて小走りでやって来る女の子は頬を上気させ、まるで校庭十周走り終えたような勢いだった。
「ハルカ、朝練か?」
勝久君が仔犬にでも呼びかけるような気軽さで、彼女に尋ねる。
「はいっ。地区大会目前ですから」
「来週だっけか。頑張れよ」
「勝久先輩も、倉沢先輩も、受験頑張ってくださいね」
にっこり微笑む女の子は小さくて可愛くて、なんだか勝久君が仔犬扱いするのが判るような気がした。朝練ってことはバスケ部なんだろうけど、この様子じゃマネージャーなのかな。
テンポの良い、このはきはきとした体育会系特有のノリについてゆけず、俊成君と二人で目の前の光景をぼんやりと見つめてしまう。
「倉沢先輩!」
けれど、同じくバスケ部員だというのにどこか他人事の俊成君に気が付いたのか、彼女が突然こちらに振り向いた。
「また部に顔出してくださいね。たまには体動かさないと鈍っちゃいますよ」
「今週中に顔出すよ。勝久と一緒に」
「待ってます。それじゃあ」
嵐のように現れた女子マネは去り際も嵐のように、あっという間にいなくなった。
……えーっと。
「あず、お前たちの下足箱はそっち」
「え? あ、うん」
俊成君に指されて、ようやくはっとした。
「じゃあね」
「ああ」
別れて靴を履き替えてから、少し前から黙り込んだままの勝久君に向かって聞いてみる。
「で、勝久君。あれは一体?」
「えーっと、うちのバスケ部の女子マネ。清瀬 遥、二年生」
ちょっと困ったような表情を浮かべて、勝久君が視線を反らす。
「勝久、あずさが聞きたいのはそんなことじゃないって分かっているんでしょ?」
そんな声と共に、勝久君の頭にカバンの角がふってきた。がつんという音が響き、勝久君がうずくまる。慌てて背後を振り返ると、そこにいたのは美佐ちゃんだ。
「美佐希っ、てめーっ。自分の彼氏になにするんだよ」
「美佐ちゃん、見てたの? 今の」
「いやもうばっちり。にっこり微笑みつつ、最後にあずさに向かってガン飛ばすハルカとかいうのの表情まで、きっちり見たわよ」
ふふんと鼻で笑う美佐ちゃんは仁王立ちで、その態度と表情からあきらかに今の光景を楽しんでいた。
人当たりが良くて和み系の勝久君と、美人だけれど突込みが容赦ない太田 美佐希ちゃん。この特徴的な二人にくっついているのが、同じクラスの私。朝の登校は俊成君と勝久君の三人だけれど、校内に入ってしまえば美佐ちゃん含んだこちらの三人の方が親密度は高かった。あわせると四人一組、なのかな。
「で、あれはなんなのよ」
美佐ちゃんが、さっきの私と同じ事を聞いてくる。
「いや、だから女子マネで」
「彼女の素性じゃないっていうの。あの露骨なアプローチといい、隠しようも無いあずさへの対抗意識といい、あの行動はなんだってこと」
勝久君を問い詰めながら教室に入り、美佐ちゃんはどっかりと席に着いた。なまじ美人だから、こういう仕草一つで迫力が増す。
「確かにさっきのは、ちょっと俺も焦った」
かたや勝久君といえば、そんな彼女の態度を恐れるわけでもなく、ごくごく普通に話しを続けている。さすが一年生の頃から付き合っているだけある。
とはいえ、今回の件は美佐ちゃんと勝久君の間の話ではなく、私と女子マネとの間の話だ。私は自分の席に着くと、勝久君に問いかけた。
「原因は、俊成君でしょ? でもなんで? 俊成君って今フリーじゃなかったっけ?」
子供が悔しがるような勝久君の言い方に、くすくす笑って言葉を返した。
「残念だったね」
「ちゃんと心込めて言ってるか? 棒読みだぞ、あず」
すかさず俊成君が突っ込んでくる。まったく。油断するとすぐこうやって人の事をからかうんだ。
「心こもっているよ。本当に、二人とも受かるの願っているもん。勝久君にも俊成君にもいい結果が出るといいよね」
「いい結果、出したいよな」
勝久君が真面目な口調でつぶやいて、空に向かって伸びをした。
「そうだな」
その手の先を見つめながら、俊成君がうなずいた。
「そういえば私、二人の第一志望って聞いていない気がする。どこ希望しているの?」
思いついて聞いてみて、二人の顔を交互に見つめた。
「え? 知らなかったっけ」
「うん」
勝久君に聞き返されて素直にうなずく。
「俊、言ってないのか?」
なぜだか勝久君は私に答える代わりに俊成君に確認してきた。
「でも、私も別に聞かなかったし」
めずらしくどこか責めるような口調の勝久君に戸惑って、一応フォローを入れておく。俊成君だけじゃなくて勝久君の第一志望だって聞いたことないし、なんでこの点で勝久君がそんな反応するんだかが良く分からない。お互い、よっぽど現実離れした大学選んじゃったとか、聞かれると恥ずかしいような大学にしちゃったとか、そんなことなんだろうか。
「ま、俺は良いとして」
「センパーイ、お早うございます!」
勝久君の言葉は、後ろから聞こえる女の子の呼び声でかき消されてしまった。
「倉沢先輩、勝久先輩、どうでしたか試験」
この朝の寒さで勝久君だけじゃない、私達の動きは鈍い。それに比べて小走りでやって来る女の子は頬を上気させ、まるで校庭十周走り終えたような勢いだった。
「ハルカ、朝練か?」
勝久君が仔犬にでも呼びかけるような気軽さで、彼女に尋ねる。
「はいっ。地区大会目前ですから」
「来週だっけか。頑張れよ」
「勝久先輩も、倉沢先輩も、受験頑張ってくださいね」
にっこり微笑む女の子は小さくて可愛くて、なんだか勝久君が仔犬扱いするのが判るような気がした。朝練ってことはバスケ部なんだろうけど、この様子じゃマネージャーなのかな。
テンポの良い、このはきはきとした体育会系特有のノリについてゆけず、俊成君と二人で目の前の光景をぼんやりと見つめてしまう。
「倉沢先輩!」
けれど、同じくバスケ部員だというのにどこか他人事の俊成君に気が付いたのか、彼女が突然こちらに振り向いた。
「また部に顔出してくださいね。たまには体動かさないと鈍っちゃいますよ」
「今週中に顔出すよ。勝久と一緒に」
「待ってます。それじゃあ」
嵐のように現れた女子マネは去り際も嵐のように、あっという間にいなくなった。
……えーっと。
「あず、お前たちの下足箱はそっち」
「え? あ、うん」
俊成君に指されて、ようやくはっとした。
「じゃあね」
「ああ」
別れて靴を履き替えてから、少し前から黙り込んだままの勝久君に向かって聞いてみる。
「で、勝久君。あれは一体?」
「えーっと、うちのバスケ部の女子マネ。清瀬 遥、二年生」
ちょっと困ったような表情を浮かべて、勝久君が視線を反らす。
「勝久、あずさが聞きたいのはそんなことじゃないって分かっているんでしょ?」
そんな声と共に、勝久君の頭にカバンの角がふってきた。がつんという音が響き、勝久君がうずくまる。慌てて背後を振り返ると、そこにいたのは美佐ちゃんだ。
「美佐希っ、てめーっ。自分の彼氏になにするんだよ」
「美佐ちゃん、見てたの? 今の」
「いやもうばっちり。にっこり微笑みつつ、最後にあずさに向かってガン飛ばすハルカとかいうのの表情まで、きっちり見たわよ」
ふふんと鼻で笑う美佐ちゃんは仁王立ちで、その態度と表情からあきらかに今の光景を楽しんでいた。
人当たりが良くて和み系の勝久君と、美人だけれど突込みが容赦ない太田 美佐希ちゃん。この特徴的な二人にくっついているのが、同じクラスの私。朝の登校は俊成君と勝久君の三人だけれど、校内に入ってしまえば美佐ちゃん含んだこちらの三人の方が親密度は高かった。あわせると四人一組、なのかな。
「で、あれはなんなのよ」
美佐ちゃんが、さっきの私と同じ事を聞いてくる。
「いや、だから女子マネで」
「彼女の素性じゃないっていうの。あの露骨なアプローチといい、隠しようも無いあずさへの対抗意識といい、あの行動はなんだってこと」
勝久君を問い詰めながら教室に入り、美佐ちゃんはどっかりと席に着いた。なまじ美人だから、こういう仕草一つで迫力が増す。
「確かにさっきのは、ちょっと俺も焦った」
かたや勝久君といえば、そんな彼女の態度を恐れるわけでもなく、ごくごく普通に話しを続けている。さすが一年生の頃から付き合っているだけある。
とはいえ、今回の件は美佐ちゃんと勝久君の間の話ではなく、私と女子マネとの間の話だ。私は自分の席に着くと、勝久君に問いかけた。
「原因は、俊成君でしょ? でもなんで? 俊成君って今フリーじゃなかったっけ?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる