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第55話 完!!
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勝ち目ゼロ。
10億のリリスが加わった程度じゃ、結果には何の影響もでないだろう。
まさに試合開始前からゲームセット状態である。
若干期待していたんだが、まあ仕方がない。
かなり無茶な期待だったしな。
「お父様から凄い力を感じるわ。ごめんなさい、私のせいで……」
リリスはパワーアップした事で、どうやら直に相手の力を感じられる様になった様だ。
彼女は魔神帝の力を感じ取り、申し訳なさそうに顏を伏せる。
「君のせいじゃないよ、リリス。決して君のせいじゃない」
「カモネギ……」
そんなリリスを、ビートが力強く抱きしめる。
「全て僕に任せてくれ。そう言えればいいんだけど……今の僕の力じゃ、君を守ると誓う事は……ごめん」
ビートからしたら好きな相手なのだから、絶対守ってやりたい所だろう。
だがそれは絶対に不可能だ。
正直者の奴は気休めを口にする事も出来ず、口惜しそうに歯を食い縛った。
「ううん、謝らないで。私はもう一度あなたと会えた。それだけで十分よ……」
「リリス……」
二人は見つめ合う。
ゲンナリ顔の俺を無視して。
普段なら光の速さでぶん殴っている所だが、本当に冗談抜きで、人生最後のいちゃつきになるだろうから堪えてやる。
「くくく……随分と面白い力を持っているな。その力をばら撒かれても厄介だ。これでますます、貴様を生かしておく訳にはいかなくなった。ここで確実に始末させて貰おうか」
言ってみれば、俺はパワーアップ量産機だ。
魔神帝の立場からすりゃ、そりゃ真っ先に殺す必要があるわな。
いくら今の奴の強さが出鱈目とは言っても、異世界人全員を覚醒とかなったら、どうなるか分かった物じゃないだろうし。
「そいつはどうも。痛み入るぜ」
声を掛けられ、俺は魔神帝へと視線を向ける。
特に構えを取っている訳ではないが、その雰囲気から、奴が既に戦闘態勢に入っているのが分かった。
リリス達のいちゃつきが終わるのを、流石に待ってくれる気はない様だ。
「ビート。タイムアップだ」
「分かってる。リリスは下がっていて――」
ビートがリリスを抱きしめていた手を離し、守る様に前に出ようとする。
が、リリスがその動きを制した。
「何言ってるの。私も一緒に戦うわ。死ぬときは一緒。でしょ?」
「リリス……分かったよ」
「さて、死ぬ準備は出来たか?まあ出来ていなくとも、もうこれ以上待つつもりはないがな」
魔神帝は、特にリリスを操る素振りを見せない。
まあ戦闘能力差を考えれば、わざわざ操る必要なんてないから当然か。
「俺が突っ込むから、お前らは適当に合わせろ」
作戦なし。
連携も基本なしだ。
即興の付け焼刃なんか、通用しないだろうからな。
そもそも、俺は人に合わせるのが苦手だ。
どうせ負けるんだし、好き勝手に暴れさせて貰う。
まあビート達が上手く立ち回ってくれれば、その分魔神帝をぶん殴る機会が増えるかもだし、そこだけは少し期待だ。
ムカつくから、一発でも多くぶん殴ってやりたいしな。
「行くぞ!」
俺は真っすぐに、魔神帝に突っ込む。
「くくく。圧倒的な実力差を知って尚、臆さず突っ込んで来るとはな。流石は勇者だ」
魔神帝は微動だにせず笑う。
そのムカつく顔に、俺の拳を全力で叩き込んでやる。
フルパワーだ。
躱す気もないのか、奴の鼻っ面に渾身の俺の拳がめり込む。
クリティカルヒットと言っていい。
当然、不死身を崩す攻撃だ。
だが――
「くっ……」
奴の顔には痣一つ出来ていない。
完全なるノーダメージ。
殴った拳が猛烈に痛む。
チラリと確認すると、完全に砕けていた。
殴った方がダメージ喰らうとか……
差があるのは分かっていた。
勝ち目がない事も。
だが、こりゃいくら何でも理不尽すぎだろ。
どうせ死ぬなら殴って少しでも鬱憤を晴らしてやるとか思ってたが、それすらも無理な訳か。
もう笑うしかねぇな、こりゃ。
完!
つづく
10億のリリスが加わった程度じゃ、結果には何の影響もでないだろう。
まさに試合開始前からゲームセット状態である。
若干期待していたんだが、まあ仕方がない。
かなり無茶な期待だったしな。
「お父様から凄い力を感じるわ。ごめんなさい、私のせいで……」
リリスはパワーアップした事で、どうやら直に相手の力を感じられる様になった様だ。
彼女は魔神帝の力を感じ取り、申し訳なさそうに顏を伏せる。
「君のせいじゃないよ、リリス。決して君のせいじゃない」
「カモネギ……」
そんなリリスを、ビートが力強く抱きしめる。
「全て僕に任せてくれ。そう言えればいいんだけど……今の僕の力じゃ、君を守ると誓う事は……ごめん」
ビートからしたら好きな相手なのだから、絶対守ってやりたい所だろう。
だがそれは絶対に不可能だ。
正直者の奴は気休めを口にする事も出来ず、口惜しそうに歯を食い縛った。
「ううん、謝らないで。私はもう一度あなたと会えた。それだけで十分よ……」
「リリス……」
二人は見つめ合う。
ゲンナリ顔の俺を無視して。
普段なら光の速さでぶん殴っている所だが、本当に冗談抜きで、人生最後のいちゃつきになるだろうから堪えてやる。
「くくく……随分と面白い力を持っているな。その力をばら撒かれても厄介だ。これでますます、貴様を生かしておく訳にはいかなくなった。ここで確実に始末させて貰おうか」
言ってみれば、俺はパワーアップ量産機だ。
魔神帝の立場からすりゃ、そりゃ真っ先に殺す必要があるわな。
いくら今の奴の強さが出鱈目とは言っても、異世界人全員を覚醒とかなったら、どうなるか分かった物じゃないだろうし。
「そいつはどうも。痛み入るぜ」
声を掛けられ、俺は魔神帝へと視線を向ける。
特に構えを取っている訳ではないが、その雰囲気から、奴が既に戦闘態勢に入っているのが分かった。
リリス達のいちゃつきが終わるのを、流石に待ってくれる気はない様だ。
「ビート。タイムアップだ」
「分かってる。リリスは下がっていて――」
ビートがリリスを抱きしめていた手を離し、守る様に前に出ようとする。
が、リリスがその動きを制した。
「何言ってるの。私も一緒に戦うわ。死ぬときは一緒。でしょ?」
「リリス……分かったよ」
「さて、死ぬ準備は出来たか?まあ出来ていなくとも、もうこれ以上待つつもりはないがな」
魔神帝は、特にリリスを操る素振りを見せない。
まあ戦闘能力差を考えれば、わざわざ操る必要なんてないから当然か。
「俺が突っ込むから、お前らは適当に合わせろ」
作戦なし。
連携も基本なしだ。
即興の付け焼刃なんか、通用しないだろうからな。
そもそも、俺は人に合わせるのが苦手だ。
どうせ負けるんだし、好き勝手に暴れさせて貰う。
まあビート達が上手く立ち回ってくれれば、その分魔神帝をぶん殴る機会が増えるかもだし、そこだけは少し期待だ。
ムカつくから、一発でも多くぶん殴ってやりたいしな。
「行くぞ!」
俺は真っすぐに、魔神帝に突っ込む。
「くくく。圧倒的な実力差を知って尚、臆さず突っ込んで来るとはな。流石は勇者だ」
魔神帝は微動だにせず笑う。
そのムカつく顔に、俺の拳を全力で叩き込んでやる。
フルパワーだ。
躱す気もないのか、奴の鼻っ面に渾身の俺の拳がめり込む。
クリティカルヒットと言っていい。
当然、不死身を崩す攻撃だ。
だが――
「くっ……」
奴の顔には痣一つ出来ていない。
完全なるノーダメージ。
殴った拳が猛烈に痛む。
チラリと確認すると、完全に砕けていた。
殴った方がダメージ喰らうとか……
差があるのは分かっていた。
勝ち目がない事も。
だが、こりゃいくら何でも理不尽すぎだろ。
どうせ死ぬなら殴って少しでも鬱憤を晴らしてやるとか思ってたが、それすらも無理な訳か。
もう笑うしかねぇな、こりゃ。
完!
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