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マレニア在籍二年目、一学期

・2年生代表グレイボーンの入学式 - 余計なことはするなよ? 絶対にするな -

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 学院長室で待っていたのは、学院長とクルト教官だった。
 2人は俺の遅刻を責めもせず、特にクルト教官は気さくに迎えてくれた。

 いや、ただ……。

「え……っ、えええええええーーーっっ?!!」

 リチェルが絶叫するほどに、用件の方に大きな問題があった。

「アンタら、正気か?」

 俺にはその決定が正気のさたとは思えなかった。
 というのもクルト教官の通訳によると、明日1年生の入学式が執り行われる。

「いかにも!!」
「議会からの後押しもある。議員たちはよっぽどお前のことがお気に召したようだ」

 その入学式にて、グレイボーン・オルヴィンは、新入生に向けてスピーチを行うように。
 そんな要請を下すやつがもしいたとしたら、正常な精神状態ではないと言えよう。

「で、でも……っ、でもリチェルのお兄ちゃんは、あの……っ」
「ああ、自分で言うのもなんだが、俺は最悪だぞ」

「えーーっ、リチェルそこまで言ってないよぉーっ?!」
「ロウドックの息子よ。見ろ!」

 書斎机に何か紙切れが叩き付けられた。
 俺は机に寄って、その紙を拾い上げて眼球に近付けた。

 それは何かの表のようだ。
 2071という数字が5507になっている。
 その上には入学志望者数とあった。

「天晴れなり」
「いや、どういうこっちゃ……」

 リチェルにその紙を渡すと、身を大きくはねさせて驚いていた。

「去年の異界化事件、覚えているな?」
「あんなもん一生忘れられん」

「お前とカミルが都を危機から救った。特にお前の重弩が、竜や巨人を貫き、状況を一変させた」
「そうだったか? セラ女史の焼き討ちの方がよっぽど鮮烈だったと思うが?」
「ぅ……っっ?!」

 女史の話をすると学院長が声を詰まらせた。

「すまん、せっかくの出張中だったな」
「う、うむ……」
「つまりだな、今年の新入生はその大半が、グレイボーン・オルヴィン、お前に憧れている」
「えっ、ええええーっっ?!」

「冗談だろ……?」

 それ、実物を見たら幻滅するやつじゃないか。
 だがなるほど、俺に白羽の矢が立った経緯だけはこれでわかった。

 学校側としては、グレイボーン・オルヴィンは表にお出ししたくないトラブルメーカーであるが、ここで出さないわけにはいかない。

 というわけか。

「ロウドックの息子よ……ワシは、お前を信じている。信じているから、おかしなことは、するな……」
「あんまり信じてないやつだろ、それ……」

 しかし在校生代表としてのスピーチか。
 どうもおかしなことになった。
 だが……まあ、断るほどのことでもないか。

「わかった、やろう。俺なりに伝えたいことを叩き付けてみよう」
「いやそれは止めろっ、台本はこちらで用意しておいたからっ、余計なことはするなっ!」

 クルト教官に便せんを渡された。
 台本があるならそれで構わないが、そこにアドリブで主張を追加しても別に構わないだろう。

「大丈夫かな……。お兄ちゃん、変なこと、言っちゃダメだよ……?」
「言うようになったな、リチェル。こんなもの台本通りに読むだけだ、なんの心配もない」

 便せんをヒラヒラとはためかせてから、内ポケットに押し込んだ。

「ワシ……胃が、痛い……」
「余計なことはするなよ? 絶対にするな、わかったな?」
「フリか?」

「お前はもう先輩なんだっ、くれぐれも新入生を失望させるなっ!」
「やらかすこと前提で言うなよ……。台本通りに読むだけなら、誰にだって出来る」

 話はこれで終わりだろう。
 俺はリチェルの背中を押して、なんか書斎机にうずくまっているように見える学院長と、深いため息を漏らすクルト教官と別れた。
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