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第五章 懐かしい友との再会

第十七話 転生仲間(下)

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 リヨンネはキースを伴い、トレナの街へやって来た。
 先日の話合い以来、リヨンネとキースの関係が変わったかと言うと、全く変わっていなかった。
 キースは、「兄ジャクセンの店へ行くことについてよく考えるように」とのリヨンネからの言葉を聞いても、彼はその言葉をまるで聞かなかったかのように普段通りの態度だった。
 そしてリヨンネは、キースが「ジャクセン様のお店に行くことに決めました」と発言することを待った。キースが傍からいなくなってしまうかも知れないと、キースの言葉を待つこともまた寂しくてリヨンネとしては仕方なかったのだけど、キースは何日経っても、まったくそのことについて口にしなかった。
 
 いったい、どうするつもりなのだろう。

 そう言いたげな視線で、リヨンネがキースのことをチラチラと見ていたが、キースは無視していた。


 そしてトレナの街の、バルトロメオ辺境伯の城に入る。
 案内をする使用人の後をついて、内覧が行われている大広間に入っていく。
 キースはリヨンネの従者として同行を許されていた。
 大広間に足を踏み入れるなり、リヨンネは辺境伯らと談笑していたウラノス騎兵団長達に気が付いて近寄っていった。
 ウラノス騎兵団長は、バルトロメオ辺境伯の幼馴染みで、非常に仲が良いらしい。
 楽しそうに歓談をしている様子が見られる。
 リヨンネが近付いて来ることにウラノス騎兵団長はすぐに気が付いて、彼をバルトロメオ辺境伯へ紹介した。
 リヨンネがバンクール商会に連なる者だと知ると、辺境伯は「なるほど」と何故か納得しているような声を上げられた。
 彼らのそのやりとりでリヨンネは、悟った。

 自分がウラノス騎兵団長に渡している情報は、バルトロメオ辺境伯にも流れているのだろう。
 そしてこの機会に、ウラノス騎兵団長はバルトロメオ辺境伯に、情報が誰から流されていたのか、内密で教えたのだろう。だが、リヨンネとしてはウラノス騎兵団長から先に自分が彼に流した情報がどう使われてどう流れていこうが構わなかった。それがこの地域の安定に繋がり、引いては竜達の安全に繋がるのなら。

 リヨンネは、騎兵団長ら騎兵達が華やかな礼装をまとっていることに気が付く。そしてすぐさま賛辞を贈った。

「素晴らしい装いですね」

 ウラノス騎兵団長の傍らに立つ銀の髪に薄紫色の瞳の美貌の青年はその賛辞にも、当然のような顔をしている。
 彼は人々に称賛されることに慣れているのだ。
 さらに彼は、長年の想いが遂に叶うことにより、更に以前よりも美しさを増して自信に満ち溢れていた。人々の間にあってなおも光り輝くような、衆目を集める美貌であった。

 バルトロメオ辺境伯はリヨンネの賛辞に同意するように頷きつつも、ウラノス騎兵団長の耳元にさり気なく囁いた。

「もう、王城へは連れていかない方がいいぞ」

 その言葉に、ウラノス騎兵団長も頷いていた。

「ああ」

 それはどういう意味だろうかとリヨンネが内心思っている時、大広間の入口の方が騒めいた。
 何人もの護衛の男をそばにおきながら部屋へ入って来たのは真っ黒い髪の大層小柄な男だった。
 茶色の瞳に黒髪は、良くある色合いであった。
 だが、違うのはその目鼻立ちである。子供のような幼さすら感じる顔立ち。そして彫りが
 
(人種が違うな。どこの国のものだ? 南の海を越えた向こうにある国々にはこうした年齢のよく分からない、顔立ちも違う、小柄な人々が暮らしていると聞くが)

 リヨンネは不躾にならないように彼らを見つめながらそう思っている。
 その男のそばに、彼の手を取るように歩く長衣の背の高い男がいる。
 どこか恭しく、貴婦人にするように、そっと大切そうに手を取っている。

 男達の様子を見てリヨンネは察した。
 兄のジャクセンから得た情報では「カルフィー魔術師には伴侶がいる」というものがあった。魔術師らしい長衣からして、手を取る男がカルフィー魔術師だろう。そしてその彼に手を取られている男が、おそらくカルフィー魔道具店のもう一人の創立者で、カルフィー魔術師の伴侶のはずだ。
 そしてどうもその伴侶の男は足が不自由らしい。だから傍らのカルフィー魔術師に片手を取られ、ゆっくりと足を引きずるように歩いている。
 よろけそうになると、すぐ近くの護衛の男とカルフィー魔術師が手を貸している。

(まるで、お姫様のようだな)

 多くの護衛に囲まれ、男達にかしづかれている。
 兄の言う通り、カルフィー魔道具店が莫大な富を有した商会なら、そうした過保護ともいえる警護体制にも頷ける。
 足の不自由な小柄な男である。誘拐のターゲットとしては最適だった。


 カルフィー魔術師とその伴侶が大広間に入ると、すぐにバルトロメオ辺境伯の奥方が近づいて、会話を交わしている。足の不自由な小柄な男を気遣うようにして、椅子に案内しようとする。
 その時。

「ピルピルピルピルピルピルピル!!!!!!」

 大広間に大きな、喜びに満ちた声が響き渡り、弾丸のように小さな竜が、辺境伯の五歳の息子の腕から飛び出し、突進したのだ。
 その足の不自由な男に向かって。

 あまりの速さに誰も動けないその中で、放たれた矢のように真っ直ぐ向かってきた小さな竜を、すかさず、足の不自由な男のそばにいた護衛の大男が剣の鞘で叩き落した。

 ビターンと大きな音を立てて、小さな竜は大広間の床に叩きつけられる。
 うつぶせの大の字のポーズで目を回している小さな竜に、慌ててアーサーとアルバート王子が近づいた。
 
 小さな竜に向かって来られたその黒髪の男は、驚いたような顔で一連の光景を眺めていたが、傍らのカルフィー魔術師は怒りの声を張り上げる。

「それは何ですか。私のトモチカにそんな竜をけしかけてどういうおつもりですか!!」

「申し訳ございません」

 エイベル副騎兵団長がすかさず前に出て、頭を下げる。

「お怪我はございませんか」

 近寄って来る銀の髪の美貌の青年騎兵を見て、足の不自由なその男はびっくりとした顔で頷いた。そして、怒りを露わにしているカルフィーの腕を掴んで言う。

「もういい。怪我はなかったんだ。騒ぎにするな」

「トモチカ、それでもお前が怪我をしたのかも知れないんだぞ」

「問題ない」

 トモチカと呼ばれる小柄な男は騒ぎにしたくないらしく、すぐさまカルフィーの腕を掴んでいく。

「椅子に座りたい」

「分かった」

 彼らが離れていく様子に、アルバート王子は未だ意識を失ったままの小さな竜を抱き上げた。
 一体、どうしてあんな興奮して、見知らぬ男に勢いよく飛び付こうとしたのだろうと疑問に思うが、気を失ったままの紫竜が答えることはなく、そして意識を失ったままダランとした紫竜を見て、アーサーは「ウワーン、ルーシェが死んじゃったよー!!」と大泣きしていたのであった。
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