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竜の国

後日談(18)

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「僕はねぇさんの周りの人間はだいたい好きだよ! みんなねぇさんに優しくしてくれるし、あと、ご飯とかお菓子くれるし」
「餌付けされるな」
「えへへぇ。けどね、それでもやっぱり、ねぇさんに優しくない人とか、あと、ねぇさんのこと大好きすぎる人は嫌いだし、どんなに優しそうな人でも、ねぇさんが仲良くしてる人じゃないと興味ないかな」

 おどけるエリアルの言葉に、ルシアもそうだと黙って頷いていた。
 人の姿を得てから今まで、全身で好きだと伝えてくる彼ら。
 竜になると決めれば、不安が次々と押し寄せてくるかもしれない。けれど、自分を慕ってここまで言ってくれるこの竜たちの命が、自分の死によって失われる事の方が耐えられそうになかった。

「……やっぱり、3人にはかなわないなぁ」

 零れたリーシャの言葉に、エリアルが真っ先に顔を輝かせた。

「それじゃあ!」
「うん。そこまで言ってくれるなら、私も腹をくくるよ。人間としての最後を迎えたら、その後の事は3人に託す」
「やったぁ!」

 感極まったエリアルはリーシャに抱き付いた。ノアとルシアも安堵し、嬉しそうにしている。
 リーシャは覚悟を決めたのだ。叶えられないのかもしれないけれど、ノアたちにもリーシャの願いのため、1つだけ約束してほしかった。

「だからね、もし生まれ変われなくても、私が私じゃなくなってても、頑張って生き抜いて欲しいの。今の私の事、忘れてもいいから」
「善処は、しよう」

 歯切れの悪いノアのその返事は、そうなってしまった場合、リーシャの望む未来を歩むことはできないと確信しているようだった。その答えが、嘘はつきたくないノアの、兄弟たちの最善の答えのようだ。
 少ししんみりした空気が流れだすと、ルシアが両手でパシンという音を立てた。

「さっ、リーシャが覚悟決めてくれたんだ! 今日は祝いするぞ! それにルニルも旅立つんだ! 盛大に送り出してやろうぜ」
「あっ、じゃあ僕、頑張ってご飯作るね!」
「気合い入れすぎて作りすぎんなよー」
「大丈夫! 残ったら明日の朝ご飯になるだけだもん」

 途端に部屋の中がワイワイと騒がしくなった。
 リーシャは部屋の埃っぽい空気を入れ替えようと窓を開いた。夜のひんやりとした空気が、淀んでいた空気を押し出し、部屋の中が澄んだ空気へと変わっていく。

(みんなが望んだ未来になるといいな)

 切なげに願って見上げた夜空に、一筋の星の光が流れたのだった。
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