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勘違いド近眼の入学試験

・弩近眼の入学試験 - クラウザーさんと高速ごますり -

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「で、ですがっ、トリプルスコアの怪物ですぞ……っ?!」
「はぁ? そんなの何かの間違いに決まってる。この俺の3倍なんて、あり得るわけがない」

「ですが事実、あの男はあの巨大なボウガンに、軽々と矢をつがえるほどの怪力……! あまりに危険にございます、坊ちゃま!」

 坊ちゃまとやらはロートゥル主任の言葉を信じなかった。
 俺の目の前ににやって来て、ご親切に顔を近付けて来た。

「う、うぉっ、な、なんだよお前っ!? お、俺は男になんか興味ないぞっ!?」
「すまん、癖なんだ」

 坊ちゃまと呼ばれるくらいだから、どんなお上品な顔かと思えば、不良みたいに髪をポンパドールにしたクソガキだった。

 背は俺と同じくらい。髪は黒。頬に刀傷がある。
 チンピラ系バカ息子と名付けよう。

「ま、まあいい……っ。おいお前、最後の剣術の試験が終わってないそうじゃねーか。最後はこの俺が、実力を計ってやるよっ」
「お待ち下さい、坊ちゃま! その男は怪物、そのご判断は賢明でありません!」

「うっせーぞっ、おめーは無能だったって、親父らに言い付けんぞっ!」
「そ、そそそ、それだけはご勘弁を!」

「おい、こいつを使え。さあ、受け取ったら俺と勝負だ!」

 刃の潰された短い剣、グラディウスを持たされた。
 受け取ると坊ちゃまは自分の剣を抜き、恐らく真剣であろうそれを俺に向けた。

 ヤツの剣の長さは、こちらのグラディウスの倍もある。

「なあ、ナチュラルにズルくない? お前の頭って、ナチュラルテイスト製法?」
「ズル? なんのことだ? 自分の剣を持ってないお前が悪い」

「うわ、きったねー……」

 重弩と矢筒を下ろして、グラディウスだけを片手に握った。
 人生前向きが1番。ここはあえてこう考えよう。

 よくわかんないけど!
 とにかくこの主席2位を倒せば、合格確定ってことだ!

「言っとくが俺様は、中等学校では負けなしだったんだぜ」
「ははは、どうせ今みたいに八百長したんだろ」

「なんだとテメェッ!」
「客観的な意見を述べただけだ。現在進行形で不正をしようとしているやつが、過去で不正をしていないわけがない」

「う、ぐ……っ、い、言わせておけばお前ェェッッ!! 俺は不正なんてしてねぇっっ!!」
「いやしてるじゃん、今」

 とりま、逃げた。
 え、なんで逃げるかって?
 相手の方が武装が重いから。

「ま、待てっ、卑怯だぞお前っ!!」
「いやいや、そんな長くて鋭そうなやつ、振り回しながら言われても」

 こういった場合、別に正面から正々堂々戦わなきゃいけないなんて決まりはない。
 相手が重武装なら逃げて、相手が疲れ果てるのを待てばいい。
 そう父さんに教わった。

「はぁっ、はぁっ、はぁぁ……っ、逃げるなぁぁーっっ!! 斬らせろぉぉーっっ!!」
「いや普通逃げるし。ほらこっちこっち、鬼さんこちら~、手の鳴る方へ~」

「俺様をバカにするなぁぁっっ!!」

 ついにキレたお坊ちゃんは、その両手のロングソードを俺に投げ付けた。
 だけど悪いね、お坊ちゃん。

 俺、目は悪いけど、動態視力だけはなんか人間離れしているんだ。
 軽々とそれをグラディウスで弾いて、急反転してやつの首に刃を突き付けた。

「はい、これで俺を不合格にしたら、君も落第確定ってことで」
「ぼ、ぼぼぼ、坊ちゃまあああっっ?!!」

 こっちが勝ったはずなのに、坊ちゃまの怒りはまだ収まらない。
 気になってまた顔を近付けてみると、憎悪の表情を向けられていた。

「許さねぇ……許さねぇぞ、テメェ……ッ! 卑怯者っ、この卑怯者っっ!」
「歪みすぎだろ、お坊ちゃん……」

「坊ちゃんじゃねぇっ! 俺様は、クラウザー・ヴォルフガング・クノル!」
「すげ、格ゲーのラスボスみたいな名前じゃん」

 灰色の骨、グレイボーンなんて名前より、俺もクラウザー様とか、クラウザーさんって呼ばれたかった。
 ああ、なんて羨ましい名前なんだろう。

「俺様は、13の迷宮を攻略し、9つの市と4つの町を支配する、あのクノル家の一員だぞっ!!」
「いや知らんし」

「はぁっ、なんで知らねーんだよっ?!」
「俺、田舎の方の出身だから、こっちのこと詳しくないんだ。ああけど、この機会に覚えておくよ、えっと……なんだっけ……。カップスープ家だっけ?」

「クノル家だっ!!」

 グラディウスを遠くに投げ捨てて、俺は重弩と矢筒の前に戻り、それを背負った。

「最後は筆記試験だな。案内してくれよ、ロートル教官」
「私と坊ちゃまに恥をかかせて、貴様ただで済むと思うなよ、小僧……!」

 うーん、全く反省してないな。
 こういうときはアレだ。
 トラブルになった時に便利な、あの魔法の言葉を使うとしよう。

「いいけど、そっちがその気なら、出るとこ出るよ?」
「な……っ、なにぃっ?!」

 どうしてもご理解いただけないお客様が現れたら、うちの店長はこのカードを切っていた。
 ハッタリだろうけどこれがよく効く。

「これ以上利害が競合するなら貴方を訴える。俺、一応これでも領主一族なんだ。ロウドック・オルヴィンって、聞いたことないか?」

 さらにそれなりの家柄であることを明かすと、ロートル教官は顔面蒼白になった。

「ま……まずいですぞ、坊ちゃんっ! 裁判沙汰となると、お父上の機嫌を損ねかねませんぞ!」
「う、うるさいっ、わかっているそんなことっ!! おい貴様っ、逃げ回った上に法を傘に着るなんて……卑怯だぞ、おいっ!」

 ほんとバカだな、コイツ……。
 始末に負えないお坊ちゃんに振り回されるロートル教官が、哀れになってくるほどだった。

「英雄ロウドック殿のご親族であらせられるなら、もっと早く教えていただきたかったものですな……っ! いやお強いわけです、グレイボーン様」

 へ……っ?

「う、うわ……変わり身早……っ」

 ロートル教官は高速ごますりを始めた!
 グレイボーンはロートル教官の弱点を発見した!
 ぶっちゃけ彼は、権威に弱い!

「筆記試験会場はあちらの本校舎の2階にございます! してどうかこのことは、音便に、音便にお願いいたしますっ、グレイボーン様……っ!」
「それはそちらの動向次第だ。こちらに不都合があれば粛々と訴える」

 クラウザー様は何も言わない。
 いまだに怒り心頭でうなっていたけど、訴えられたらまずいことくらいは、わかっているみたいだ。

 いや、すごいね。
 出るとこ出るよ、のパワー。

「またな、カップスープ」
「クノルだっ!! 俺はクラウザー・ヴォルフガング・クノルだっっ!!」

「はいはい、クラウザー様クラウザー様」

 残念なクラウザー様とお別れして、よくわからんけど直感任せで、筆記試験の会場に向かった。

 ……うん、たぶん、こっちだよな?
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