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#20 それぞれのそんなにそんな

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「本当に、あの子は助っ人なのかい? ママ」

 2人が帰ったあと、扇は海潮を横に酒を煽っていた。
 ほろ酔いで、竜司のことを確認する扇に海潮も、
「ええ。そうなんですよ、ママ活で会った子なので」
 にこやかに当たり障りなく答えた。

「ママ活って…なんだい、それは?」
 
 おかわりのグラス交換にやって来たマユが扇に、
「お金がない男の子がお金を貰う為に、飢えた女性と付き合うことをママ活って言うのよ。王子様」
 簡単に言うとウインクをして、他のテーブル席にグラスを持って行った。

「簡単に、男の子の援助交際ってことかい? ママ」

「あの子にとって、アタシとは援助交際ボランティアですよ。ただ、目的はやっぱりお金ですけどから、そこは感謝の気持ちであげますよ。他の女性かたも、その分、男の子に気にいられようと必死に気をひくように頑張るんです。もちろん、私もですが」

 海潮の言葉に扇も脚を組み、顎のひげを指先でなぞり。
 聞き慣れない言葉に、扇も海潮に聞き返した。
「て、ことは。ママってば寂しくてママ活する男の子と会っていたってことなんだよね」
 確かめるような言い方に「ええ。私も、そういう気分のときもありますわ」とにこやかに扇に言い返した。海潮の言い返しに扇も笑い返した。

「今まであった男の子の中で断トツで、いい子でしたよ。落ち着きがあって、でもぎこちなくて――まるで縁司さんはママ活が初めてかのようでした」

「へぇ? そんなことママに分かるんだ?」
「ええ、分りますよ。伊達にママ活歴が長い訳じゃありませんからね」
 力強い言い方に扇も海潮に苦笑交じりに、
「飢え過ぎでしょーママってばw」
 からかうようにウインクをする。

「恋人がいないですから、たまには人肌が欲しくもなるものですよ」

「人肌って、…ママってば縁司君を食べちゃったのかいw?」
「いいえ。食べる前に、ここに来たものでして」
「食う気満々だった訳だw お手付きじゃないのなら、私が横から手を出しちゃってもいいのかな?」
 喜々と笑う扇に海潮も「あらあら」と目を細めた。

「ママの息子さんの長谷部君も性格的に可愛いから好きなんだけど、やっぱりおじさん的に未成年はキツいよねw 未成年じゃないなら、食ってもいいかなって思ったんだけどね」

 扇の息子への興味の言葉に「あらあら」と海潮は目を吊り上げた。

「顔とか、正確もだけど。華奢なところもだけど」

 マユが交換したグラスの酒を飲み、扇は竜司に思いを馳せた。
 扇の私生活では中々と出会えることのないタイプの竜司に新鮮さと、同時に、心が浮ついてしまう。店の音楽時間レコードタイムでの胸の突起を舐めたときの恥じらいの表情や、ペニスを舐めた誉めたときの反応に、長谷部を庇う優しい一面に。

「私は縁司君がタイプなんだよねぇw」

「ベタ惚れじゃないですか、王子様ってば」
「ははは。年甲斐もなく胸がドキドキしちゃってて困っちゃうよねぇー~~」
「いいじゃないですか。情熱を失くせば――老いるだけですわ」
 海潮の言葉に扇も、
「重い言葉を簡単に吐かないで頂戴よw ママ」
 眼鏡を外して顔を俯かせて目頭を押さえた。

「…彼の連絡先とか、ママは知っているのかな?」

 顔を上げて真剣な表情で扇は海潮を見据えた。
 普段の表情とは違う目の色を向ける扇に海潮も、
「知ってはいますけど、…あくまでも縁司さんはママ活目的ですよ?」
 苦言をするのだった。
 男と出会うためのサイトではないと。

「分かってるよぉーだっかっら、ママにも協力をしてもらいたいんだよねぇ~~」

「協力、ですか? 私が王子様の」
「そそw 私もまだまだ老いる歳じゃないからね、少しくらいは頑張ってみようかなって、思ってみちゃったり、ねw」
 軽い言葉でも、海潮には扇も本気だと分かるものだった。

「そんなに、そんなですか」

「うん。そんなにそんな感じw」

 扇の言葉に海潮も携帯を取り出した。

「仕方がないですね。お姫様に連絡をとってみましょう」

 ◆

「ぇえっと、…長谷部君。海潮さんには、身代わりのことは――」

「ああ。言わねぇ~~っての」
「! よかったぁー~~長谷部君ならそう言ってくれると思ってたんだぁ」
 ハンドルを掴み運転をする竜司は、助手席の長谷部に安堵の息を吐いた。
 離婚して別居しているとはいえ、海潮が自身のことを聞くのは時間の問題と思ったからだ。だからこそ、そのとき相手をするだろう息子の長谷部に釘を刺した訳だ。

「てかさぁ? 縁司は、もうママ活しねぇって思うか? 兄さん的に」

「…しちゃうと思うなぁ。縁司君も若いからねぇ」
 苦笑する竜司に「だよなぁ」と長谷部も相づちをうつ。
 少し、沈黙したあとに、
「あのさぁ? …俺、たまに店に行ってもいいか? 竜司さんの淹れるコーヒーとかケーキとか食いてぇから」
 長谷部が竜司へと顔を向けて言った。
 思いもしない言葉に竜司も頷いて言い返した。

「もちろんだよ! むしろバイトに来て欲しいくらいだもん」
「バイト?」
「あ。ごめんねっ、忘れてくれていいよ!」
 ここ最近、バイトをしていた子が大学進学の為に辞めてしまい。
 手が回らない事態になっていたから余計に、若い長谷部の手を借りたくなった。

「バイトいいよ? 俺もお小遣い欲しかったかんなw」

 思いがけない快諾に、竜司の目が輝いた。

「本当かい!?」
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