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|私《わたくし》と王太子殿下の婚約発表の為の会場 (グリエンド侯爵令嬢視点)
しおりを挟む馬車で私の美しいプラチナブロンドの髪が揺れていますわ。全く腕が良いと言うから私がわざわざ買って差し上げたと言うのに、これでは髪が崩れてしまいますわ!次はもっと腕が良い者をお父様に頼まないと、これでは品位が落ちてしまいますもの。もう私は、あんな惨めな思いはしたくありませんもの!
私は、自慢の白くきめ細やかで綺麗な手で壁をつい殴ってしまいましたわ。私ったらつまらない匙で感情を荒らぶらせてしまいましたわ。今日は実質私と王太子殿下の婚約発表の為の会場ですのに。あらっ、自分でも気付かない内に浮かれていたのですわね。でも、もうあんなへまをおかしませんわ。
その為に今日まで頑張ってきたのですから。
私が窓の外を見ていると、突然馬車が停まりましたわ。本当は、ここで怒るところでしたが今日の私は気分が良いのですわ。ですから今日は見逃して差し上げますわ。外から鬱陶しい音が聞こえますわ。トムは無駄に足音をたてるのですから。はぁっ。この世で私にため息を吐かせられるのはトムだけですわね。
トムは馬車の扉を開けて手を差し出しましたわ。トムが頭を下げようとしたのを私は止めますわ。トムの手に私の自慢の手をのせて馬車から下りてさっとトムの手を離しますわ。傍から見れば不自然に見えませんの。私は、舞踏会の会場に期待をはせて踏み出しましたわ。
豪華絢爛の言葉は、この為にあると思うほど豪華ですわ。私が住むに相応しい場所ですわね。まぁ私の方が美しいですけれど。会場の中心に王太子殿下が居ましたわ。私が会場に入ってすぐ貴族達が話し始めましたわ。ふふっ良い気分ですわ。きっと今夜は楽しくなりますわ。
私が囲まれている王太子殿下に近づくと、さぁっと囲っていた貴族達が避けていきましたわ。私が王太子殿下に言おうと口を開きかけたとき王太子殿下が、真剣な眼差しを私に向けて、
「グリエンド侯爵令嬢!貴様は、聖女に怪我及び、あらぬ噂をながし、王族と同等の立場を約束されている聖女の功績を元聖女の自分がやったと嘘をつき国民に信じさせ混乱を招き数人の貴族の令嬢にしかも自分より爵位が低い令嬢をっ!脅し共犯させた。罪状は以上だ!」
と言われてしまいましたわ。あぁ何故気付かなかったのかしら。王太子殿下を囲っていた貴族達は、私の取り巻き達とあの忌々しい私から聖女の座を奪い取った異世界人ユキナ!だったのですわ。
「ルセンド王太子殿下!どれも世迷い言で御座いますわ!私全く身に覚えがないのですわ。いくら私を嵌める為だからと言ってもこんなのお粗末としか言いようがありませんわ!だって誰がどう見ても私を嵌めようとしているんですもの!いくら名門貴族出身の私が羨ましいからって、あまり私を怒らせないでくださいな。」
最後に取り巻き達を人睨みしておきましたわ。全くせっかくの楽しい楽しい私の婚約発表の為の会場でしたのにっ!気分最悪ですの!私が暫く取り巻き達を少し睨みつけながら見ていると、
「ひっ。…グリエンド様ごめんなさいっごめんなさいっ」
仮にも貴族ですのに無様にも怯えて涙を流すなどいくらだらしなく品のない方でも公式の場でしかも私の婚約発表の為の会場で品のなさすぎるしかも私に恥をかかせているのですわ!なんと愚かで醜いのかしら。そうですわよ!何故私がただの戯れ言に、たかだか男爵や子爵の癖に私の心を乱すのかしら。
だいぶ落ち着いてきましたわ。もはや私に表だって反発できる貴族は居ませんわ!後は、王太子殿下を上手く騙して国民も騙して、あのいけ好かない忌々しい異世界人ユキナ…コホンっ。今は聖女様とお呼びしないと。
「ふふっ…あら貴女達ね!私を嵌めようとした犯人は…。ふふっ、王太子殿下も大概にしてくださいませ。王太子殿下が私に真剣なお話があるかと思えば酷いですわ!私王太子殿下の婚約者ですのにっ。…でも今やっと分かりましたわ!何故今まで気付かなかったのでしょう?王太子殿下と聖女様は、騙されていたのですわ!」
貴族達の反応は?まぁ上々ですわね。なんたってこの私が演技しているんですもの。王太子殿下と偽聖女ユキナの反応は、やっぱり私の言葉を信じていませんわね。でも、もう一押しすれば私が勝てますもの!
「ですがもう大丈夫ですわ!私が「言うことはそれだけかっ!聖女ユキナに謝る事もせず!あまつさえ!勇気をもって私達に伝えてくれた令嬢達に自分が嵌められて被害者面をしたっ!あまりにも見苦しいぞっ!グリエンド侯爵令嬢っ!」」
ちっ。私が喋っているというのに私の言葉を渡るだなんてっ!一体何処の愚かで醜い方なのかしら?王太子殿下ですのね。いつも完璧で冷静沈着で他社を圧倒するあの完璧超人な王太子殿下が?そんなっ!嘘ですわっ!いつも焦ったり動揺したりする事などないと言うのにっ!
私が唯一心を奪われた方。そういえば、王太子殿下と運命的な出会いを果たした時まだ私は、純粋で幼稚で礼儀作法等は、まぁ出来たのですが今の私とは比べものになりませんわ!いつも俯いて人見知りで自信がもてず他の聖女候補から嗤われていましたわ。
あの頃の私はとても惨めでしたわ。あぁ何故あんな出会い方をしたのでしょう?もっとあんな惨めな姿ではなく今の私のように完璧でしたら、好感を得たでしょうにっ。残念ですわ。今は、その事を考えている場合ではありませんわね。私が王太子殿下に人の話しを途中で渡ってはいけないと伝える前に、王太子殿下が
「とても残念だよ。…出会った頃は、あんなに……。いや、思い出を振り返るのは止めよう。…グリエンド侯爵令嬢貴女には、暫く牢屋で反省して貰うよ!…本当は直ぐに死刑される所だったが、聖女ユキナがあまりにも可哀想だと言っていてね。もし貴様が牢屋で反省したら、当然私との婚約は破棄、貴族の身分剥奪国外追放で身分は平民の処分で国民には、満足して貰うよ。聖女に怪我を負わせた罪はそれだけ重いから。」
と提案しましたわ。ですが、私は偽聖女ユキナにプライドも何もかも捨てて謝るくらいなら、嫌ですわっ!だってそれはっそれはっ!私の行動や発言今まで必死に足掻いてきた事が全て否定されると同義ですものっ!私には今も昔も変わらない意志がありますわ。それだけは、昔の私が唯一誇れる事でしたわ。
私が自分でやったことは、絶対に後になっても後悔しないですし、そうすると決めたのはそもそも他でもない私自身で判断したこと。逆に何故自分が為した事を後悔するのか理解できませんわ!
それよりも偽聖女ユキナ!よくもそんな事を言えたことね。貴女の申し出は、私の全てを侮辱してっ万死に値しますわっ!
「最後に牢屋に入れる前に聞くけど聖女ユキナに謝罪したいならしていいよ。」
王太子殿下がそう私に言うと、突然私の両隣に衛兵が立ち、私を拘束しましたわ!顔だけを上げさせられて、偽聖女ユキナの方に顔を向けさせられましたわ!当の偽聖女ユキナは、と言うと、私に憐れみの視線を向けてきましたわ!
「誰がっ!その異世界人……聖女様に言うことはありませんわ。だって皆さん騙されているんですものっっ!!いつかっきっとぉっ分かりっまっすものっっ!!!」
最初に言った誰がを聞いた瞬間王太子殿下が衛兵に指示を出して、直ぐに私は衛兵に会場の出入り口がある扉に向けて連行されてしまいましたわ。少し言葉遣いが荒れてしまいましたわね。
そのまま扉に連行されて外に出るのかと思っていると私の考えとは違い何故か扉の近くで止まりましたわね。王太子殿下はきちんと指示を出していなかったのかしら?例えば、『聖女ユキナから出来るだけ遠くにやってくれ』等かしら?王太子殿下は意外にも甘いのかもしれないわね。
「衛兵!そのまま罪人を連れて行けっ!」
焦ったように命令する王太子殿下は今日で二回目ですわね。そういう意味では、楽しい時間だったのかもしれませんわ。でも王太子殿下の隣に立つのがユキナだと思うと如何しても。
「…はぁっはぁっ!聖女ユキナぁ!貴女はっ!いつかぁっ…必ずっ」
───殺すわ
私の言葉を全てあのいけ好かない異世界人のユキナに伝えられませんでしたわ!
最後まで伝えられたらきっと間抜けな声を出して淑女にあるまじきみっともない顔を晒しましたのにっ!あぁっとっても残念でしたわっ!あの気に入らないユキナが皆から笑い者にされましたのにっ!
衛兵は私を会場の外まで連行して、突然黒尽くめの男が何処からか現れて、あっという間に衛兵が倒れてしまいましたわ!
ふふっ実はこうなる事も少し予想していたんですの!あらっ意外と早かったわね。全く私の体が少し痺れてしまいましたわ。
私は、黒尽くめの男に顔を向けて、
「トム随分早かったわね。」
黒尽くめの男──トムに話しかけましたわ。トムは、跪いて頭を垂れて、
「申し出御座いません!グリエンド様の体に傷を……。」
まぁ確かに私の体に傷をつけられましたわね。本当はここで痛い目にあわせるのですが、今は逃げるのですわ!いつかきっとあの偽聖女ユキナに復讐して痛い目にあわせますわ!今から覚悟する事ですわね!
私とトムは会場に行く時に使っていた馬車に乗って山道を順調に進んでいましたわ。私が優雅に偽聖女ユキナにざまぁと思いながら揺られていると、突然ガタンっと馬車が停まりましたわ。まさかっ?!
私は窓から急いで外を確認致しましたわ。私の悪い予想どおり、偽聖女ユキナと数人の護衛騎士が私の馬車を囲って居ましたわ。それよりっ急いで逃げないとっ!
トムっ!トムっは?私はトムを探して、さっきよりもその光景が信じられない程驚き焦りましたわ。だって!トムがトムがっ!
偽《•》聖女ユキナの護衛をしている騎士が着ている服を
─────トムが着ていたんですもの─────
どういう事ですのっ!?意味が分かりませんわ!何故トムがっ!偽聖女ユキナの!?
ふぅっ私落ち着きなさい。まずトムは私を裏切っていた、だから私の計画は分かっていた、そしてまんまと騙されたと言うわけですわね。でも、いつもの私ならトムが衛兵を倒した時点でトムを怪しんで警戒するはずですわ!そこまでは思わなくても、可能性を考えてある程度警戒するはずなのですが、分かりましたわ!
王太子殿下が焦ったり最後の指示をきちんとしていないと思っておりましたが、つまり私があそこで偽《•》聖女ユキナに謝罪したらそのまま牢屋に入れられて、私が何も言わなかったら牢屋に連れて行く、私が偽《•》聖女ユキナに言いましたからあそこで指示を出したのですわね。あの時気を緩めなければ良かったのですわ。
それに何故今まで気付かなかったのかしら、山道を通っているのではなく、死刑所に向かっていたのだわ。道は特に最低限しか整備されていないから私は山道だと勘違いしたんですわ。確か木や草があちこちにありますから。では急に停まったのは死刑所に着いたからですわね。
王太子殿下全て完敗ですわ。やはり王太子殿下貴方は私の理想の方ですわ。貴方の隣が偽聖女ユキナだと思うとユキナを殺して貴方の隣に立ちたいですけれど、まぁ私は負けを認めましたから、あらっひょっとして、昔の私が誇れるのは、もう一つありましたわね。
私が負けたと、完敗だと認めたら、勝った方のすきなようにして良いという覚悟ですわね。
今まで私が本当の意味で完敗だと認めた事はありませんでしたわ。ですから、王太子殿下貴方だけですわ。最後の悪足掻きとして、背筋を伸ばして優雅にそして美しく気高く散りますわ。私は扉を開けましたわ。そして、ゆっくりと馬車を下りて、直ぐ衛兵に連行されましたわ。
連行されるとき偽《•》聖女ユキナがどんな表情をしているのか気になり一瞬ほんの一瞬振り返りましたわ。そしたら、嬉しそうでもなくざまぁ等とも違い、静にただ涙を流していましたわ。意味が分かりませんわ!私は、嬉しそうでもなくざまぁ等とも違う泣いている姿が一番嫌いですわ!むかつきますの!
まるで昔の私を見ているみたいで、大嫌いですわ。今日は昔の私を思い出すのが多いですわね。そういえば、あの時も、木の下で膝を抱えて座り込んで静に泣いていましたわ。昔の私は気になって近づきましたわ。茶色の髪と茶色の瞳なのに一瞬茶色混じりの黒髪と黒い瞳に見えましたわね。
でも何故今あの子を?
「おいっ!行くぞ!」
いつの間にか足が止まっていたのか、思い出す前に腕を引っ張られて、私は再び歩き出しましたわ。
私と王太子殿下の婚約発表の為の会場~おわり
応援ありがとうございます!
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