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#16 縁司と長谷部
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長谷部が縁司から顔をそっぽ向く。そんな彼を縁司がニヤニヤと見ている始末で、それには竜司もハラハラとなってしまうものの、なんて声をかけていいかも分からずにいた。
(縁司君もアレだけどっ。長谷部君の気持ちも分かるもんなぁ)
「それでぇ? 兄貴の耳のピアスが、その男色男から貰ったやつなの?」
縁司が耳たぶをとんとん、と指差した。
それに竜司も、
「あ。ぅ、うん! そうなんだっ」
両耳に指を置いた。
「キレイな石じゃんw」
まじまじと見る縁司に竜司もピアスを外した。
「? 何、どうかしたの?」
「これは、…縁司君が貰ったものだから。僕のじゃないから」
「ああ。そうかぁ」と縁司は掌を出し、2つのピアスを受け取った。
その様子に長谷部も小さくも滑舌もよく言い放つ。
「身代わりにさせて、おっさんから貰ったものも奪うのかよっ」
それに縁司の身体も、表情も強張ってしまう。
「あんだってぇ~~? 長谷部君ンん??」
上擦った声で縁司が長谷部に聞き直した。
「意地汚ってつってんだよっ」
背けていた顔を縁司へと向けた。
「ぁ、っや! 長谷部君っ、いいんだよ?! 僕なんかが貰ったもんじゃないんだしっ」
慌てて竜司が長谷部に言い返した。
「違う! 貰ったのは竜司さんだ! こんなクソっみってぇな弟なんかじゃない!」
強い口調で長谷部が竜司に吐き捨てた。ただ、その言葉は縁司を否定するもので、否定された側にとって面白いハズもなく。気分もいいものではない。
「くそってのはどうなのかなぁ? また、天井を拝みたいのかなぁ?」
にこやかにドスの効いた口調で、拳を鳴らす縁司の静かな怒りに竜司も慌ててしまう。
「っは、長谷部君っ。僕はいいんだよ? こういうのは若い子がつけないと! 僕なんかみたいなおじさんがつけなんて年甲斐もないし、…ねっ?!」
「ほら。兄貴だってオレにくれるってよ? 長谷部君の負けねw」
そう言うと縁司は自身のつけていたピアスを外し、竜司が扇から貰ったピアスを嵌めた。そして、外したピアスを竜司へと手渡した。
「? え。何、縁司君? このピアス」
「兄貴にあげるw 折角、耳たぶに穴開いてんだし。埋めるってのも勿体ないじゃんかぁ」
「え?! っだ、だから、…僕なんかが、年甲斐もな――」
「いいじゃん? 老け込むなよ、兄貴」
縁司は竜司の正面から耳たぶにピアスを嵌めた。
扇から貰ったピアスとは違う、縁司が以前のママ活で買って貰った決して安くもない蛋白石のピアスだ。透明度のないピンクの石。
縁司も知らないが、《キューピットストーン》と呼ばれるものだ。
ママ活での女性からの縁司への、真心と願いが込められ購入された宝石でもある。
「ちょっと、…僕には、ちょっと派手じゃないかな? ねぇ、長谷部君??」
「いや。派手なんかじゃないぜ? 竜司さん」
「っそ、そぅかなぁ~~ぅう゛う゛」
困惑の声を漏らす竜司に縁司も、
「そぉう、そぉうw 似合う、似合う」
竜司の両耳たぶを掴み、ピアスを撫ぜた。そんな縁司の耳たぶで輝くのは扇から貰った玉髄の宝石だ。よく見れば、その宝石もピンクだが輝きは違うように思えた。
不意にだが。
『縁司君』
扇から自身に向けられた笑顔を思い出した。
しかしだ。
その笑顔も縁司に向けられた表情だという事実と現実。
(僕なんかじゃ、…相手にもされないよ。40過ぎのおじさんだし)
空しく、そして悲しくさえなったのだが。
ぐっと、泣きそうになるのも堪えた。
暗い表情になった竜司に長谷部も心配してしまう。
「竜司さん? 大丈夫か??」
「ぇ。ああ、うん。平気だよ? ごめんね」
「なぁ? つぅかさぁ? なんだって、このガキも一緒に家ン中に入って来てくつろいでる訳?」
ここで縁司が気がついたことを竜司に確認をした。
「長谷部君に香水ついちゃっててお母さんにバレたら、海潮さんが怒られるからって寄ってもらったんだよ」
「香水?」と縁司が長谷部へと顔を寄せて鼻をひくつかせて匂いを嗅いだ。確かに淡く花のいい匂いが漂って来た。キツくもなく、むしろいい匂いで。縁司にとって好きな匂いだ。
「お風呂に入るかい? その方がとれると思うんだけど」
「あー~~シャワーでもいいよ? わざわざ沸かすっても面倒じゃねぇの」
「僕もお湯に浸かりたいし。面倒なんかじゃないよ」と竜司は腰を上げて浴室へと向かった。その背中を見送る2人。
会話もなく、竜司の帰りを待つ。
「…長谷部君って何歳なの?」
無言を破ったのは縁司だった。
「16!」
ぶっきらぼうに言い返す長谷部に、
「若っ! てっきり、19くらいかと思ったw」
「若くて悪かったなっ! 死ねっ」
1つ言って2倍に、死ねとまで言われてしまい縁司も口をへの字にさせた。
「つぅか。あンたもいつまでいんの? 帰れば??」
「はァ? ここは兄貴の家であって、オレの実家でもあんですけどぉ~~?!」
「…ああ。兄弟だってこと忘れてたわ! 似てないからっ」
リビングの床に寝っ転がった長谷部を縁司も見下ろした。
若い少年に腹も立って仕方がない。口を開けば憎まれ口しか縁司に言わない彼。
縁司にとって、こんなにも正面から言って来る相手は久しぶりというか、今までにいなかった人種で。初めての経験だとすら思った上で、苛々と胸もザワつく。
「似てンだろ? よく一卵性の兄弟だって間違われるンだかんなw」
「はァ?! 目ン玉、腐ってんじゃねぇーの? そいつらさぁ」
挑発的に長谷部が憎まれ口を続けた。
縁司の不可解な感情のゲージも増していく。
そこへ。
「昨日、沸かしてたから、もう入れそうだよ~~」
険悪な空間に竜司がにこやかに戻って来た。
「あ。でも、新しいお湯のがいいかなぁ~~?」
(縁司君もアレだけどっ。長谷部君の気持ちも分かるもんなぁ)
「それでぇ? 兄貴の耳のピアスが、その男色男から貰ったやつなの?」
縁司が耳たぶをとんとん、と指差した。
それに竜司も、
「あ。ぅ、うん! そうなんだっ」
両耳に指を置いた。
「キレイな石じゃんw」
まじまじと見る縁司に竜司もピアスを外した。
「? 何、どうかしたの?」
「これは、…縁司君が貰ったものだから。僕のじゃないから」
「ああ。そうかぁ」と縁司は掌を出し、2つのピアスを受け取った。
その様子に長谷部も小さくも滑舌もよく言い放つ。
「身代わりにさせて、おっさんから貰ったものも奪うのかよっ」
それに縁司の身体も、表情も強張ってしまう。
「あんだってぇ~~? 長谷部君ンん??」
上擦った声で縁司が長谷部に聞き直した。
「意地汚ってつってんだよっ」
背けていた顔を縁司へと向けた。
「ぁ、っや! 長谷部君っ、いいんだよ?! 僕なんかが貰ったもんじゃないんだしっ」
慌てて竜司が長谷部に言い返した。
「違う! 貰ったのは竜司さんだ! こんなクソっみってぇな弟なんかじゃない!」
強い口調で長谷部が竜司に吐き捨てた。ただ、その言葉は縁司を否定するもので、否定された側にとって面白いハズもなく。気分もいいものではない。
「くそってのはどうなのかなぁ? また、天井を拝みたいのかなぁ?」
にこやかにドスの効いた口調で、拳を鳴らす縁司の静かな怒りに竜司も慌ててしまう。
「っは、長谷部君っ。僕はいいんだよ? こういうのは若い子がつけないと! 僕なんかみたいなおじさんがつけなんて年甲斐もないし、…ねっ?!」
「ほら。兄貴だってオレにくれるってよ? 長谷部君の負けねw」
そう言うと縁司は自身のつけていたピアスを外し、竜司が扇から貰ったピアスを嵌めた。そして、外したピアスを竜司へと手渡した。
「? え。何、縁司君? このピアス」
「兄貴にあげるw 折角、耳たぶに穴開いてんだし。埋めるってのも勿体ないじゃんかぁ」
「え?! っだ、だから、…僕なんかが、年甲斐もな――」
「いいじゃん? 老け込むなよ、兄貴」
縁司は竜司の正面から耳たぶにピアスを嵌めた。
扇から貰ったピアスとは違う、縁司が以前のママ活で買って貰った決して安くもない蛋白石のピアスだ。透明度のないピンクの石。
縁司も知らないが、《キューピットストーン》と呼ばれるものだ。
ママ活での女性からの縁司への、真心と願いが込められ購入された宝石でもある。
「ちょっと、…僕には、ちょっと派手じゃないかな? ねぇ、長谷部君??」
「いや。派手なんかじゃないぜ? 竜司さん」
「っそ、そぅかなぁ~~ぅう゛う゛」
困惑の声を漏らす竜司に縁司も、
「そぉう、そぉうw 似合う、似合う」
竜司の両耳たぶを掴み、ピアスを撫ぜた。そんな縁司の耳たぶで輝くのは扇から貰った玉髄の宝石だ。よく見れば、その宝石もピンクだが輝きは違うように思えた。
不意にだが。
『縁司君』
扇から自身に向けられた笑顔を思い出した。
しかしだ。
その笑顔も縁司に向けられた表情だという事実と現実。
(僕なんかじゃ、…相手にもされないよ。40過ぎのおじさんだし)
空しく、そして悲しくさえなったのだが。
ぐっと、泣きそうになるのも堪えた。
暗い表情になった竜司に長谷部も心配してしまう。
「竜司さん? 大丈夫か??」
「ぇ。ああ、うん。平気だよ? ごめんね」
「なぁ? つぅかさぁ? なんだって、このガキも一緒に家ン中に入って来てくつろいでる訳?」
ここで縁司が気がついたことを竜司に確認をした。
「長谷部君に香水ついちゃっててお母さんにバレたら、海潮さんが怒られるからって寄ってもらったんだよ」
「香水?」と縁司が長谷部へと顔を寄せて鼻をひくつかせて匂いを嗅いだ。確かに淡く花のいい匂いが漂って来た。キツくもなく、むしろいい匂いで。縁司にとって好きな匂いだ。
「お風呂に入るかい? その方がとれると思うんだけど」
「あー~~シャワーでもいいよ? わざわざ沸かすっても面倒じゃねぇの」
「僕もお湯に浸かりたいし。面倒なんかじゃないよ」と竜司は腰を上げて浴室へと向かった。その背中を見送る2人。
会話もなく、竜司の帰りを待つ。
「…長谷部君って何歳なの?」
無言を破ったのは縁司だった。
「16!」
ぶっきらぼうに言い返す長谷部に、
「若っ! てっきり、19くらいかと思ったw」
「若くて悪かったなっ! 死ねっ」
1つ言って2倍に、死ねとまで言われてしまい縁司も口をへの字にさせた。
「つぅか。あンたもいつまでいんの? 帰れば??」
「はァ? ここは兄貴の家であって、オレの実家でもあんですけどぉ~~?!」
「…ああ。兄弟だってこと忘れてたわ! 似てないからっ」
リビングの床に寝っ転がった長谷部を縁司も見下ろした。
若い少年に腹も立って仕方がない。口を開けば憎まれ口しか縁司に言わない彼。
縁司にとって、こんなにも正面から言って来る相手は久しぶりというか、今までにいなかった人種で。初めての経験だとすら思った上で、苛々と胸もザワつく。
「似てンだろ? よく一卵性の兄弟だって間違われるンだかんなw」
「はァ?! 目ン玉、腐ってんじゃねぇーの? そいつらさぁ」
挑発的に長谷部が憎まれ口を続けた。
縁司の不可解な感情のゲージも増していく。
そこへ。
「昨日、沸かしてたから、もう入れそうだよ~~」
険悪な空間に竜司がにこやかに戻って来た。
「あ。でも、新しいお湯のがいいかなぁ~~?」
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