32 / 98
魔王城編
魔王城、下層探索 (2)
しおりを挟む
午前中を通路の探索に費やし、午後は通路の途中にあった大きな扉の先を調べることにした。
どっしりとした両開きの大きな扉をライナスが開くと、その先に広がった光景に戸惑って、私は目を見張った。そこは、魔王城にはあまり似つかわしくない場所だった。
図書室だ。
円形の部屋の壁はすべて本棚となっていて、ぎっしりと本が詰まっている。
天井全体が淡く光を発していて、部屋の中は洞窟の中とは思えないほど明るかった。まぶしいほどではなく、本を読むのに適したほどよい明るさだ。
本が好きな私は、さっそく端から順に蔵書を調べ始めた。ライナスもそれに続く。
ライナスは、こう見えて実は結構な読書家だ。
私も本は割と読むほうだと思うけど、ライナスには遠く及ばない。何しろ本を読む速さが、私とはまるで違うのだ。ライナスがページを繰る速さは、私の二倍では済まないと思う。三倍か四倍くらいに速く感じる。本当に読んでいるのか、最初は疑わしく思ったほどだ。
でも間違いなくちゃんと読んでいて、きちんと内容も頭に入っている。だから知りたいことや読みたいものがあるときには、ライナスに聞けばすぐに答えが返ってくる。とても便利だ。これだけ博識なら、たとえ勇者に選ばれなかったとしても、学者として十分に身を立てられたのじゃないかと思う。
次男だと継ぐ家がないので、もしかしたら将来を考えて勉学に励んでいたのかもしれない。
ライナスと私は、入り口の両脇からそれぞれ反対方向に向かって書棚に置かれた本を調べていった。ときどき振り向いて位置を確認すると、やはりライナスは進みが速い。別に競争しているわけではないのだから気にしなければよいのだけど、つい気になってしまう。
ここの蔵書は、年代も言語も分野も、すべてにおいて幅広かった。古書としての価値が高そうな大昔の本もあるし、さまざまな国の本が取りそろえられている上、小説から事典まで、ありとあらゆる本が集められていた。
言語別に仕分けられてはいないので、タイトルを追うだけでもなかなか骨が折れる。
やっとひと区画分の確認が終わり、ライナスのほうを振り返ったら、いつの間にかもう全体の三分の一ほどの場所まで進んでいた。早い。早すぎる。
私が手をとめて見ているのに気づいたのか、ライナスが振り返った。
「フィー! そろそろひと休みする?」
「うん」
返事をしておきながら、ライナスとの進み具合の違いに呆然としていると、ライナスが声をかけてきた。
「どうしたの?」
「ねえ、どうしてライはそんなに速いの?」
「え? 何が?」
「文字を読むのがよ」
「そんなに速いかな」
「速いでしょ! 見てよ、この差!」
自分の終わらせた一区画と、ライナスの終わらせた場所までの量の差を身振りで示す。明らかに三倍以上の差がある。
「自国語以外はすっ飛ばしたし、似たような本が多かったせいじゃない?」
「それはこっちも同じなんですけど……」
試しにライナスが終わらせた棚を見に行ってみたけど、私の確認した棚と大差ない。棚の違いによる差ではないと、確信を持って言える。
「だったら、習慣の差かな」
「習慣?」
「俺は基本的に流し読みしかしないから、じっくり読むフィーのほうが時間かかるのは当たり前だと思うよ」
そうだろうか。何か違う気がする。
それはそれとして、ライナスが何だか社交的な言い回しを身につけていることに気づいてしまった。社交性に乏しいやつだと思っていたのに、いつの間にこんな話し方をするようになったのだろう。
こんなふうに言われて私が反論したら、ただ絡んでるだけのようにしかならないじゃないか。こうなったらもう、ライナスの言葉で無理やり納得するしかない。いろいろな意味で釈然としなかった。
どっしりとした両開きの大きな扉をライナスが開くと、その先に広がった光景に戸惑って、私は目を見張った。そこは、魔王城にはあまり似つかわしくない場所だった。
図書室だ。
円形の部屋の壁はすべて本棚となっていて、ぎっしりと本が詰まっている。
天井全体が淡く光を発していて、部屋の中は洞窟の中とは思えないほど明るかった。まぶしいほどではなく、本を読むのに適したほどよい明るさだ。
本が好きな私は、さっそく端から順に蔵書を調べ始めた。ライナスもそれに続く。
ライナスは、こう見えて実は結構な読書家だ。
私も本は割と読むほうだと思うけど、ライナスには遠く及ばない。何しろ本を読む速さが、私とはまるで違うのだ。ライナスがページを繰る速さは、私の二倍では済まないと思う。三倍か四倍くらいに速く感じる。本当に読んでいるのか、最初は疑わしく思ったほどだ。
でも間違いなくちゃんと読んでいて、きちんと内容も頭に入っている。だから知りたいことや読みたいものがあるときには、ライナスに聞けばすぐに答えが返ってくる。とても便利だ。これだけ博識なら、たとえ勇者に選ばれなかったとしても、学者として十分に身を立てられたのじゃないかと思う。
次男だと継ぐ家がないので、もしかしたら将来を考えて勉学に励んでいたのかもしれない。
ライナスと私は、入り口の両脇からそれぞれ反対方向に向かって書棚に置かれた本を調べていった。ときどき振り向いて位置を確認すると、やはりライナスは進みが速い。別に競争しているわけではないのだから気にしなければよいのだけど、つい気になってしまう。
ここの蔵書は、年代も言語も分野も、すべてにおいて幅広かった。古書としての価値が高そうな大昔の本もあるし、さまざまな国の本が取りそろえられている上、小説から事典まで、ありとあらゆる本が集められていた。
言語別に仕分けられてはいないので、タイトルを追うだけでもなかなか骨が折れる。
やっとひと区画分の確認が終わり、ライナスのほうを振り返ったら、いつの間にかもう全体の三分の一ほどの場所まで進んでいた。早い。早すぎる。
私が手をとめて見ているのに気づいたのか、ライナスが振り返った。
「フィー! そろそろひと休みする?」
「うん」
返事をしておきながら、ライナスとの進み具合の違いに呆然としていると、ライナスが声をかけてきた。
「どうしたの?」
「ねえ、どうしてライはそんなに速いの?」
「え? 何が?」
「文字を読むのがよ」
「そんなに速いかな」
「速いでしょ! 見てよ、この差!」
自分の終わらせた一区画と、ライナスの終わらせた場所までの量の差を身振りで示す。明らかに三倍以上の差がある。
「自国語以外はすっ飛ばしたし、似たような本が多かったせいじゃない?」
「それはこっちも同じなんですけど……」
試しにライナスが終わらせた棚を見に行ってみたけど、私の確認した棚と大差ない。棚の違いによる差ではないと、確信を持って言える。
「だったら、習慣の差かな」
「習慣?」
「俺は基本的に流し読みしかしないから、じっくり読むフィーのほうが時間かかるのは当たり前だと思うよ」
そうだろうか。何か違う気がする。
それはそれとして、ライナスが何だか社交的な言い回しを身につけていることに気づいてしまった。社交性に乏しいやつだと思っていたのに、いつの間にこんな話し方をするようになったのだろう。
こんなふうに言われて私が反論したら、ただ絡んでるだけのようにしかならないじゃないか。こうなったらもう、ライナスの言葉で無理やり納得するしかない。いろいろな意味で釈然としなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
144
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる