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#14 本人との遭遇
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「じ、事情があったんだよ…うん」
「事情って、どんな理由なんだよ」
竜司と縁司の会話で、長谷部もようやく、今――車を運転する人物が。
自己紹介をした名前の男ではないと分かった。
だからこそ、騙されたというショックも大きかった。
彼の口ぶりと不機嫌な態度に、竜司も嘘を吐いたことがバレていたたまれなくなってしまう。
「縁司は、僕のぉ、弟なんだ」
「…あンたは、あんたが…兄さんの、竜司ってこと?」
「ぅ、うん」
「っかー~~っ! なんだって、ンな嘘を吐いたんだよ!」
そこを突かれては、竜司もぐぅの音も出ない。
しかも、割と怒っている長谷部にもこれ以上の嘘を吐きたくもなかった。
「弟の縁司君がママ活してね、…相手が君のお父さん、海潮さんだったんだ」
「へぇ? 本当なのかよ、その話しも」
疑って聞く長谷部に竜司も苦笑するしかない。
「本当のことしか言ってないんだけどなぁ」
「嘘しか言われなかったんだ、俺に疑われたってしょうがねぇだろう」
「だよねぇ」と竜司は自身の家兼職場へと向かった。
◆
竜司は親の親が開業したスイーツ店を継いでいた。
ただ、ネーミングは親の親のセンスで、
【極道】
なんて、入り辛いことこの上ない。
店内は至って普通の甘い匂いが香る空間だ。
トラの敷物も、クマのはく製もない。
ただ、強面の従業員は多いため、初めての客にとって冷や汗しか出ない。
しかしだ。1回でも店内に入りケーキに舌鼓をした日から、迷いもなく訪れることが出来る居心地のいい場所になる訳だ。誰にも、そんな雰囲気のある場所だと教えることもしなくない。
自身だけの安らげる空間。
「っご、くどうってのは…度胸が据わってんな。あンた」
「ぼ、僕じゃなくて祖父だよ?! 僕は店を継いだに過ぎないもん」
「あっそ」と長谷部も素っ気なくいう。
まだへそを曲げている彼に、
「ケーキとか、甘いものって食べられるかな?」
どうにか機嫌も直して欲しい竜司が聞く。
「…食えるけど」
長谷部は横目で竜司に言い返した。
それに竜司も満面の笑顔になった。
「じゃあ。店の中に入ろうよ!」
「ああ」
駐車場に停めた車から出たときだ。
「あー兄貴! 丁度よかったぁw」
真っ暗な中から自転車の音と、今日、1日の原因でもある縁司の声が竜司へと声をかけた。
しかし、もちろんのこと縁司の姿は見えない。
「もう寝ちまったのかと思っちゃったよぉう♡」
しかし、近づく音に向かって来ていると分かる。
「僕もたった今、帰って来たばかりだよ。縁司君」
「あ。そぉうなのぉう~? ん? あれぇ、誰かと一緒だったんだぁ、兄貴ってば」
縁司は竜司の横の影に気がついた。がっしゃん、と自転車を停める音が聞こえると。
チカ!
「んお!?」
携帯で長谷部を照らした。
突然の光りの眩しさに長谷部も目を閉じた。
「…兄貴ぃ~~こいつはどこのどなた様なのぉう?」
「話せば長いけど。縁司君にも言わなきゃなんない話しだし、…早く店の中に入ろうよ」
「そぉうだなぁ~~」
などと話し合う中で、携帯の灯りを照らされ続ける長谷部も、
「ライトっ、消せっつぅのっっっっ!」
怒りに言い捨てると「っごっめぇん♡」と縁司も消した。
「あ。縁司君、ちょっと手元をライトで照らしてくれるかな?」
「ああ、いいぜぇ」
縁司の声に長谷部は、
(声が全然似てない。しかも、なんかチャラいんだな、本物の縁司って野郎は)
顔も見えない竜司の弟に鼻先で息を吐いた。
「それで。あンた、名前は?」
「…土岐長谷部」
「長谷部って、名前なの? 変わってんねぇえ」
「縁司君。止さないかい」
「だってさぁ~~長谷部って名前なんぜぇ?」
「…縁司君?」
強い口調で縁司に言う竜司に、
「はいはい」
縁司も口を閉じた。
「っご、ごめんねっ。長谷部君っ」
「…慣れってから平気…」
沸々と長谷部の中で、縁司の好感度もだだ下がりになっていく。
険悪な中で扉を開けると一気に天井の灯りが点いた。
「蛍光灯ね、人の気配で電気が点くんだ」
「へぇ」と天井を見上げて、長谷部はそのまま縁司へと視線を向けた。
その容姿に目も満丸くなってしまう。
確かに、縁司の顔も体格も。違うのは、今どきの服の着こなし方と髪型。
「改めてだけどぉ? オレが棗縁司だよぉう♡」
「チャラっ」
縁司の第一印象は、長谷部にとって最低の最悪になった。
「よろしくねぇ、長谷部君♡」
「事情って、どんな理由なんだよ」
竜司と縁司の会話で、長谷部もようやく、今――車を運転する人物が。
自己紹介をした名前の男ではないと分かった。
だからこそ、騙されたというショックも大きかった。
彼の口ぶりと不機嫌な態度に、竜司も嘘を吐いたことがバレていたたまれなくなってしまう。
「縁司は、僕のぉ、弟なんだ」
「…あンたは、あんたが…兄さんの、竜司ってこと?」
「ぅ、うん」
「っかー~~っ! なんだって、ンな嘘を吐いたんだよ!」
そこを突かれては、竜司もぐぅの音も出ない。
しかも、割と怒っている長谷部にもこれ以上の嘘を吐きたくもなかった。
「弟の縁司君がママ活してね、…相手が君のお父さん、海潮さんだったんだ」
「へぇ? 本当なのかよ、その話しも」
疑って聞く長谷部に竜司も苦笑するしかない。
「本当のことしか言ってないんだけどなぁ」
「嘘しか言われなかったんだ、俺に疑われたってしょうがねぇだろう」
「だよねぇ」と竜司は自身の家兼職場へと向かった。
◆
竜司は親の親が開業したスイーツ店を継いでいた。
ただ、ネーミングは親の親のセンスで、
【極道】
なんて、入り辛いことこの上ない。
店内は至って普通の甘い匂いが香る空間だ。
トラの敷物も、クマのはく製もない。
ただ、強面の従業員は多いため、初めての客にとって冷や汗しか出ない。
しかしだ。1回でも店内に入りケーキに舌鼓をした日から、迷いもなく訪れることが出来る居心地のいい場所になる訳だ。誰にも、そんな雰囲気のある場所だと教えることもしなくない。
自身だけの安らげる空間。
「っご、くどうってのは…度胸が据わってんな。あンた」
「ぼ、僕じゃなくて祖父だよ?! 僕は店を継いだに過ぎないもん」
「あっそ」と長谷部も素っ気なくいう。
まだへそを曲げている彼に、
「ケーキとか、甘いものって食べられるかな?」
どうにか機嫌も直して欲しい竜司が聞く。
「…食えるけど」
長谷部は横目で竜司に言い返した。
それに竜司も満面の笑顔になった。
「じゃあ。店の中に入ろうよ!」
「ああ」
駐車場に停めた車から出たときだ。
「あー兄貴! 丁度よかったぁw」
真っ暗な中から自転車の音と、今日、1日の原因でもある縁司の声が竜司へと声をかけた。
しかし、もちろんのこと縁司の姿は見えない。
「もう寝ちまったのかと思っちゃったよぉう♡」
しかし、近づく音に向かって来ていると分かる。
「僕もたった今、帰って来たばかりだよ。縁司君」
「あ。そぉうなのぉう~? ん? あれぇ、誰かと一緒だったんだぁ、兄貴ってば」
縁司は竜司の横の影に気がついた。がっしゃん、と自転車を停める音が聞こえると。
チカ!
「んお!?」
携帯で長谷部を照らした。
突然の光りの眩しさに長谷部も目を閉じた。
「…兄貴ぃ~~こいつはどこのどなた様なのぉう?」
「話せば長いけど。縁司君にも言わなきゃなんない話しだし、…早く店の中に入ろうよ」
「そぉうだなぁ~~」
などと話し合う中で、携帯の灯りを照らされ続ける長谷部も、
「ライトっ、消せっつぅのっっっっ!」
怒りに言い捨てると「っごっめぇん♡」と縁司も消した。
「あ。縁司君、ちょっと手元をライトで照らしてくれるかな?」
「ああ、いいぜぇ」
縁司の声に長谷部は、
(声が全然似てない。しかも、なんかチャラいんだな、本物の縁司って野郎は)
顔も見えない竜司の弟に鼻先で息を吐いた。
「それで。あンた、名前は?」
「…土岐長谷部」
「長谷部って、名前なの? 変わってんねぇえ」
「縁司君。止さないかい」
「だってさぁ~~長谷部って名前なんぜぇ?」
「…縁司君?」
強い口調で縁司に言う竜司に、
「はいはい」
縁司も口を閉じた。
「っご、ごめんねっ。長谷部君っ」
「…慣れってから平気…」
沸々と長谷部の中で、縁司の好感度もだだ下がりになっていく。
険悪な中で扉を開けると一気に天井の灯りが点いた。
「蛍光灯ね、人の気配で電気が点くんだ」
「へぇ」と天井を見上げて、長谷部はそのまま縁司へと視線を向けた。
その容姿に目も満丸くなってしまう。
確かに、縁司の顔も体格も。違うのは、今どきの服の着こなし方と髪型。
「改めてだけどぉ? オレが棗縁司だよぉう♡」
「チャラっ」
縁司の第一印象は、長谷部にとって最低の最悪になった。
「よろしくねぇ、長谷部君♡」
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