幼なじみ公爵の伝わらない溺愛

柴田

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3ー1.ときめきは突然に

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 ヘンリーとニーナの奇妙な関係が始まったのは、今からおよそ9年前。二人が10歳のときだった。

 約2年間重い病気を患っていたハイデル家の一人娘が、このたび快癒したということで、彼女の10歳の誕生日を祝うためのささやかなパーティーが開催された。会場はハイデル家の庭園。そして招待されたのは、パーティーの主役であるニーナと年が近い貴族家の子息や令嬢たちだ。その中の一人がヘンリーであった。
 誕生パーティーという名目ではあるものの、病床に伏していた時間が長く友人もいないニーナのために、同年齢の子どもたちを集めて友好を深めさせるという目的もあったようだ。

 ヘンリーにとって、そのパーティーは退屈そのものだった。
 パーティーにも、主役のニーナにも、友人という存在にも興味がない。
 公爵令嬢であるニーナに対して媚びへつらう子どもたちをしりめに、同じ公爵子息という立場であるヘンリーはその必要もなく、いつものようにただにこにこ笑っているだけでよかった。招待された手前断るわけにもいかず、顔を出すだけでも十分だろうという考えで出席していた。

 ニーナは子どものわりに美しい女の子であったが、性格は苛烈そのもので、何年も病に侵されていた人間には到底見えなかった。
 たまに作法がお粗末になったりするものの、ニーナはよくいる気取った貴族令嬢とそんなに違いはない。ただ、公爵家の令嬢という立場を鼻にかけた、偉そうな態度は少し目に余った。そんなふうでは、同年齢の子どもたちとはどう考えても仲良くなれるはずがない。

 考えを顔に出さないようにしながら、ヘンリーはニーナにプレゼントを手渡した。ほかの参加者からのプレゼントもすでに開封され、テーブルの端に置かれている。どれもニーナのお眼鏡にはかなわなかったようで、散々な言われようであった。
 プレゼントを渡されたときのニーナは、一瞬うれしそうな顔をする。そしてすぐにその表情を引っ込めて、尊大な態度でプレゼントを開封した。

「なにこれ? 宝石箱?」 

 マホガニー製の箱の表面には鳥が描かれており、鳥の瞳にはイエローダイヤモンドが埋め込まれている。ニーナはその絵を撫で、なんだか残念そうな表情だった。一応、ニーナの好みを事前に調べて作らせたものなのだが、元よりいい反応がもらえることなど期待してはいない。ほかのプレゼントへの反応も微妙なものが多かった。

「きれいだわ。きれいだけど、私、鳥よりもうさぎが好きよ。目がキラキラしてるのはかわいいわ。でも色がいまいちね。黄色より紫がよかったわ」

 もらったプレゼントにケチをつけるものではない、ということを教育したほうがいい。だなんて、ヘンリーは思っても言わなかった。
 鳥が好きだというのも、色は黄色が好きだというのも、調べあげてオーダーメイドで作らせた名工の一品だ。イエローダイヤモンドももちろん一級品。けれどこの時期の女の子というものは、好みがすぐに変わるものだ。ヘンリーは笑顔を崩さないまま、宝石箱を指さした。

「開けてみて」
「わあ、音が鳴ったわ!」

 宝石箱ではなく、オルゴールだ。これには驚いたようで、ニーナの目がきらきらと輝く。曲が流れると、ニーナは耳を澄ませて聞き入っていた。

「すてき。これ、なんていう曲なの?」
「え? 有名な童謡なんだけど……」
「しっ、知ってるわ! ちょっと聞き慣れなかっただけ! ふんっ、まあまあね」

 ロド帝国の子どもなら、誰でも一度は聞いたことのある曲だ。なんの曲が好きなのかまでは調べられず、無難なものを選んだつもりだったが、どうやら好みを外したようだ。ハイデル公爵家は、幼少の頃からクラシックしか聞かせていないのかもしれない。

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