36 / 41
……らしい。
しおりを挟む
あのあと──常駐している警備員さんが飛んできて、七階で蹲っていた先輩を発見した、とのことだった。
事情を聞こうにもなにも話さない先輩に戸惑っていたところに、楢村くんの通報で警官が駆けつけてきて、さらに住民の通報で消防まで来て、とにかくてんやわんやの大騒ぎ──で、結局、約一ヶ月後、私たちはまた引っ越しすることになった。
今度は新築じゃなくて、築十年のファミリータイプの分譲マンションだった。賃貸で探したけどなかったから、って楢村くんはその部屋を買ってしまう。嫌になったら貸し出せばいいとか、そんなことを言って。
「別にいいのに……」
「心配なんやと思うで?」
引越しの手伝いに来てくれたエリさんが、ペットボトルのミネラルウォーターを飲みながら言う。
「こういうトコやったら、住民のほとんど顔見知りやし、オトコ一人暮らしとか浮くし。セキュリティもちゃんとしとるし」
「……ですね」
先輩は捕まって、……多分しばらくは出てこない。
それでも、楢村くんが私のことを心配しているのは──伝わってきていた。
「ウチで同居したらいいのにと思ったけど、あそこはあそこで業者の人やら、人出入り多いからなあ」
紛れ込まれたらわからんかもやし、とエリさんは少し難しい顔をする。眉を下げた私をみて、エリさんは慌てたように微笑む。
「ま、捕まったしな!」
「……ですね」
「しかしなあ、コーセーもタイミング良かったわ、ほんま。無事でよかった」
その言葉に、こくりと頷く。
あの日──楢村くんが私を助けにこれたのは、たまたまエントランスでエレベーター内の映像をみかけたから。
『電話したんが帰りのクルマん中で』
落ち着いた頃、説明してくれた。
ちょうど帰宅して、エレベーターに乗ろうとして──エントランスにある液晶画面を見上げて。
そこに私と先輩が映っていた──
(……もし、気がついてくれてなかったら……今頃)
ぞっ、とした。
その気分を振り払うように、ばっと顔を上げる。
「ていうか、エリさん、お休みの日にすみません」
「いいって。セナちゃんは座ってて」
にこやかなエリさんに、私は「いえ」と笑って──ふと固まる。エリさんはじっと私を真剣に見つめていて。彫刻みたいに整った顔面。
「……あの」
「セナちゃん、まだあいつのこと信じられへん?」
「……まぁ」
すうっと目を逸らした。
信じられない? 頭がごちゃごちゃしてる。ああ、だから、だから……私は楢村くんが嫌いだ。
大嫌い。
「愛しとらんかったら、ここまでせんと思うで」
エリさんさ淡々と続けた。
「──」
無言になる。
それは、……そうかも、しれなくて。
「じゃあ、なんで……私はセフレなんかにされたんでしょうか」
「それはなあ。コーセーがアホやからとしか言いようがないねんけど」
エリさんがぽりぽりと頭を掻く。
と、その頭をぺちんと楢村くんがはたく。
「なにサボっとんねんエリ」
「おかえりコーセー。買ってきた?」
楢村くんは無表情でエリさんに缶コーヒーを押し付けて、私にも一本、渡してくれる。甘いカフェオレ。
「……ありがとう」
「ん」
まだカーテンがかかってない、冬の始まりの陽射しがあたたかな、その部屋で──私は楢村くんを見上げた。その整った横顔を見ながら、ぼんやり思う。
この人は、いま、私を大事にしてる。
どうやら愛されているらしい。
この引っ越しがなくたって、あの日、助けてくれたあの心音を聞いていたら──そうだと気がついた。
(でも、なんで?)
エリさんが帰って、二人きりになった途端にソファに押し倒されて喘がされながら、私は思う。
お互い服も着たまま、求め合った。
何度も唇が重なる。口内を蹂躙していく、少し分厚い舌。
どちらのものとも知れない唾液をこくりと飲んで、溢れたぶんはだらしなく口の端から落ちていく。
「っ、ぁ、あんっ、やぁ……っ」
楢村くんが、私の膝を割り開いてガツガツと貪るように腰を進める。彼の形がわかるくらいに、私の肉襞は締まって痙攣を繰り返す。その度に、ぐちゅぐちゅとぬるぬると粘液が溢れて、淫らな水音が部屋に満ちる。
横にずらされたショーツはもうべちょべちょで、脱いでおけば良かった、と働かない頭のどこかで思った。
事情を聞こうにもなにも話さない先輩に戸惑っていたところに、楢村くんの通報で警官が駆けつけてきて、さらに住民の通報で消防まで来て、とにかくてんやわんやの大騒ぎ──で、結局、約一ヶ月後、私たちはまた引っ越しすることになった。
今度は新築じゃなくて、築十年のファミリータイプの分譲マンションだった。賃貸で探したけどなかったから、って楢村くんはその部屋を買ってしまう。嫌になったら貸し出せばいいとか、そんなことを言って。
「別にいいのに……」
「心配なんやと思うで?」
引越しの手伝いに来てくれたエリさんが、ペットボトルのミネラルウォーターを飲みながら言う。
「こういうトコやったら、住民のほとんど顔見知りやし、オトコ一人暮らしとか浮くし。セキュリティもちゃんとしとるし」
「……ですね」
先輩は捕まって、……多分しばらくは出てこない。
それでも、楢村くんが私のことを心配しているのは──伝わってきていた。
「ウチで同居したらいいのにと思ったけど、あそこはあそこで業者の人やら、人出入り多いからなあ」
紛れ込まれたらわからんかもやし、とエリさんは少し難しい顔をする。眉を下げた私をみて、エリさんは慌てたように微笑む。
「ま、捕まったしな!」
「……ですね」
「しかしなあ、コーセーもタイミング良かったわ、ほんま。無事でよかった」
その言葉に、こくりと頷く。
あの日──楢村くんが私を助けにこれたのは、たまたまエントランスでエレベーター内の映像をみかけたから。
『電話したんが帰りのクルマん中で』
落ち着いた頃、説明してくれた。
ちょうど帰宅して、エレベーターに乗ろうとして──エントランスにある液晶画面を見上げて。
そこに私と先輩が映っていた──
(……もし、気がついてくれてなかったら……今頃)
ぞっ、とした。
その気分を振り払うように、ばっと顔を上げる。
「ていうか、エリさん、お休みの日にすみません」
「いいって。セナちゃんは座ってて」
にこやかなエリさんに、私は「いえ」と笑って──ふと固まる。エリさんはじっと私を真剣に見つめていて。彫刻みたいに整った顔面。
「……あの」
「セナちゃん、まだあいつのこと信じられへん?」
「……まぁ」
すうっと目を逸らした。
信じられない? 頭がごちゃごちゃしてる。ああ、だから、だから……私は楢村くんが嫌いだ。
大嫌い。
「愛しとらんかったら、ここまでせんと思うで」
エリさんさ淡々と続けた。
「──」
無言になる。
それは、……そうかも、しれなくて。
「じゃあ、なんで……私はセフレなんかにされたんでしょうか」
「それはなあ。コーセーがアホやからとしか言いようがないねんけど」
エリさんがぽりぽりと頭を掻く。
と、その頭をぺちんと楢村くんがはたく。
「なにサボっとんねんエリ」
「おかえりコーセー。買ってきた?」
楢村くんは無表情でエリさんに缶コーヒーを押し付けて、私にも一本、渡してくれる。甘いカフェオレ。
「……ありがとう」
「ん」
まだカーテンがかかってない、冬の始まりの陽射しがあたたかな、その部屋で──私は楢村くんを見上げた。その整った横顔を見ながら、ぼんやり思う。
この人は、いま、私を大事にしてる。
どうやら愛されているらしい。
この引っ越しがなくたって、あの日、助けてくれたあの心音を聞いていたら──そうだと気がついた。
(でも、なんで?)
エリさんが帰って、二人きりになった途端にソファに押し倒されて喘がされながら、私は思う。
お互い服も着たまま、求め合った。
何度も唇が重なる。口内を蹂躙していく、少し分厚い舌。
どちらのものとも知れない唾液をこくりと飲んで、溢れたぶんはだらしなく口の端から落ちていく。
「っ、ぁ、あんっ、やぁ……っ」
楢村くんが、私の膝を割り開いてガツガツと貪るように腰を進める。彼の形がわかるくらいに、私の肉襞は締まって痙攣を繰り返す。その度に、ぐちゅぐちゅとぬるぬると粘液が溢れて、淫らな水音が部屋に満ちる。
横にずらされたショーツはもうべちょべちょで、脱いでおけば良かった、と働かない頭のどこかで思った。
12
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
独占欲全開の肉食ドクターに溺愛されて極甘懐妊しました
せいとも
恋愛
旧題:ドクターと救急救命士は天敵⁈~最悪の出会いは最高の出逢い~
救急救命士として働く雫石月は、勤務明けに乗っていたバスで事故に遭う。
どうやら、バスの運転手が体調不良になったようだ。
乗客にAEDを探してきてもらうように頼み、救助活動をしているとボサボサ頭のマスク姿の男がAEDを持ってバスに乗り込んできた。
受け取ろうとすると邪魔だと言われる。
そして、月のことを『チビ団子』と呼んだのだ。
医療従事者と思われるボサボサマスク男は運転手の処置をして、月が文句を言う間もなく、救急車に同乗して去ってしまった。
最悪の出会いをし、二度と会いたくない相手の正体は⁇
作品はフィクションです。
本来の仕事内容とは異なる描写があると思います。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる