ユキメの地元は島で、幼馴染は進学でいなくなる。19の夏、私どうすればいいの? 原題:ユキメの夏

浮空みどり

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4 刻一刻夏になる

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――バイトが終わり、家に帰ると、母が私に割烹着をプレゼントしてくれた。

「どうしたの?これ」
「あんた、島に残るんだから、これから家事をするためのプレゼント」

 それから毎朝五時半に起きて、漁師の父の弁当兼朝食を作ることになった。
 握り飯は熱いうちに素手で握る。いまだに昔ながらのこだわりで、なかなか慣れなかった。


 朝食をとると皿を洗って、今度は長い廊下の雑巾がけ。
 うちは島の中でもなかなか大きなお屋敷で、大正時代に建てられた。

 当時はお金持ちだったらしいが、今はいたって普通の暮らしをしている。昭和の中頃にリフォームしたところがある。水回りだけだけど。


 今日のバイトは昼から。

 島の小さなコンビニは、十一時には閉まるという昔ながらのルールを順守している。
 しかし、この島は、西洋時計が普及するのが遅かった背景から、方言のように「午の刻」なんて言ったりする。今の世代は言わないから、ジェネレーションギャップ。

 別に何時何分でも通じるが、まるで古典の世界。だから何だって話だけど。

「雪芽ちゃん。野菜いっぱい採れたから食べて」
「わあ。ありがとうございます」

 一人、買い物に来た五十歳くらいの女性がよく野菜をくれる。自転車のかごに乗せても転ばないことに気づいて、自分も育ったもんだと思わされた。

「母も喜びます」

 そう笑って見せた。島に先に生まれた人を尊敬している。だから笑った顔を見せたい。

 昼はお客が少ない。なので何かの取っ掛かりで空想が広がって宇宙が生まれては消える。

 入店アラームが鳴る。見ると子供が野球帽をかぶり、グローブを持った男の子が駆けて入ってくる。里中さんとこのだ。

「祐くん、学校はどうしたの?」
「もう春休みだよ」

 そうだ。自由登校あたりから日にちの感覚がはっきりしない。というか、自分がどこにいるのかふわふわしている。

「そっか」とりあえずの相槌になった。
「雪ねえちゃん。」
「なに。」
「これ取って。」

 もちろん彼女には朝飯前だ。高いところの飲み物をとって「はいどうぞ」と渡した。

 こんな時だけ背が高くてよかったなとほっこりする。芳樹のほうが高いけど。

 やがて暗くなってきて、夜勤のおばさんが来た。


「雪芽ちゃん、ありがとう。交代ね」
「お願いします」

 ぺこりと腰から三十度のお辞儀をして去る。着替えて裏口から外に出て、自転車にまたがる。既に酉の刻。帰ったら夕食の準備をしなきゃ。

 自転車で住宅街めがけて坂を上る。日が沈んでいく帰り道。どうしてだろう。胸が苦しくなるな。海の見える地平線は赤く染まり、街灯はうすぼんやりと灯り始めた。




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