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#45 遭遇の竜司と一本背負い

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 縁司の挑発行為に扇の目もキョトンとしてしまう。

(ほんとに、っちっがぅうんっだよねぇええ!)

 萎えに萎えてしまっている。
 興味も薄れて、キスをする行為も雑になって味わうこともしない。
 ただ、本当に彼はなんなのかと。
 店で出会った竜司の顔ばかりが頭の浮かんでしまうのだ。

 どちらかというならば。

(あの人の悶えて、……トロ顔のが視たいねぇw)

 今、押し倒している彼のことなんか忘れて思いに耽ってしまう。
 失礼だとは思う反面、仕方がない。と割り切ってしまう扇がいるのだ。

 この組み敷く彼は望んでいる彼なんかじゃない。

 言い切れる自信が、今の扇にはある。

 キスを受け入れる彼の目が険しく、嫌悪の色すら浮かんでいる。
 視たい顔はこんなものなんかじゃない。

 惚けた顔。

 トロけた顔だ。

 潤んだ目で見て欲しい。

 薄く開けた唇から――名前を呼ばれたい。

(童貞じゃあるまいしw)

 想えば想うほどに募ってしまう。

(しっかしw どうやって終わらせたらいいのかなぁw)

 縁司との飽きたキスを、なんと言って区切って終わらせればいいのかと。
 こんな気持ちは初めて、扇も戸惑っている。
 相手への気持ちも配慮しつつ、やんわりとどう止めればいいのか。
 悩んでいる扇の舌も口腔内で止まると抜き、ただソフトな口づけとなっていた。
 それに縁司も、背中を叩いた。

「ん? っなぁあにぃ?」

「退けろよ、ジジイw」

 苦笑して降りるように吐き捨てる縁司に、
「はいはいw」
 扇も安堵の息を内心で吐き言われるがままに動いた。

「兄貴に見られてるぜぇ?」

「……はァああ????」

 薄暗い店内で、縁司を押し倒し組み敷いていた為に気がつかなかった。
 すぐ横で立っていた竜司の存在になんか気がつくはずがない訳だ。
 だから、顔を動かすことが出来ない。

 っどっどっどっど――……

 心臓音が高鳴った。

 息を吸い込むことすら出来ない始末だ。

(ぇ、……えぇえっと……)

 口もパクパクとさせる。
 どうにか竜司の顔を、表情も見たいのだが。
 緊張してままならない。

(なんで話さないの? っも、もぅいないとか!?)

 ゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと、顔を竜司がいるだろう方へと向けた。

「ぁ、……竜司、さん?」

 扇が視た竜司の顔に表情はなかった。
 しかし、小刻みに揺れているのが分かる。
 怒りか、悲しみか。
 
 ギシ!

 扇が立ち上がり竜司の肩に触れた瞬間。

「っぼ、僕に! 触るなぁああ!」

 一本背負いをされてしまう。

 とても美しく弧を描きながら勢いよく床に叩きつけられた扇の身体が悲鳴を上げた。
 背中からビリビリと痛みが広がり、

「っだぁああぃいい!」

 涙声で扇が吠えた。

「あ」

 咄嗟にしてしまった行為に竜司も我に返ったのだが。
 してしまった行為に茫然としてしまう。

「ぁあァああ……っつ!」

 頭を抱える竜司に長谷部が声をかけた。
「竜司さん? ここから出よう? ね?」
「ぅ、うん」
 いそいそと長谷部は竜司を連れ去ろうとするのだが。
「長谷部っ、手前!」
 口許を拭きながら縁司も傍に寄ると長谷部の顎に手をやり、強引にキスをした。

「っむ゛!」

 ソフトな口づけで長谷部を縁司は離した。

「消毒しねぇとさぁ!」

「俺の口は消毒液なんかじゃないんですけど!」

「うっせぇよ! くそクズ野郎っっっっ‼」

 苛立った口調で言い合う2人を他所に。
 竜司は顔面蒼白だった。

 好きな彼に一本背負いをしてしまったのだから。
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