上 下
221 / 277
第4章 王立魔法学校一年目

256 マーブルにお任せ!

しおりを挟む
朝礼が終わって教室に戻ると、教室の中が先週と違っていることに気づく。
違和感の正体は、後ろに設置されたサークルだ。
空いた空間を囲うように柵が設置されていて、その中には毛布やらクッションやらが所々に置かれていた。

「なんだあれ?」
「先週までなかったよね?」
ず全員が椅子に座る。召喚獣も一緒だ。
そう、いつもと違うのはいつの間にか設置されていたサークルだけではない。
レベッカ先生に言われて常に一緒に行動していた召喚獣達も、これから一緒に授業を受けることになるのだ。

「あっ。こら!大人しくしろ」
「わふっ♪」
「ひっ!」

すると、朝礼の時はハル君の腕の中ですやすやと気持ちよさそうに眠っていたスピカが、すっかり目が覚めてしまったようで、ハル君の膝の上から降りようと暴れだした。
その際にスピカの前足が隣の女の子に触れたようで、彼女の引きつった声が教室に響いた。

「悪いっ。」
「う、うん」

彼女はぎこちない様子でハル君の謝罪をなんとか受け入れる。
でも、けっしてスピカに視線を向けることはなかった。
彼女は召喚獣を連れていないようだし、動物が苦手なのかもしれない。
席を変わってあげたいところだけれど、変わったところでほとんどの生徒が召喚獣を連れているのが現状だ。
それに、スピカのようにじっとしていられない召喚獣は結構いた。
朝礼中は静かだったのだけど、さすがにこれ以上じっとするのに飽きたのかもしれない。
きちんと大人しくしている召喚獣は少数派だ。
その少数派の中にはアミーちゃんの肩に大人しく乗っていたマカロンとシフォン、キャシーちゃんの膝の上で眠っていたソルテ、なぜかフィン君の首に巻き付いた状態のリプカもいた。

あっ!もちろん、マーブルも少数派だよ!
慣れたもので、ポシェットの中で大人しく丸くなっていた。
 
「このように、召喚してすぐの召喚獣は契約主の命令をきちんと聞かないことが多い」

このままでは授業に集中できないかもと思ったところで、今まで黙っていたモニカ先生がそう口を開いた。
どうやらあのサークルは召喚獣を入れるためのものだったようで、今までモニカ先生が黙っていたのは、私達に召喚獣との意思疎通の大変さを教えるためだったようだ。

「召喚学の授業を学んでいけば、こう言ったことは減っていくだろうが、しばらくの間は召喚獣はあのサークルの中で過ごしてもらう」

様々な種類の召喚獣を同じサークルの中にいれて、大丈夫か心配になったけれど、余計な心配だったようだ。
召喚獣達は契約主そっちのけで楽しそうにサークル内を駆けずり回っている。
マーブルをサークルに入れて、さぁ机に戻ろうと踵を返したところで、レイラちゃんがサークルの前で立ち尽くしていることに気づく。

「レイラ君、どうし…そうだった。君の召喚獣はアルラウネだったな」
「モニカ先生……。私のリアもこの中に置くべきなんでしょうか?」

レイラちゃんはサークル内を暴れまわる召喚獣達と腕の中にある植木鉢を見比べた後、モニカ先生に質問する。

……倒されるのは、確実だよね。

レイラちゃんも同じ気持ちのようで、すがるような瞳でモニカ先生を見つめていた。

「そうだな…、君の場合は柵の外に置いておきなさい」
「ありがとうございますっ!!」

モニカ先生の言葉に、レイラちゃんはホッとした様子でお礼を言うと、他の召喚獣が届かないぎりぎりの位置に植木鉢を置いた。
既に蕾の状態にまで成長したアルラウネの茎が、風もないのにゆらゆらと揺れている。
その様子がスピカの興味を引いたようだ。植木鉢に向かって必死に前足を伸ばす。
その度に柵がガシャンガシャンと嫌な音を立てた。

「……」

無言で植木鉢を更に遠くへ移動させるレイラちゃん。
更に身を乗り出すスピカ。

「スピカ、お座りっ!!」
「わふっ、わふっ」

「落ち着け!」とハル君がスピカに声をかけるけれど、すっかり興奮してしまったスピカには、ハル君の声が全く耳に入らないようだ。

……そうだっ!

「マーブルに任せてっ」

ここはマーブルの出番だと、私が名乗りを上げる。

「しかし、魔法が使えるようになったとはいえ、猫に灰色狼をどうにかするのは…」
「大丈夫です!お願い、マーブル」
「シャアアアーーーーッ!!!」
「キャインっ」
「……大丈夫そうだな」

そう躊躇していたモニカ先生だったけれど、マーブルにちょっかいをかけていたスピカがマーブルの一鳴きで慌てて撤退するのを見て、驚きつつも納得してくれた。

「はいっ!マーブルは小さい子をあやすのがとっても得意なんですっ!レイラちゃん、マーブルに任しておいて!」
「あ、うん」
「……あやす?」

何せマーブルはククル村でやんちゃな子供達の子守りを一年間もしてきたのだ、これぐらいお手のもの!
流石はマーブルと胸を張って応える私だったけれど、レイラちゃんとモニカ先生はなぜか呆気にとられた顔でマーブルを見つめるのだった。

ーーー
おまけ

「きゅーん、きゅーんっ」
「よしよし。でも、お前が悪いんだぞ。弱い者いじめしちゃだめだろう」
「わふぅ」
「んっ。次からは気を付けような」
「わふっ」
「とりあえず、しばらくの間、そこでお座りな」
「わふっ!?」
「ほらっ、マーブルが見てるぞ」
「……」
「きゃんっ!?」
「俺もレイラ達に謝って来るから、お前も頑張れ!」
「きゅーん…」

マーブルに一喝された後に、ハルとスピカの間でこんな会話がされていたとかいないとか。


---
1/28 名前の訂正です
誤:その少数派の中にはアミーちゃんの肩に大人しく乗っていた《マーブル》とシフォン
正:その少数派の中にはアミーちゃんの肩に大人しく乗っていた《マカロン》とシフォン

後半、スピカの名前がソルテに変わっておりました。すべて、訂正しました。

2/1 
誤:マーブルに《一括》された後に
正:マーブルに《一喝》された後に、
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

後宮の隠れ薬師は、ため息をつく~花果根茎に毒は有り~

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:3,727pt お気に入り:666

異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:2,849

婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,499pt お気に入り:4,185

巻き込まれたおばちゃん、召喚聖女ちゃんのお母さんになる

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:163pt お気に入り:3,284

この世界の平均寿命を頑張って伸ばします。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:120pt お気に入り:7,422

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。