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しおりを挟むしかしヘンリーのその心配は杞憂だった。
またニーナがヘンリーのもとに訪れるようになったからだ。それも、以前よりも頻繁に。
デイヴィッドと付き合い始めた頃の明るい笑顔は、ニーナの顔からすっかり消え去っていた。
「お金だってたくさんあげたのに! 私の宝石だってほしいっていうものは全部ぜんぶあげたのに! なんで私と婚約してくれないのよ! デートも一度だってしてくれてないわ! 私のお気に入りのダイヤをあげたら、デートしてくれるって言ってたのに! うそつき! うそつき!」
ニーナは、デイヴィッドにぶつけられない怒りをヘンリーに吐き出していく。そうして最後にはさめざめと泣くのだ。
今のニーナは、社交界ではいい笑いものだった。
元よりデイヴィッドに関してはいい噂を聞かないが、そこに新たな噂が加わった。デイヴィッド・シルフストンは、ニーナ・ハイデルが野盗に襲われるよう仕組み、謝礼金目当てで助けた――と。十中八九事実だろう。謝礼金目当てで助けたらニーナに惚れられてしまい、ついでに金品を巻き上げているのだ。
そんな誰から見ても騙されているとわかる状況だというのに、ニーナはまだデイヴィッドのことを信じたいようだった。
愛されることを知らないニーナは、デイヴィッドの甘い言葉に惑わされているのだろう。
甘い言葉でニーナをそそのかし金や宝石をせしめては、のらりくらりと躱しているデイヴィッドに対し、ヘンリーの胸の内には並々ならぬ怒りがこみ上げた。ニーナに好かれるだけでも許しがたいのに、彼女を騙し、傷つけ、泣かせた男をヘンリーが許せるわけがなかった。
デイヴィッドをどう陥れてやろうかと画策する一方で、ニーナの気持ちを彼から遠ざける方法も考えなければならない。
まずは正攻法。説得だ。今なら聞き入れてくれるかもしれない。
「ニーナ。君はデイヴィッドに騙されているんだよ。デイヴィッドが好きなのは君じゃなくて、君が持ってるお金や宝石だ。君のことを愛してるだとか、婚約してあげるだとか囁くのは、すべてそれを手に入れるための嘘なんだよ」
さめざめと泣いていたニーナは、ヘンリーの胸板を力なく叩いた。
「違うわ! デイヴィッドは私を愛してるの!」
「彼が愛してるのはハイデル公爵家の財力だよ」
「嫌! そんな話ならもう聞きたくないわ! ヘンリーのバカ!」
力いっぱい両手で胸を叩かれる。ニーナはヘンリーと目を合わせようとしなかった。
「ニーナ」
「…………」
「ニーナ、君もそこまでバカじゃない。本当は騙されてるってわかっているんだろう?」
ヘンリーは両手でニーナの顔を包み込んで、無理やり視線を合わせた。
するとニーナの顔がくしゃりと歪んで、目にいっぱいの涙が溜まっていく。
「……99パーセント嘘だってわかっていても、残りの1パーセントの希望が捨てられないの。もしかしたら本当に私のこと愛してるかもしれないでしょう? 私だけはデイヴィッドのことを信じてあげなくちゃダメでしょう?」
ヘンリーは何も言わずにニーナを抱き締めた。
このまま説得を続ければ、きっとニーナは二度とヘンリーのところへ来なくなるだろう。いつものように、すべてを受け入れてあげよう。そうしたらきっと、ニーナもデイヴィッドが囁く愛が偽りのものであることにいつか気づくはずだ。
だがヘンリーは、それまでただ待つつもりはない。
◇◇◇
帝都にあるイングリッド公爵家とハイデル公爵家のタウンハウスは、隣り合うようにして建てられている。行き来をするのは簡単だった。
ヘンリーがニーナをハイデル公爵邸まで送っていくと、邸宅の門前に馬車が停まっていた。
馬車から降りてきたのはハイデル公爵だ。ハイデル公爵はニーナがヘンリーといるのに気がつくと、険しい顔で近づいてくる。イングリッド公爵家とはあまり関係がよくないせいか、ハイデル公爵は昔からヘンリーのことをよく思っていないようだった。
「お久しぶりです。ハイデル公爵」
「これはこれは、イングリッド公爵。うちの娘と親しくしてくれているようで有難いが、あまり噂が立つようなことは避けてもらいたい」
「申し訳ない。ですが僕よりも、気にしないとならない人物がいるのでは?」
ハイデル公爵もニーナとデイヴィッドの噂は耳に入っているようで、ヘンリーの指摘に対し眉を顰めた。ヘンリーをじろりとねめつけたあと、ハイデル公爵は強引にニーナの手を引いていく。
蒼白な顔で引きずられていくニーナを、ヘンリーは真顔で見つめていた。
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