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帰還編

義兄の友人 (4)

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 その後、ご領主さまとお兄さま、王子さまとで今後の相談が始まった。
 私とライナスもその場にはいるけれども、基本的には聞いているだけだ。意見を求められることはないし、求められたとしてもきっと何かしら瑕疵のある案しか出せない。何しろ政治的な事柄に関しては、私たちの知識はあまりにも穴だらけで心もとないから。

 王子さまの考えとしては、封印前にやるべきことは三つあるらしい。
 まず、王さまを何とかすること。
 次に、ローデン家の家督を正統な後継者に戻すこと。
 最後に、ここにいるライナスこそが本物の勇者だと明らかにすること。

 それを聞いて、私は納得しかねて首をひねった。
 一番目と三番目の必要性は、わかる。でも二番目は別にいらなくない? だってすでに当主を継いだかたがいらっしゃるわけで、十年以上もそのかたが当主だったのだから、もうそれでよくない?
 ところがそんな私の素朴な考えは、あっさり王子さまに否定された。

 一般的な貴族であれば、別にそれでよい。しかしこれはローデン家の話である。従ってほかの貴族と同じように考えるわけにはいかない、と王子さまはおっしゃる。

 そもそもローデン家の成り立ちが、希少な回復系魔法使いを保護する目的で爵位を与えられたことが始まりなのだそうだ。権力を持つ者の間で奪い合いになったり、いいように利用されたりするのを防ぐには、その者自身に十分な地位を与えてしまえばよい。
 そういう目的の爵位なので、護るべき対象が後継者となっていないのは問題だ、というのが王子さまの説明だった。

 なるほど筋が通っている、ように聞こえる。
 とはいえ、どれほどの地位が与えられようとも、それよりさらに上の人から無茶を言われれば意味がない。父と母が駆け落ちせざるを得なくなったのは、まさにその理由からではないか。
 口には出さなかった私のその考えを読んだかのように、王子さまは苦笑した。

「言いたいことはわかるよ。だから父を何とかするのが最優先の課題なんだ」

 王子さまもお兄さまも簡単に「何とかする」とおっしゃるけども、どうにかしようがあるものなのだろうか。
 まあ、でも、いざとなったら強行突破した上で実力行使して、ライナスと二人で逃走すればいいか。国外に出てしまえば、きっと暮らしていくのに困ることはない。腕のいい薬師は、いつでもどこでも需要があるものだ。

 そんなことを思いながら目の前で行われている話し合いを黙って聞いていると、本気で「何とかする」ための不穏きわまりない計画が練られつつあった。一応、それなりに穏便な手段で何とかしようとするつもりではいるらしい。あくまで「それなり」に。ライナスと私はもちろん、その計画の主要な人員としてきっちり織り込まれている。

 近いうちにまた王都へ戻ることになりそうだ。
 王都でやらなくてはならないもろもろのことを思うと、緊張で胃が痛む。できれば王さまとは顔を合わせることなく済ませたいのだけど、計画を聞いているとそう都合よくいきそうもない。

 聞いているうちに自分でも顔がこわばってきたのがわかる。
 自分の膝の上に載せた手を、いつの間にかこぶしが白くなるほど固く握りしめていた。冷たくなったその手を、ふいに温かい手が包み込んだのを感じて目をまたたいた。ライナスの手だ。横目でそっと彼をうかがい見ると、こちらに視線を向けることなく私の手を包む彼の手にぎゅっと力が込められた。
 それだけで何だか急に気持ちが軽くなる。

 私もライナスの手を握り返し、そのまま話し合いが終わるまで手をつないでいた。
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