幼なじみ公爵の伝わらない溺愛

柴田

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17ー1.闇の中の孤児院

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 帝都の平民街と貧民街の間に建つ、場所に似つかわしくない豪華な建物が、件の孤児院であった。多額すぎる寄付金ではあるが、建物の修繕や管理などに充てていると言われたら納得してしまいそうだ。しかしここが奴隷商館であることを知っていると、奴隷を買いにきた金持ちのためにきれいに飾っているとしか思えない。
 たくさんの憲兵たちが建物を囲い、そこは異様な雰囲気に包まれていた。

 集まってきた野次馬が憲兵に追い払われるなか、到着したヘンリーとダリアはスムーズに中に通される。中にも憲兵たちが大勢いて、建物の中を調べまわっていた。シスターと数人の子どもたちは、別室に隔離されて憲兵に見張られている、と報告を受ける。
 ヘンリーはダリアと共にその別室へ向かった。青褪めているシスター数人と、院長、それから震えている幼い子どもたちの姿を覗き、ダリアは目を細める。

「シスターと院長はハイデル公爵とグルよ。でも、その辺にいた子どもたちは奴隷じゃないわ。カモフラージュ用のただの孤児よ。だから子どもたちは保護してあげて。怖がっていてかわいそうよ」

 ダリアの言葉をヘンリーはそのまま憲兵に伝える。
 憲兵は泣いている子どもたちを抱き上げて、建物の外へと連れて行った。ひとまず皇宮で保護したあと、今度はきちんとした孤児院に預けられる予定だ。
 院長とシスターたちは引き続き隔離され、証拠が見つかるまでの間より厳しく見張っておくよう、ヘンリーが憲兵に指示をする。

 どこかへと歩いていくダリアに着いて行きながら、ヘンリーは建物内をキョロキョロと見回した。想像していたよりは悪くない環境だ。ダリアもここで育ったというならば、ヘンリーが想像するほどの悪い扱いは受けていなかったのかもしれない。

「それじゃあ、奴隷として商品にしている子どもたちは別の場所にいるってことかい?」
「そうよ。見目のいい子ども、誘拐してきた貴族の子どもなんかが奴隷にされるの」
「まさか、貴族の子どももいたの……?」
「ええ。私がいたときには何人かそういう子がいたわ。そういう子は早く売れていったから、今も残っているかはわからないけれど」
「これは……思っていたより闇が深そうだな」

 ダリアは迷いのない足取りで廊下を進み、ある部屋の前で止まった。――院長室だ。だが、もちろん憲兵たちが調査していないはずはない。院長室が最も怪しいと誰もが一番に考える。しかしそのうえで「何も出なかった」のだ。
 中に入ってみると、調査した形跡だけが残っていた。

「こちらの部屋も調査済みですが、奴隷と思しき子どもはおろか、顧客リストや帳簿など証拠となるものも何一つございませんでした」

 憲兵がヘンリーに向かって報告をするなか、ダリアは突然暖炉に近づき、火かき棒を手に持った。薪からメラメラと火が立ち上る暖炉に、ダリアは火かき棒を突き入れる。

「あ、ちょっと……危ないよ!」

 ヘンリーが慌てて駆け寄る。
 ダリアは灰をかくでも燃えがらをかき出すでもなく、暖炉の奥の石壁に火かき棒を伸ばしていた。火かき棒の先端が何かに引っ掛かると、ダリアは力いっぱい横向きに引く。

「んしょ……っ、重っ、たい、わね!」
「――暖炉が扉に……!?」

 ゴゴゴ、と地鳴りのような音を立てて暖炉の中が横へずれる。まるで引き戸のように開いていくのを見て、ヘンリーは驚きの声を上げた。開いた隙間に憲兵たちが手を差し込み、あとは彼らが扉を開いていく。
 暖炉が壁の後ろに隠れて完全に見えなくなると、そこには地下へと続く階段があった。憲兵たちがごくりと息を呑む。隠し扉があることは想定していたが、それが暖炉だとは思いもよらなかった。憲兵たちだけでは到底見つけられなかっただろう。

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