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第一章 すべてのはじまり

調査仲間-2

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  奥へ歩いて行くと、営業部の男性と女性がふたりして背中を丸めて箱の中を覗いている。

 悪いことをしている風ではない。でも、どうして電気を付けてないんだろう?暗くて見えないと思うんだけどなあ。

 私は電気を付けようと背中を向けたら、急に声をかけられた。

「君、何してるんだ?」

 振り向くと、そこにいた男性が言う。

「え?暗いので電気を付けようとしたんですけど……暗くて見えなくないんですか?」

「電気?あ、そうか。電気あるんだな。ところで、君は誰だ?」

「私は会計部の秘書です」

「秘書?そうか、だからひとりで出入りしてるんだな」

「あの?営業部の方ですよね?」

「あ、ああ、そうだな。君は何を探しているんだ?」

「私は会計部のものです。すいません、時間がないので電気付けてきます」

「あ、ああ」

「秘書?秘書って簡単にここへ入れるんだね」

 隣の女性が小さい声で話している。電気の場所も知らない人達。まるで不審者じゃん。

 電気を付けると、勇気を出して戻ってきた。

「あの。失礼ですが、どこのどなたでしょうか?」

 明るくなったので、よく見てみると、ん?

「やだ、北村さんだったの?ごめん気付かなかった」

「えっと。そういうあなたは確か……」

「そう、同期の営業二部の斉藤よ。斉藤裕美。久しぶりじゃない、顔合わせるの。あなた、社食使ってないでしょ?」

 確かに使ってない。だって、昼休みって普通通りに取れないこともあるから。お弁当か、買って来てるんだよね。部屋で食べる。

「斉藤さん、久しぶりだね。同期はみんな元気?」

「やだ、北村さん。何その言い方。おかしい。ふふふ。浦島太郎みたいだよ……」

 だって、本当に最近あまり同期と話していない。神部君と別れてから、そのことを聞かれるのが嫌で距離を置いているんだよね。

 だから同期会も忙しいのを理由に欠席していた。最近、もういいかなって思ってるけど。

「おい、斉藤。いつまでしゃべってんだよ。急がないとまずい」

「あ、そうでした。すみません」

「……もしかしてですけど、何か探してます?」

 ふたりは驚いたように顔を見合わせて、こちらをジロッと見ている。

「あ、いや、そんな目で見ないで下さい……」

「君、どういう意味合いでそれを聞いている?」

 名札をちろりと見ると、関根と言う名前が見えた。

 関根さんって確か、二部の有名な課長だよね。斉藤さんと一緒の営業二部。私の視線に気付いたんだろう。どういう意味合いって、どう言ったらいいの?

「営業部の場合、ここに箱を運び込むのは大抵新人さんです。お二方がそうでないのに二人で来ているのはご自身の関係ある取引の帳簿をお探しですか?」

「……関根さん。北村さんは会計部の役員専属の秘書なんです」

「なるほど。秘書は新人じゃなくてもこの部屋へ立ち入りを許されるくらい機密廃棄書類が出やすいということだな」

「ま、そうですね。って、そうじゃなくって、お二人のことですよ」

 私は言いくるめられそうになって、言い返した。

「あはは……北村さん、本当面白いね。課長、ここは彼女のほうが保管場所に詳しそうですよ」

「……まあ、そうだろうな」

「ここ二年の、うちのとある人達の案件を扱ったものを捜しているのよ」

「おい、斉藤、余計なことを部外者に言うな」

 関根さんが斉藤さんに向かって色をなした。私は静かに答えた。

「……大丈夫ですよ。私は管轄外ですし、守秘義務のある仕事ですから言いふらしたりしません」

「いや、そういう問題じゃない」

「おい……面白そうな話をしているな、里沙。俺も混ぜてくれ」

 後ろから声がする。三人でまたびっくりして振り向くと、そこには鈴木さんがいた。

「ちょっと、鈴木さん。突然驚かせないで下さい。どうしてそんなに音もなく入れるのよ?」

「音もなくなんて事はないが、君らが話していたから気付かなかっただけだろ?」

 猫背の設定は今だけどこかへ行ったらしい。胸を張っている。背が高いんだな。眼鏡と頭と服装はそのままだけどね。

 ふたりは固まってる。そりゃそうだよ。次から次と……。

「あ、彼は今日から会計部に来ている会計士の鈴木さんです」

「……どーも、よろしく」

 黒めがねの奥でニヤリとした。

「……よろしく。っていうか、君は何なんだよ!」

 関根課長が怒っている。ま、それはそうだよ。緊張してたところへ、よくわかんない人が偉そうに入ってきたら、誰でもこうなる。

「……あの。北村さん、この人、大丈夫なの?」

 心配そうに小さい声で私に聞いてきた斉藤さんに、鈴木さんは偉そうに答えた。

「ああ、大丈夫だ。心配ご無用。もしかすると、君達と同じ目的かもしれないんだ。君らは営業二部?」

 関根さんはうさんくさそうに鈴木さんを見ている。これは、お互い説明しないとダメだな。

「……あ、あのね。関根課長、斉藤さん。この人は変な人ではありません。色々と調査に来て……ん、んぐっ……」

 私の口を鈴木さんが手で塞ぐ。何なのよ!

「余計なことをべらべらしゃべるな!」

「……あの。どういうことでしょう?」

 関根さんが睨んでる。そりゃそうだよ。訳わかんない。

「はあ、お前覚えてろよ。秘書のくせに口が軽いのは頂けないな」

「……んぐ、んん、ふう。もう、何なのよ!」

「もしかして、営業二部の調査が目的ってことか。それに鈴木さん、あんた……どこかで見た……」

 関根さんが鈴木さんをじっと見つめて言った。

「あなたは、営業二部のエース、関根課長ですよね。さすがですね、何か嗅ぎつけて確認のためにここへ来たんでしょ?隣の斉藤さんは関根さんのアシスタントですか?」

「エースかどうかは別として、その通りです。今日入社したわりには何故か私のことをよくご存じですね」

「ここだけの話にして下さい。関根課長だから話しますが、あなた方が捜していることと、私の調査は関係している可能性があります」

「僕を信用してくれてるんですね。それよりあなたは……誰です?……すいませんがその伊達眼鏡外して下さい」

 鈴木さんはため息をついた。そして、関根さんに言った。

「おそらく、あなたは俺がなんとなく誰だか気付いているんだな。悪いがこのままで……」

「……気付いてる?そんなわけ訳ないです。ただ、なんとなく、まあ、いいです」

 関根さんは言葉をのみ込んだように見えた。二人は目を合わせて笑った。何なの?

 私と斉藤さんはそれを黙って見ているだけだった。
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