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3. あなたが私にくれたものは
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どうしよう。書くことが無い。
中学二年生のあの時、大浦君がいなくなった後のクラスの様子を手紙に書き綴り、読み直した私は困り果てていた。男子と女子では交流範囲が違う。自分の仲の良い子の話を書いたところで、決して面白いとは思えない。そう考えると、近況報告は酷くあっさりとしたものになって、便箋一枚を埋めるのがやっとだ。これでは、読書感想文を書くよりタチが悪い。他になにか書くことないか、えーっと、ああそういえば、
『そういえば、来月は私の誕生月なんだ。十二月十七日ってすごい中途半端。いっそのこと一週間後のクリスマス・イブが誕生日、の方がインパクトあって良かったのになぁ。』
よしこれで三行書けた。日付も入れて名前も書けば、便箋二枚目の半分くらいにはなれる。これで良いだろう。
そんな気持ちで送った手紙の返信が届いたのは翌月、十二月になってからだった。が、最初は返信だと思わなかった。なぜならそれは簡易書留で送られて来たから。
「彩乃、なにか応募でもしたの?」
そう聞かれながら親から封筒を受け取り、差出人を見たら大浦君だった。混乱のまま封を開けると、そこに入っていたのは手紙と千円分の商品券一枚。
『こちらは田舎で、遠藤さんに気に入ってもらえるようなプレゼントが見つからなかったので、せめてもの気持ちで商品券を贈ります。使ってください。
誕生日、おめでとう。』
読みながら、冷や汗がだらだらと流れていく気分を味わった。
「ヤバい。私、やっちゃったよ……」
心優しい同級生に無自覚とはいえ圧をかけ、結果として商品券をゲットしてしまった。こんな、こんなの困る……!
自分のやらかしたことに慄いて、それからの文通の記憶はふっつりと途絶えている。もらうだけもらって、返事もしていなかったなら最低だ。十七年後、奇跡の再会に一瞬びくついたのも、頑なに割り勘を主張したのもこのせいだ。
ファイルをめくる。次の返信が届いていた事にほっとする。記憶の消去と共に、このファイルも開かれることなく本棚に突っ込まれていた。忘れたい、けど無いことには出来なくて保管したままだった、大浦君からの手紙。結局、簡易書留の後は二通手紙が届いていて、多分三年生に上がったところで自然消滅していた。ちなみに肝心の商品券は、とっくに使用してなくなっていた。なんか、手紙と一緒にそこにあるっていうのが重かったんだよね。
「ともかく」
気分を変えようと、声にしてみる。
「再会したんだもん、ここら辺の名誉を挽回しなくては!」
そして私は二週間後を見据えて、会ったら謝る、をイメージトレーニングすることに没頭した。
◇◇◇◇◇◇
二週間後の金曜日。十八時ちょい前に店に着くと、大浦君はすでに酒を片手に店主とのんびり話をしていた。
「お待たせーって、大浦君早かったね」
「家から来たからね。今、リモートワークが基本で、出社は週一なんだ」
「おお、そっか」
事務職なのに旧態依然で毎日出社させられている私とは、えらい違いだ。と、そんなことより、
「大浦君、ごめんなさい」
「え、なに」
「本当は前回会った時に先ず謝らなくてはいけなかったんだけど、結局勇気が出なくて言えなかった」
「ちょ、怖い。だからなにを」
中学二年生のあの時、大浦君がいなくなった後のクラスの様子を手紙に書き綴り、読み直した私は困り果てていた。男子と女子では交流範囲が違う。自分の仲の良い子の話を書いたところで、決して面白いとは思えない。そう考えると、近況報告は酷くあっさりとしたものになって、便箋一枚を埋めるのがやっとだ。これでは、読書感想文を書くよりタチが悪い。他になにか書くことないか、えーっと、ああそういえば、
『そういえば、来月は私の誕生月なんだ。十二月十七日ってすごい中途半端。いっそのこと一週間後のクリスマス・イブが誕生日、の方がインパクトあって良かったのになぁ。』
よしこれで三行書けた。日付も入れて名前も書けば、便箋二枚目の半分くらいにはなれる。これで良いだろう。
そんな気持ちで送った手紙の返信が届いたのは翌月、十二月になってからだった。が、最初は返信だと思わなかった。なぜならそれは簡易書留で送られて来たから。
「彩乃、なにか応募でもしたの?」
そう聞かれながら親から封筒を受け取り、差出人を見たら大浦君だった。混乱のまま封を開けると、そこに入っていたのは手紙と千円分の商品券一枚。
『こちらは田舎で、遠藤さんに気に入ってもらえるようなプレゼントが見つからなかったので、せめてもの気持ちで商品券を贈ります。使ってください。
誕生日、おめでとう。』
読みながら、冷や汗がだらだらと流れていく気分を味わった。
「ヤバい。私、やっちゃったよ……」
心優しい同級生に無自覚とはいえ圧をかけ、結果として商品券をゲットしてしまった。こんな、こんなの困る……!
自分のやらかしたことに慄いて、それからの文通の記憶はふっつりと途絶えている。もらうだけもらって、返事もしていなかったなら最低だ。十七年後、奇跡の再会に一瞬びくついたのも、頑なに割り勘を主張したのもこのせいだ。
ファイルをめくる。次の返信が届いていた事にほっとする。記憶の消去と共に、このファイルも開かれることなく本棚に突っ込まれていた。忘れたい、けど無いことには出来なくて保管したままだった、大浦君からの手紙。結局、簡易書留の後は二通手紙が届いていて、多分三年生に上がったところで自然消滅していた。ちなみに肝心の商品券は、とっくに使用してなくなっていた。なんか、手紙と一緒にそこにあるっていうのが重かったんだよね。
「ともかく」
気分を変えようと、声にしてみる。
「再会したんだもん、ここら辺の名誉を挽回しなくては!」
そして私は二週間後を見据えて、会ったら謝る、をイメージトレーニングすることに没頭した。
◇◇◇◇◇◇
二週間後の金曜日。十八時ちょい前に店に着くと、大浦君はすでに酒を片手に店主とのんびり話をしていた。
「お待たせーって、大浦君早かったね」
「家から来たからね。今、リモートワークが基本で、出社は週一なんだ」
「おお、そっか」
事務職なのに旧態依然で毎日出社させられている私とは、えらい違いだ。と、そんなことより、
「大浦君、ごめんなさい」
「え、なに」
「本当は前回会った時に先ず謝らなくてはいけなかったんだけど、結局勇気が出なくて言えなかった」
「ちょ、怖い。だからなにを」
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