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第二章 今世の幸せ
第2話 塔の視察(上)
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塔の内偵ブラウンから上げられた情報は、内務省のブラウンの上官を経て、皇太子の元に届けられた。
そこで、アレクサンドロスはフランシスと一度として接点を持ったことがない事実に驚いた。
幼少時には、皇后の茶会の招待状も送られていた。だが、それもすべて断られているという記録が残っていた。
後の、舞踏会などの華やかな場所は当然のことながら欠席で、帝都の学園も入学をしていない、叙勲の式典まで断っているという徹底ぶりだった。
ここまで徹底されると、避けられているのではないかという気になってしまう。
だが一方で、彼に会いたいという気持ちは募ってくる。
十五歳の頃から、夢の中で会う、番。彼は白金の髪に桃色の瞳を持つ、大層美しい少年だった。
どこか困ったように笑うその彼が、愛おしくてたまらない。
まだ出会ったこともないのに、彼は自分の番だということが、わかっていた。
彼が欲しくて、たまらなかった。
彼は、自分のものだから。そう、間違いなく、自分のものなのだ。
内務省のブラウンの言葉が、書類にあった。
もしフランシスに会いたいのなら、塔の視察に来るのが一番てっとり早いとあった。
ほぼ一日の半分近い時間を、フランシスは塔の中で過ごしている。
他の場所へ行く姿をほとんど見たことがないとあった。
「視察の日程を組めるか」
そう命じると、侍従の一人がうなずいた。
「はい、早くて一週間後です」
明日にでも行きたいところだが、仕方がない。
アレクサンドロスは小さく息を吐いた。
「日程を組んでくれ」
「了解致しました」
そして一週間後、塔へ視察に来たアレクサンドロスの前に、塔の主だというヘクト師が現れ、皇太子一行に対して至極丁寧に塔内部を案内した。
黙って見て回るアレクサンドロスが、“塔の双璧”と呼ばれるゼファーとフランシスに会いたいと言うと、ヘクト師は残念そうな顔をした。
「大変申し訳ありません。彼らは、資料をとりに東塔へ行っています」
瞬間、皇太子がひどく不機嫌そうな様子になるのを、一行は感じた。
「……そうか。残念だ。では、一度、二人に会ってみたいと思っている。面会の場を設けてもらうことはできるか」
「承知致しました」
ヘクト師は謹んで承った。
だが後日、皇宮への連絡では、ゼファーは面会可能だが、フランシスは体調が優れないため面会できないとある。
それには、アレクサンドロスは怒り狂っていた。
「なぜだ。なぜ、フランシスには会えないのだ」
「殿下、フランシス殿は生来お身体が弱いというお話です。無理はきかぬかと」
「おかしいだろう。一度として会うことができていないのだぞ。これまでも機会はあった」
そう、茶会でも、学園でも、叙勲の式典でも、会おうと思えば、会うことができたはず。なのに、彼はそのことごとくを拒否しているのだ。
まさしく、会いたくないかのように。
気が付きたくなかったが、その事実に気が付いてしまった。
(会いたくないのか?)
(この、僕に…………)
番を追い求める意識は、竜の血を引くアレクサンドロスだけにある。ただの人間であるフランシスには、番を追い求める気持ちはない。
それは、人と婚姻を結ぶ竜の血を引く者が昔からいわれていたことだった。
追い求めるのは、竜だけだと。
フランシスの方は、会いたくないと思っている。
その事実はアレクサンドロスを打ちのめした。
そこで、アレクサンドロスはフランシスと一度として接点を持ったことがない事実に驚いた。
幼少時には、皇后の茶会の招待状も送られていた。だが、それもすべて断られているという記録が残っていた。
後の、舞踏会などの華やかな場所は当然のことながら欠席で、帝都の学園も入学をしていない、叙勲の式典まで断っているという徹底ぶりだった。
ここまで徹底されると、避けられているのではないかという気になってしまう。
だが一方で、彼に会いたいという気持ちは募ってくる。
十五歳の頃から、夢の中で会う、番。彼は白金の髪に桃色の瞳を持つ、大層美しい少年だった。
どこか困ったように笑うその彼が、愛おしくてたまらない。
まだ出会ったこともないのに、彼は自分の番だということが、わかっていた。
彼が欲しくて、たまらなかった。
彼は、自分のものだから。そう、間違いなく、自分のものなのだ。
内務省のブラウンの言葉が、書類にあった。
もしフランシスに会いたいのなら、塔の視察に来るのが一番てっとり早いとあった。
ほぼ一日の半分近い時間を、フランシスは塔の中で過ごしている。
他の場所へ行く姿をほとんど見たことがないとあった。
「視察の日程を組めるか」
そう命じると、侍従の一人がうなずいた。
「はい、早くて一週間後です」
明日にでも行きたいところだが、仕方がない。
アレクサンドロスは小さく息を吐いた。
「日程を組んでくれ」
「了解致しました」
そして一週間後、塔へ視察に来たアレクサンドロスの前に、塔の主だというヘクト師が現れ、皇太子一行に対して至極丁寧に塔内部を案内した。
黙って見て回るアレクサンドロスが、“塔の双璧”と呼ばれるゼファーとフランシスに会いたいと言うと、ヘクト師は残念そうな顔をした。
「大変申し訳ありません。彼らは、資料をとりに東塔へ行っています」
瞬間、皇太子がひどく不機嫌そうな様子になるのを、一行は感じた。
「……そうか。残念だ。では、一度、二人に会ってみたいと思っている。面会の場を設けてもらうことはできるか」
「承知致しました」
ヘクト師は謹んで承った。
だが後日、皇宮への連絡では、ゼファーは面会可能だが、フランシスは体調が優れないため面会できないとある。
それには、アレクサンドロスは怒り狂っていた。
「なぜだ。なぜ、フランシスには会えないのだ」
「殿下、フランシス殿は生来お身体が弱いというお話です。無理はきかぬかと」
「おかしいだろう。一度として会うことができていないのだぞ。これまでも機会はあった」
そう、茶会でも、学園でも、叙勲の式典でも、会おうと思えば、会うことができたはず。なのに、彼はそのことごとくを拒否しているのだ。
まさしく、会いたくないかのように。
気が付きたくなかったが、その事実に気が付いてしまった。
(会いたくないのか?)
(この、僕に…………)
番を追い求める意識は、竜の血を引くアレクサンドロスだけにある。ただの人間であるフランシスには、番を追い求める気持ちはない。
それは、人と婚姻を結ぶ竜の血を引く者が昔からいわれていたことだった。
追い求めるのは、竜だけだと。
フランシスの方は、会いたくないと思っている。
その事実はアレクサンドロスを打ちのめした。
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