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12. すっぴんを晒せ

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 なんだあの好意ダダ漏れの表情は。そして恐ろしいことに、あの顔には見覚えがあった。会う度に、ふとした拍子にあんなを顔を向けられていた。そしてその度、ワンコがご飯ねだるみたいな顔だなーとか呑気に思ってましたよ、ええ。瑛士の気持ちが分かってしまった以上、もうあんなとぼけた感想は浮かんで来ない。

 どうしよう。ドキドキが止まらない。

 昔読んだ少女漫画のヒロインの台詞みたいなことを思ってしまい、その恥ずかしさに身悶えした。早くお風呂に入ろう。



 ◇◇◇◇◇◇



 お風呂から上がって、シルヴィアさんからいただいた基礎化粧品をありがたく使わせてもらう。

 すっぴんの顔。平凡でぼんやりとした、極端に悪いところは無くても取り立てていいと言えるところもない、地味な顔。

 手抜きメイクを信条としている派なので、化粧を落としてもさほど変わらない顔だとは思う。それでもマスカラも落ち、メリハリの無い素顔を男の人に晒すというのは、それも自分が好きな人に晒すというのは、心のハードルを一つ乗り越える気持ちがする。そんな気持ちで今夜をむかえるなんて、数時間前には思いもしなかった。

 大きく深呼吸をして、もう一度鏡を見る。すっぴんで、素直な自分。潔く、瑛士に晒してしまえ。

「お風呂、いただきました。ありがとう」

 リビングに戻って、ソファーでスマホをいじる瑛士に声をかける。なにかメールをしていたようで作業を終わらせると、顔を上げて私を見つめ、微笑んだ。

「スウェット、ぶかぶかだ」

 それはそうだ。瑛士のを借りているんだし。

「瑛士、百八十センチ超えでしょ? さすがに裾とか袖とか余るよね」
「うん。可愛い」
「へっ?」

 瑛士は立ち上がると私をそっと抱きしめて、口付けた。

「彩乃が家にいて、俺のスウェット着ているってだけで感動しているし、興奮もしている。俺も風呂入ってくるから、寝室で待っていて。こっち」
「う、うん」

 ぼわわって効果音が聞こえてきそうなくらい、一瞬にして顔が火照る。それを隠すようにうつむいたら、うなじにチュッと柔らかい感触がした。慌てて顔を上げると、瑛士としっかり目が合ってしまう。

「……!」

 なんでもう、そんな目で私のことを見るんだかなぁ!

 瑛士は私の手を取り指を絡ませると、そのまま部屋に案内してくれた。六畳ほどの空間にセミダブルベッドとサイドテーブル、机と本棚。シンプルな作りだ。机の上にはデスクトップとノートパソコン、それにモバイル機器が置いてあるけれど、紙系の書類が一切置いてない。今どき会社員の在宅ワークだなと、ぼんやり思った。

「ここ、座って」

 言われてベッドに腰掛けて見上げると、瑛士の顔が近付いて、また口付けられる。そっと舌が滑り込んできて、私の体がぴくりと反応した。ふっと息だけで笑う気配がして、抱きしめられる。舌と舌が絡み合い、擦り合わされた。

「ふぁ、ぅん……」
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