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ネクロノーム家

機会(2)

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「はい。シリウス様は魔法に関する研究を熱心になさる方ですので、知られていない魔法を多く扱えます。転移の魔法も数年かけてご自身で作り上げられたのです」
「すごい……その魔法が広まったら、魔物に襲われる危険もなく都市を移動できますね」
「ええ、そうですね。けれど、シリウス様は世に公表されるつもりはないそうです」
「え? なんで?」

 家の力を誇示するために、ふんぞり返って公表するものだと思っていたリーシャはまた驚いた。

「自分だけの特権にしたいというのが大きいようですけれど、必要な魔力量が大きく実用向きではないから、ともおっしゃっておりました」
「そうですか……」

 本当に公表するつもりはないのだとわかり、リーシャは残念に思った。
 リーシャもやはりネクロノームの家系の人間。未知の魔法と聞いて興味を持たずにはいられなかったのだ。
 彼がネクロノームの人間ではなければ良き友人になれたような気がした。むしろなりたかった。ただし、あの性格の人間に気を許せたかどうかは別問題ではある。
 リーシャが黙り込んで惜しがっていると、メリッサが心配そうに声をかけた。

「リーシャ様、先ほどから手が止まっていらっしゃいますが、お食事はもうよろしいのですか?」
「あ、いえ。気づいたらここに連れて来られてたので、いろいろ気になっちゃってたから……お話を聞くのに夢中になってただけです」

 メリッサの表情の乏しい眉がピクリと動いた。

「……まさかとは思いますけど、シリウス様はリーシャ様の合意なくこちらへ……?」
「はい」

 メリッサは信じられない事を聞いたように、眉間に指をあてた。

「もしかして、ハイラントさんは……」
「メリッサでよろしいですよ」
「メリッサさんは、ネクロノーム様から事情を聴いてないんですか?」
「はい。婚約を考えている女性だ。目を覚ましたら侍女として身の回りの世話をしてやってくれ。眠っていらっしゃるのも、竜の撃退時にいろいろあったから疲れていたのだろう、と伝えられていただけですので。まさかそんな事をしでかしていたなんて思っておりませんでした。世間ずれをしている方だとは思っていたのですが……」

 思いもよらぬメリッサの呆れた態度にリーシャは唖然とした。

「……意外です」
「何がでしょう?」
「あ、いえ。ネクロノームで働いている使用人の人たちも、ネクロノームのためなら何でもありな人ばかりだと思ってたので」
「本邸で働く使用人はそうだと思いますよ。私は主人の世話というより、この別邸の管理のために雇われているような状態ですので。もちろん、本家の皆様がいらした際には身の回りの事もさせていただいておりますけれど」

 メリッサは困り気味の表情だった。
 それほど思い入れがないのならもしかしてと、リーシャは思い切って聞いてみることにした。

「あの! だったら、この屋敷から出るのを手助けしていただけませんか? 私クレドニアムに帰りたいんです。待ってる家族……もいるので!」
「そうして差し上げたいのはやまやまなのですが、私はネクロノームに使える身です。そのような勝手は出来かねます」
「そう、ですよね……」
「申し訳ありません」

 リーシャは肩を落とした。
 けれど、この場に連れて来られて悪い事ばかりではない。
 シリウスはあの時、カルディスの指輪の一般には知られていない話を持ち出し、リーシャが死竜の封印された魔道具を扱えるのは、闇の魔力を扱えるネクロノームの人間だからだと言っていた。
 その話からして、カルディスの指輪にある刻印を作り出したのは、ネクロノームの先祖である可能性が非常に高い。もしかするとこの別邸にもそのような文献を置いているかもしれない。
 シャノウを解放する手掛かりを探るには絶好の機会だった。
 ただここは別邸であるため、求めているものが見つかる確率はかなり低い。

「あの、メリッサさん」
「なんでしょう」
「ネクロノーム様から私をこの部屋から出さないようにとか言われてますか?」
「いえ。お屋敷内でしたら自由にされても問題ありませんが」
「じゃあ、書庫があれば案内してもらえませんか? 本が読みたいので!」

 リーシャが前のめりにいうものだから、メリッサは驚いている様子だった。
 けれどすぐにやんわりと口角を上げた。

「かしこまりました。お食事が終わりましたらご案内いたします」
「! ありがとうございます!」

 リーシャは早く書庫へ向かいたかったために、椅子に座り直すと慌てて料理を口へとかき込んだ。
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