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第3章 王立魔法学校入学編

185 空き時間

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「よし!やめっ!」

モニカ先生のかけ声が周囲に響き渡る。

「や、やったー!勝ったぞ!」
「負けたーっ!」

走っていた足を止め、みんなが思い思いに叫ぶ。
追いかける側の生徒たちの頑張りにより、逃げる側が残り12人になった時には負けることを覚悟したけれど、後半に追いかける側の体力が尽き、その隙をついて円の中に囚われていた私たちが救出された結果、逃げる側の生徒の勝ちとなった。
私も息を整えると、勝利を喜ぶ。
開始早々に捕まってしまった時はがっかりしたけれど、救出されて以降は捕まる事無く、無事に走りきることができた。

「見張りがいる中、見事に円の中にいる生徒を救出する事ができた逃げる側の勝利だな。おめでとう。だが、追いかける側の生徒も円の前で見張り役を作ったり、個々で追いかけるのではなく連携したりと、勝つために色々と工夫していたのは良かったぞ!要は追いかける側も逃げる側もよく頑張ったと言うことだな」

負けて悔しそうにしていたフィン君たちもモニカ先生に褒められ、嬉しそうだ。
最後にもう一度柔軟体操をして、運動した後の体をクールダウンさせ、授業は終了した。

「次の授業が武術の生徒は着替えなくて良いが、更衣室においてある着替えは置いたままにせず、持って食堂に向かうように」

モニカ先生はロープを回収すると、その場をあとにする。
じっと大人しく待っていたマーブルを抱き抱え、床にぺたりと座り込んでいたフィン君に近づく。

「フィン君、お疲れ様」
「お疲れー。やっぱり、時間内に全員捕まえるのは難しかったかー。最後は体力が追い付かなくって、時間切れになっちゃったよー」

逃げる側は人数が多かったので、追いかけられている時以外は休憩できたけれど、追いかける側はそういう訳にもいかず、時間一杯走っていたフィン君は少し辛そうに顔をしかめていたので、フィン君の体力が戻るまで、その場にとどまることにした。

「でも、フィンもだけどさ、選ばれた10人とも足早すぎだよなっ!追いかける側があと2人いたら、やばかったぜ」
「そうは言うけど、ハルは一度も捕まらなかったじゃないかー」
「この中だと、捕まらなかったのはハル君だけだね!わたしもアミーも結局捕まっちゃったし」
「へへっ。俺は足の早さは人並みだけど、体力には自信があるからな」
「あたしも体力には自信があったんだけどな」
「でも、アミーちゃんもキャシーちゃん長い間捕まらず、頑張って走ってたよね。私なんてすぐに捕まっちゃったんだから」
「サラちゃんは災難だったねー。最初の方で集中的に追いかけられてたの見てたよー」
「あ、あはは。足には自信があったんだけど、思い込みだったみたい。呆気なく捕まっちゃったよ」

フィン君にも見られていたとは。
こちらに話題をふられ、羞恥心で顔が勝手に赤くなってしまう。

「みんなサラちゃんを捕まえたって自慢したくて頑張っちゃったみたいだねー」

フィン君はそう言うけど、私を捕まえた位で自慢になるのかな?

「それだけ加護持ちは特別ってことよ」

アミーちゃんの言葉で思い出す。
そうだった。私はこの国に5人しかいない加護持ちだった。
私だって加護持ちは憧れの対象だったのに、いざ自分が加護持ちになって精霊様たちが日常にいるのが当たり前になってしまうと、そんな気持ちもすっかり忘れてしまっていたよ。
だって、精霊王様なマーブルは出会った当初から私が守るべき大切な家族で、まさか精霊王様だなんて思いもよらなかったし、モスたちは出会ってすぐに叱りつけると言うとんでもない所業をしたのにも関わらず、何故か加護を授かると言う不思議さ。
私が想像していた精霊様像とはかけ離れたみんなの姿に、畏怖の心なんてすっかりどこかにいってしまったんだよね。
今だって、私が落ち込んでないか心配そうに私の様子を伺うモスの姿は、偉大な精霊様にはとても見えない。
これは果たして良い事なのか、悪い事なのか、悩ましいところだなぁ。

「みんな、待たせてごめんなー。もう、大丈夫!」

密かに悩んでいたら、ずっと座っていたフィン君がみんなに声をかけ、立ち上がる。
どうやら、体力が戻ってきたようだ。
みんなで更衣室に戻るけど、次の授業が武術のアミーちゃんとハル君、フィン君は制服に着替える必要はないので、先に食堂に行ってもらうことにする。
私は4限目にしか授業がないし、キャシーちゃんは午後の授業自体ないので、急ぐ必要がないからだ。

「私たちは3限目がないから、先に食べちゃってて良いからね」
「ありがとう。じゃあ、先にいってるわね」

アミーちゃんを見送ったあと、制服に着替え始める。

「わたしはこれで授業は終わりだけど、サラはどうするの?4限目が始まるまで暇じゃない?」
「うん。でも、前から行きたいと思ってたところがあるから、そこに行こうと思って」
「行きたいところ?」
「うんっ」

確かに、この微妙な空き時間はなんの目的もないと退屈な時間になりそうだ。
でも、ずっと行ってみたかった場所があった私としては、まさに待ちに待った空き時間だった。
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