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魔道具技師への道

それぞれの苦悩(3)

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 リーシャが部屋に戻ると、ルシアは机と向かい合い、再び木板に視線を落としていた。リーシャが戻ってきたことも気がつかないほどに集中している。
 ルシアの様子を見ていたディフェルドはリーシャが戻ったことに気がつくと、立ち上がった。リーシャの方へ向かって歩き出したけれど、側を通り過ぎ、廊下へと出て行ってしまった。そして、リーシャの方へ振り返って言った。

「ちょっと話そうぜ」
「……はい」

 リーシャがデフェル度の後を追って廊下に出ると、部屋の扉が閉められた。
 ディフェルドの物々しい雰囲気を纏った背中を見て、何を言われるのかとリーシャの心臓が煩く音を立てた。

「嬢ちゃんにとっちゃ余計な事だろうとは思うんだが、娘、ティアが原因だし、少し口出しさせてほしいんだ。いいか?」
「ど、どうぞ」

 わざわざ場所を廊下へと移した時点で、おそらくルシアについてのことのことだろうと、なんとなく察していた。
 ルシアは今、何事もなかったかのように魔道具作りに取り組んではいる。
 けれど実はリーシャの態度にかなり落ち込んでいるのかもしれない。もしかするとディフェルドは、リーシャの行動をやり過ぎだったと咎めようとしてるのではないだろうか。
 そんな気がしながら、リーシャは次に出てくる言葉を身構えて待った。

「嬢ちゃんはルシアの事が嫌いか?」
「いえ、嫌いじゃないです」
「じゃあ、さっきので嫌いになったか?」
「なってないです。びっくりしたし、ああいう……人に見せつけるような事はもうしないでほしいとは思いますけど」

 ディフェルドはリーシャの回答を聞き苦笑していた。

「それならいい。俺もそうじゃないかと思ってルシアにフォローは入れておいた。あいつ、やらかしちまったって、かなり凹んでたんだよ」

 ルシアが凹んでいるという事を聞き、リーシャの胸にチクリとした痛みが走った。
 落ち込んでいるのが可哀想だからといって、そう簡単になかった事にはできるわけもない。
 そんな2つの感情が混ざり合い、心臓辺りがモヤモヤとして気持ち悪く感じた。どうにかしてこの気持ち悪さを消し去りたかった。

「やっぱり凹んでたんですね。けど、凹むくらいならやらなきゃいいのに……」

 思わず嫌味な言い方をしてしまった。
 ハッとしてディフェルドの方を見ると、さらに困ったような顔をしていた。

「ま、まあまあ。兄ちゃんもティアのことで参ってて、正常な判断ができてなかったんだろうし、許してやったらどうだ? 自分がやったことはまずかったって、ちゃんと反省もしてるみたいだったしな」
「うーん……まあ、反省してるのなら……わかりました。私もずっとギクシャクしたままっていうのは嫌なので後でルシアと話をして決着をつけます」

 一緒に暮らす以上これからもずっと顔を合わせる。ノアの件でずっと引きずっていても居心地が悪いだけだと思い知ったのだ。早めに関係を修復するに越したことはない。
 リーシャの言葉にディフェルドも安心したようだ。

「それならよかった。娘のせいで嬢ちゃんたちがこじれっぱなしっていうのも後味わるいからな。俺が話したかったのはそれだけだ。嫌いじゃないなら早いとこ、ちゃんと話して仲直りするんだぞ」
「わかってます。私だってルシアにずっと機嫌を窺いながら話しかけられるの嫌ですから。自然体で、自由気ままにいてほしいですから」

 そう言って微笑むと、ディフェルドが無言で目を見開いた。そしてすぐニヤついたような顔をした。

「な、なんですかその顔……」
「いーや? そうかそうか。やっぱり、元からティアが入り込む隙間なんてなかったんだな」
「え? だから何の話を……」
「なんでもねえって」
「ちょっと!」

 ディフェルドは上機嫌にルシアのいる部屋へと続く扉を開いた。

「あっ! おっさ……」

 ディフェルドを待っていたのか、扉が開いたと同時にルシアが立ち上がった。けれどリーシャの姿を見たルシアは一瞬動きを止めた。
 これではノアの時と真反対だ。仕掛けてきた本人が気まずくなってしまっているのだから。
 ルシアは気を取り直すと、再びディフェルドに話しかけた。

「おっさん。一応できたんだけど、どうだこれ」
「おっ、見せてみな」

 ディフェルドはルシアが差し出す木版を受け取り例の道具で刻印の出来具合を確認した。

「んー、まだ粗いな。これじゃあ――」

 ルシアはディフェルドの言葉に真剣に耳を傾けている。
 ルシアの視界に入る位置に座っては邪魔になるかもしれないと感じたリーシャは、本棚の傍に椅子を持って行き、そこで本を読んで過ごすことにした。
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