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12. すっぴんを晒せ

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 目の前のこの人にすがり付きたくなって、ぎゅっとシャツを握る。彼の舌は私の中を隅々まで探検し、ちょっとした反応を捉えてはそこを丁寧になぞり上げた。

「ん……、瑛士」

 このまま流されたい。甘えるように呼びかけると、あやすように頭を撫でられる。そして軽く唇を甘噛されて、顔が離れた。

「すぐ済むから、ちょっと待っていて」

 私の体の中に欲望の火種だけをつけて、瑛士が部屋から出てゆく。扉が閉まるのを目で追って、それからベッドに身を横たえた。寝具からほのかに香る、瑛士の匂い。腰とお腹の奥、子宮の辺りがきゅんとする。自分の体が着々とやる気に満ちてきて、ついくすりと笑ってしまった。心も体も、瑛士のことを欲している。

 自分の唇に指をあて、さっきの瑛士の感触を反芻した。触れた腕の太さも、頬をくすぐる髪の毛の柔らかさも、思い出すだけで私を疼かせる。

「お待たせ」
「え、早っ」

 ガバッと上半身だけ起き上がって彼を見る。案の定、髪の毛が洗いっぱなしで濡れていた。ドライヤーで乾かす手間を省いたな。

「寝癖、ついちゃうよ」

 クスクスと笑いながら髪の毛に指を入れ、梳きながら言ってみた。

「いいよ。そのくらいじゃ、幻滅しないだろ?」

 その動作を止めるように私の手首をそっと掴むと、瑛士はそのまま指先に口付ける。目線はずっと私を見つめたままだ。その目が情欲をはらんでいて、たまらず私は息を吐き出した。

「なるわけ、無い」

 その返答に瑛士は微笑むと、私に背を向けてサイドテーブルの上のルームランプをつけ、ドアの横にある電気のスイッチを消した。その後ろ姿をずっと目で追ってしまう。Tシャツにスウェットパンツという格好。うなじから背中にかけてのラインに色気を、肩甲骨の浮き出方に男らしさを感じ、ドキドキする。いつまでも見ていたい反面、ぴったりと寄り添いたくもなる。愛しい、瑛士の背中。……ああ、そうか。

 不意にすとんと納得してしまった。

 私、自分が思っているよりも遥かに、瑛士に惚れているんだ。

「彩乃」

 振り向いた瑛士がベッドに上がり、私の頬をそっと撫でる。軽く唇が触れ合って、それから真剣な眼差しでじっと見られた。

「俺のものに、なって」

 強い意志を持った言葉。私の心の中が幸せな気持ちで満たされてゆく。

「瑛士が私のものになるなら、いいよ」

 わざと強気な口調で言い返して、自分から口付ける。心だけじゃなく、体も満たして欲しい。瑛士の腕が私の腰を絡め取り、二人ベッドに転がった。


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