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3. あなたが私にくれたものは
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「十七年前、誕生日アピールして商品券贈ってもらっちゃったの、反省している。ごめんなさい!」
「それ、いまさら蒸し返すっ?」
謝ってから勢いよく頭下げて、そして顔を上げたら、酒を片手に持ったままうろたえている大浦君がいた。
「とりあえず、店変えようか」
「え、私まだ注文していない」
「うん。だから店変えよう」
「お客さんたち、別のところ行く? それなら焼き鳥屋どう? 店長さんが日本酒好きで、結構いい酒置いてある店あるんだけれど」
酒屋の店主まで会話に入ってきて、結局私は店主お勧めの焼き鳥屋に連れて行かれることになった。
「さてと」
焼き鳥といえばビールでしょう。ということで生ビール頼んで、突き出しの小鉢と枝豆が届いたところで乾杯した。話を始める前に環境を整える、余裕ある大人の行動で好感がもてる。
と思いきや、整った途端に大浦君がものすごい勢いで頭を下げた。
「あの、誕生日プレゼントの件ですが、すみませんでした! あんなもん贈って、本当に今思い返しても恥ずかしくなる。っていうか、あれ、覚えていたんだ? てっきり前回、話振ってこないからもう無いもんとされているかと思ってたのに」
これは典型的な余裕のない大人の姿だ。でもこれはこれで好感がもてるのはなぜなんだ? イケメンだからか? いや、大浦君だからか。
「大浦君も、覚えていたんだね」
そう言ったらなぜか大浦君は姿勢を正し、真剣な表情で私を真っ直ぐに見据えた。
「聞いてください」
「あ、はい」
「中学二年生のあの時、遠藤さんが来月誕生日って知って、悩んだんだ。プレゼント贈った方がいいよな、いや、贈りたいなって思って、でもなに贈ったらいいか全然分からなくて。俺、それまで割と人に興味が無いというか、自分から人になにかするってタイプじゃ無かったし、ましてや女の子に誕生日プレゼントだなんて、買うどころか選んだことも無かったし」
思い返して恥ずかしくなっているのか、大浦君の耳が赤い。ここにいるのは世馴れた三十路の男のはずなのに、そんな些細なところで脳内補正がかかり、私の中のイメージではもっさりとした同級生に戻っている。
「それで、一番身近な女性ってことで母に聞くことにしたんだ。でも、今思うと聞き方も悪かった。状況を話さずいきなり、プレゼントってもらうとしたらなにが良い? って聞いて。そしたら間髪入れずに、商品券って即答された」
「あっちゃー……」
それで、あれだったのか。
十七年に及ぶ謎が解けて、納得した。そりゃあ、生活に追われたお母さんが欲しいものって聞かれれば、商品券でしょう。花束は食えないし、食べ物は好みがある。趣味の合わない服だのアクセサリーだのもらって感謝の心を強要された日にはブチ切れだ。今の私なら深く納得する。
「それから、一年くらい経ってからかな、話の流れであれが同級生女子への誕生日プレゼントだって母親が知って、ものすごい勢いで怒られて。でも謝ろうにも、文通は自然消滅して今更なタイミングだったし。そしてそんな目で遠藤さんからの手紙読み直したら、商品券以降の文面がなんか微妙かなって思えてきて」
「あ、いや、あー……」
「それ、いまさら蒸し返すっ?」
謝ってから勢いよく頭下げて、そして顔を上げたら、酒を片手に持ったままうろたえている大浦君がいた。
「とりあえず、店変えようか」
「え、私まだ注文していない」
「うん。だから店変えよう」
「お客さんたち、別のところ行く? それなら焼き鳥屋どう? 店長さんが日本酒好きで、結構いい酒置いてある店あるんだけれど」
酒屋の店主まで会話に入ってきて、結局私は店主お勧めの焼き鳥屋に連れて行かれることになった。
「さてと」
焼き鳥といえばビールでしょう。ということで生ビール頼んで、突き出しの小鉢と枝豆が届いたところで乾杯した。話を始める前に環境を整える、余裕ある大人の行動で好感がもてる。
と思いきや、整った途端に大浦君がものすごい勢いで頭を下げた。
「あの、誕生日プレゼントの件ですが、すみませんでした! あんなもん贈って、本当に今思い返しても恥ずかしくなる。っていうか、あれ、覚えていたんだ? てっきり前回、話振ってこないからもう無いもんとされているかと思ってたのに」
これは典型的な余裕のない大人の姿だ。でもこれはこれで好感がもてるのはなぜなんだ? イケメンだからか? いや、大浦君だからか。
「大浦君も、覚えていたんだね」
そう言ったらなぜか大浦君は姿勢を正し、真剣な表情で私を真っ直ぐに見据えた。
「聞いてください」
「あ、はい」
「中学二年生のあの時、遠藤さんが来月誕生日って知って、悩んだんだ。プレゼント贈った方がいいよな、いや、贈りたいなって思って、でもなに贈ったらいいか全然分からなくて。俺、それまで割と人に興味が無いというか、自分から人になにかするってタイプじゃ無かったし、ましてや女の子に誕生日プレゼントだなんて、買うどころか選んだことも無かったし」
思い返して恥ずかしくなっているのか、大浦君の耳が赤い。ここにいるのは世馴れた三十路の男のはずなのに、そんな些細なところで脳内補正がかかり、私の中のイメージではもっさりとした同級生に戻っている。
「それで、一番身近な女性ってことで母に聞くことにしたんだ。でも、今思うと聞き方も悪かった。状況を話さずいきなり、プレゼントってもらうとしたらなにが良い? って聞いて。そしたら間髪入れずに、商品券って即答された」
「あっちゃー……」
それで、あれだったのか。
十七年に及ぶ謎が解けて、納得した。そりゃあ、生活に追われたお母さんが欲しいものって聞かれれば、商品券でしょう。花束は食えないし、食べ物は好みがある。趣味の合わない服だのアクセサリーだのもらって感謝の心を強要された日にはブチ切れだ。今の私なら深く納得する。
「それから、一年くらい経ってからかな、話の流れであれが同級生女子への誕生日プレゼントだって母親が知って、ものすごい勢いで怒られて。でも謝ろうにも、文通は自然消滅して今更なタイミングだったし。そしてそんな目で遠藤さんからの手紙読み直したら、商品券以降の文面がなんか微妙かなって思えてきて」
「あ、いや、あー……」
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