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魔法学校

古巣(2)

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 指定された建物の上空へと辿り着いたノアは少しの間旋回した後、近くにある砂がむき出しになっている広場に土を舞い上げながら着地した。
 着地と同時にノアの背から1番に飛び降りたルシアは、背に残るリーシャの方へ手を差し出した。

「リーシャ、足元気をつけろよ」
「うん」

 ルシアの手を借りながら、リーシャはゆっくりと地面へ降りた。
 背に乗っていた3人が降りると黒竜は徐々に小さくなり、人間のノアの姿が現れた。
 何も羽織っていないノアの姿を見たリーシャは慌ててカバンの中から服を取り出した。ノアを直視できないリーシャは、気まずそうに目を背けながら手渡した。

「ごめん……出すの忘れてた……」
「別に。かまわない」

 ノアは服を受けとると、慌てる様子もなくモソモソと着始めた。
 この瞬間に教員や生徒が集まってくる様子がないのは救いだった。
 丁度服を着終えた頃になると、建物の中から1人の女性が現れた。

「リーシャちゃん!」

 その人物はリーシャにとって、よく見知った人物だ。

「ホ―リンス先生! お久しぶりです!」
「今年も来てくれて助かるわ」

 彼女はシーラ・ホーリンス。昔リーシャがお世話になった、この魔法学校の教師の1人だ。
 現れたタイミング的にシーラはノアが服を着るのを待ってくれていたのだろう。
 それにシーラが仕事をしている部屋はこの広場のすぐ近く。リーシャたちの到着に気付き、ノアの竜の姿から人間の姿へ変わるところも見ていたはずだ。
 それにもかかわらずシーラは普通の人間の客人を迎える時のようにノアたち兄弟に微笑み、軽く会釈をした。
 ノアたちもすぐさま同じように頭を下げた。

「それにしてもリーシャちゃん。事情は聞いてたけど、本当に竜に乗ってくるなんて。驚いたわよ」
「私もこんな日が来るなんて、数か月前までは思ってませんでした」

 リーシャは笑いながら、久しぶりに会ったシーラとの会話を楽しんだ。去年も手伝いに来てはいたため、今日会うのは1年ぶりだ。
 会話に満足し落ち着きが見えてきた頃、ルシアがタイミングを見計らったように話に入ってきた。

「なあ、リーシャ。この人がリーシャに魔法を教えた先生か?」

 リーシャはクレドニアムへ移住する前、この魔法学校で魔法について学んでいた。このことは、事前に3兄弟たちにも話してはいる。

「違うよ。ホーリンス先生はここの先生たちを取りまとめてる先生。私に魔法教えてくれたのはフローネ先生だよ。とことでホーリンス先生、フローネ先生は?」
「今は授業中よ。まだしばらくここには戻ってこないわ」
「そうですか」

 リーシャに魔法を教えた人物、ナタリー・フローネという女性教員だ。
 ナタリーにも早く会いたかったリーシャは残念そうな顔をした。
 けれど、会えないのはあと数時間のこと。夕方には授業が終わるため、それ以降ならば顔を合わせることができる。
 そう思い気を取り直したリーシャは、シーラに自分が呼ばれた理由を確認することにした。

「それより、先生。私が教える立場として呼ばれたってことは、また見つかったんですか?」
「ええ、今年も1人。その子は生まれて数日で別の魔法学校の前に置き去りにされていたそうよ。親は不明。今は6歳で、最近ここへ転校してきたの」
「ってことは、今この学校にいるのは3人ってことですよね?」
「いいえ。去年の暮れにトールが巣立っていったから、今この学校にいるのは2人よ」
「そっか……トール、もういないんだ」

 リーシャはトール・カザリアスという青年とも面識がある。
 彼はムードメーカ的存在で、リーシャとは同年代の男の子だ。
 誰とでもすぐに距離を詰めてくるタイプではあったけれど、リーシャが初対面の相手に馴れ馴れしくされるのが苦手だとわかると、適度な距離間で接してくれた。
 そういうところにリーシャは好感が持てた。それに、彼が楽しそうにたくさんの人とはしゃいでいる姿は、なんとなく羨ましくも思えた。
 そんな彼が、これからは普通に生活していけるというのならば喜ばしいことだ。

「ちゃんと卒業できたのならよかった。けどやっぱり、騒がしかった彼がもうこの学校にいないっていうのは、ちょっと寂しいですね」
「そうねぇ。いつも駆け回ってるような子で、教員室にも頻繁に顔を見せてくれていたから。ほんとに寂しいわ」
 
 卒業生の話をしていただけなのだけれど、その中に含まれていた“彼”という言葉にノアは不満の色を見せた。
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