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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です  第四章 黄金竜の雛は愛しい番のためならば、全てを捧げる

第十四話 黄金竜の雛の助け(下)

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 バンクールの屋敷の中に招き入れられたユーリスは、母に優しく押されるようにして居間のソファに座らせられる。いそいそと温かな飲み物を自分の手で用意した母イレーヌが、それを差し出す。イレーヌは嬉しそうな顔をしていた。
 大変な状況の中、息子が無事に帰ってきてくれたことが嬉しいのだ。

 ユーリスは温かな飲み物を両手で持ちながら、言った。

「父上と母上がご無事で安心しました」

「お前は、イスフェラ皇国に渡っていると聞いていたが」

 そう。
 ユーリスは護衛を務めていたゲランの勧めで、シルヴェスター王子を追ってイスフェラ皇国へ渡ったことを、手紙で父ジャクセンに報告していた。その後父からも折り返し「くれぐれも無茶はしないように」という内容の手紙が届いていた。学問の道を進むと言って、アレドリア王国へ渡った息子が、長期の休暇を取ってイスフェラ皇国へ渡っているのである。きっと驚き呆れていることだろうとユーリスは思っていたが、父ジャクセンの手紙には、戦地にほど近いイスフェラ皇国へ渡ったユーリスの身を心配する言葉ばかり書かれていた。

 今やユーリスが、戦場地の旧カリン王国へ、シルヴェスター王子と共に渡ったことを知れば、きっとジャクセンはなおも心配してしまうだろう。

「はい。でも、父上達が心配で、様子を見に戻ってきました」

 素直にそのことを伝えると、ジャクセンは眉を寄せた。

「…………随分と早くに戻って来れたのだな」

 遠い西方の国イスフェラ皇国まで、このラウデシア王国が攻撃を受けたことが伝わり、そこから旅してくるなら、相当時間がかかるはずである。それにしてはユーリスは余りにも早く着きすぎている。
 そのことにユーリスも気が付くが、まさか黄金竜の雛の背に乗って“転移”して一瞬で飛んできたなど伝えることも出来ない。ユーリスは黙ってお茶を飲んでいた。それから尋ねた。

「コレットとベアトリスは無事ですか」

「無事だ」

 妹二人も無事な様子でますます安心した。

「王都の店の一つが被害を受けたが、そう大したことはない」

「そうですか。良かったです。安心しました」

 これで無事に帰れる。
 あまり時間が経つと、シルヴェスターに自分の不在を気付かれ、心配されてしまう。
 ユーリスは立ち上がると、父と母に笑顔で言った。

「本当に、父上と母上が無事で良かったです。それではこれで」

 その台詞に驚いたのが母イレーヌである。

「ユーリス、どこへ行くのですか。こんな遅い時間じゃないですか。今日はここに泊まるのでしょう」

「いえ、帰ります」

 そう言って、部屋を出て行こうとするユーリスに、ジャクセンは言った。

「ユーリス」

「はい」

 振り返るユーリスに、ジャクセンは「体に気を付けて。また顔を見せてくれ」と言い、ユーリスは一礼して部屋を出ていったのだった。父親は突然のユーリスの帰郷を不可思議に思いながらも、それ以上引き留めようとしなかった。そのことを有難く思う。

 ユーリスは、屋敷を出て、しばらく歩いたところで胸元から黄金竜の雛ウェイズリーを取り出す。
 ウェイズリーはたちまち大きな竜の姿を取って、ユーリスをその背に乗せて飛び立った。
 やがて“転移”した二人は、その場から姿を消したのだった。




 旧カリン王国の城のベランダに戻ると、ユーリスはベランダに立つ黄金竜のウェイズリーに言った。

「ありがとう、ウェイズリー。父や母に会うことが出来て、本当に私は安心したよ」

「キュルキュルルルル(ああ、お前が元気になって良かった)」

 一瞬で遠い場所まで“転移”する力を持つ黄金竜の雛、ウェイズリー。
 ふと、ユーリスは思った。

 以前一緒に旅をした時、ウェイズリーはその力を使おうとしなかった。
 “無限収納”の力は見せてくれたが、“転移”してイスフェラ皇国に連れてきてくれなかったのはどうしてだろう。その前の、アレドリア王国に帰る時だってそうである。
 その問いかけに、ウェイズリーは言った。

「キュルキュルルルルキュルキュルル(一度でもいったことのある場所にしか、“転移”は出来ない)」

 なるほど。
 ラウデシア王国の王都は、ウェイズリーが留まっていた地下遺跡の城のある場所でもあったから“転移”できたのだ。しかし、これまで旅してきた北方地方も、イスフェラ皇国も、アレドリア王国も、その時のウェイズリーはまだ行ったことのない、未経験の場所だったのだ。どこでも好きな場所に“転移”できるわけではないようだ。

「ありがとう、ウェイズリー。おやすみ」

「キュルキュルル(おやすみ)」

 シルヴェスター王子の眠る寝室へ戻って行くユーリスの背を見送り、黄金竜ウェイズリーは切なげに黄金色の瞳を向けて呟いていた。

「キュルキュルルルゥゥ(大好きな私の番)」
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