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第五章 二人の決意

本社配属ー2

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「……あの。私、まさか秘書課配属じゃないですよね?申し訳ないですけど、秘書はしばらくちょっとやりたくないです。今回のことで懲りてしまって……」

「ああ、大丈夫よ。急に来て秘書はやらせないわ。さすがに会社についてあまり知らない人に任せるのは無理だから」

 恥ずかしい。そうだよね。自意識過剰だわ。

「……すみません。考えなしで」

「いいえ。あのね、社内も機構改正があって、皆さんの配属になる来週以降正式に発表になるわ。異動がたくさん出ます」

「そうなんですね」

「里沙は心配症なんだよ。俺がいるのに里沙を変なところに配属するわけがない」

「……そんな権限までお持ちとは知りませんでした」

 嫌みたらしく彼に言ってやる。

「そうね、そんな権限も本当は持ってないけど、持っているようなものという鈴村君の権力はたいしたものよ。敵に回さない方がいいわよ。彼はうちでは有名な仕事も出来てイケメンのハイスペックエリートですから」

 そう言ってウインクする京子さん。可愛いなあ。

「よく言うよ。今は弟の俊樹さんがいないし、君の旦那以上のハイスペックエリートは見当たらないね」

「それはそうでしょ。彼、あれでも一応ここの御曹司よ」

 ひえー。真顔で旦那様を肯定する。うらやましすぎる。でも、彼女が言うと嫌らしく感じない。人柄とこの彼女の見た目がなせるワザだ。

「……」

 私が黙っているのを見て、京子さんが言った。

「里沙さん。どこへ配属になるとしても何かあれば私を頼って下さい。あなたの彼氏は結構忙しいの。優先順位がまず社長や専務にあって、あなたからのSOSに全てを投げ捨てて応じてしまうと彼の立場も悪くなる。彼はあなたから連絡があったら、下手をすると優先順位をあなたにしてしまう可能性がありますからね」

「ええ?」

 私はあっけにとられて彼の顔を見た。すると、彼は苦笑い。

「まあ、そうだろうな。俺の中での優先順位は里沙。だけど、専務の妻である彼女は夫を優先してもらわないと困るというわけだよ」

「はい、正解です」

 京子さんがパチパチと手を叩いて彼に言う。

「うふふ」

 おかしすぎる。笑ってしまった。

「というわけで、頼むわね、里沙さん。携帯の電話番号とメアドを早速交換しましょう」

 そう言われて交換した。

「ちなみに、私はあなたと毎日顔を合わせることになるから、携帯に連絡しなくても話すことは出来るようになる予定」

「え?」

「京子さん!まだ決定ではありませんよ」

「あら、いいじゃない。私は期待しているわ。彼にも内緒にしてるんだから、楽しみにしてるから頼むわね」

 一体何のこと?

「ああ、ごめんなさい。とにかく、あなたの近くにいる予定です。心配しないでね」

「はい。ありがとうございます。そして、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくね。で?ふたりは一緒に住んでるの?」

「……いえ、そのつもりはないです」

 じろりと私を隣で睨むメタルフレームのイケメン。怖いよ。

「うふふ。わかりました。同棲は誰かさんの努力次第という事ね。すごい目で睨んでるわよ、誰かさん」

「……」

 わかってはいるけど、いくら言われてもまだいやなのだ。

「鋭意説得中です」

「鈴村君、頑張ってね、じゃあ、私はこれで失礼します。専務のことだけど、もう今日は大丈夫?」

「はい。今日はもう大丈夫です」

「わかりました。お疲れ様です」

「お疲れ様でした」

 私も立ち上がってお辞儀した。手を振っていなくなる京子さん。本当に綺麗な人。女性が憧れる女性っているんだなと痛感。

「……素敵な人ね。美しいだけじゃなく、冗談も言ったり本当に魅力的な方。こんな素敵な人を妻に出来た専務は、どれだけすごい方なんだろうと思うわ」

「まあ、そうだな。彼女はすごいよ、確かに。専務は彼女を口説くとき、学生時代も見たことのないぐらい全力だった。そして付き合ってすぐプロポーズしていた。元々彼の秘書だったから、逃がしたくなかったんだろう」

「……そうだったんだ。でも京子さんと付き合える男性なんて、限られるだろうな」

「そうかもしれないな。俺だってお前を口説いてすぐに結婚してもいいって言っただろ?忘れたのかよ」

「京子さんと私とではあまりに差がありすぎて……」

「どういう意味だよ?俺と陽樹じゃ差があるって言いたいのか?」

「そんなこと言ってないでしょ?あなたは別。今の私と京子さんじゃ雲泥の差ってことよ」

「里沙は馬鹿だな。俺と陽樹は親友だし、正直生まれ持った身分差はある。だが、それ以外であいつに負けると俺は思っていない。つまり、そんな俺の選んだお前が京子さんに負けるわけがないだろう」

 は?びっくりしてどや顔の彼をじっと見た。すごい論理。相変わらず自分に自信がおありでうらやましい限りです。私は今の京子さんを見て自分が同列なんてとてもじゃないけど思えない。はあ。

「……なんだよ?どうして黙っているんだ?」

「ううん、賢人がうらやましい。私はあなたとは違う思考の持ち主です」

「……わかってないな、里沙。まあ、いいよ。お前には京子さんとは違ういいところもたくさんある。俺が言うんだから間違いない!」

「……はー」

 ため息しか出ない。恐ろしいほどの自信に満ちた態度。一緒にしないで下さい。私ついて行けるか正直心配だわ。

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