滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢

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08 異世界

考えなしの大魔術

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 そうこうしている間に、辿り着いた。


 始まりの白い部屋。
 それは傷一つなく、変わらずそこにあった。

 その白は色褪せることなく、その角は削れることなく、鋭く。

 木の中にめり込んだ立方体は、心なしかわたしの記憶より深くめり込んでいるような気がする。
 逆に木が枯れないのがすごいくらいにめり込んでいる。
 

「開いて」


 まるで忠実なしもべのように、部屋はわたしを受け入れた。


 部屋の中は何も変わらない。
 わたしが放り出したトンカチが床に転がり、ベッドメイキングすらもされていない。

 ついさっき出かけたみたいな、そんな風な部屋。
 

「……ツナマヨおにぎり」

 変わらず飛び出してくるツナマヨ。


「……うん、おいしい」

 変わらずおいしいツナマヨ。


「くそ……おいしいな……くやしい……ツナマヨ……ツナ強めのツナマヨおにぎり……」
「キー!」

 部屋の外からキースの鳴き声が聞こえた。催促しているようだ。わたしは扉を開ける。

「開いて」


 壁の一部が抜けて、キースがこちらに向かって飛んできた。

「キーッ!?」

 しかし見えない壁に当たり、そのまま跳ね返る。

「……え? ちょっとキース、パントマイムしてる場合じゃないよ」
「ワザトジャ、ナイ!」


 何してんだろう、と思いながらわたしは床を透明にしてみた。
 
 木の中は空洞。ぽっかりと空いた穴。

 覗き込むと内部は螺旋状になっており、あまりにも深すぎてその底は見えない。


「キー! キー!」

 キーキーとキースが騒いでいる。何かあったのかとわたしが外を見ると、キースが体当たりしていた。

「どうしたの? 吸血鬼じゃないんだから入っておいでよ」

「ハイレナイノ!」


 わたしは、キースを抱き上げて部屋に入る。

「キッー!」

 しかしキースは、くちゃくちゃになって弾き出されてしまった。

 もんどり打ってのたうち回るキース。
 

 わたしは思い出した。
 
 この部屋には、生物が入れない。葉っぱの1枚すら、持ち込めない。



 木を破壊できない以上、わたし以外が木の中に入るには部屋をどうにかするしかない。

 わたしは少し考え、部屋の全体を出入口にしてみた。


「……壁も天井も全部なくす! あと床も!」

 部屋が消失する。
 不自然に抉れた木が露になる。不自然にぽっかり空いた穴が見える。


 わたしは猛然とキースを掴んでぶん投げてみた。

「キーーッ!」

 見えない壁に当たって、キースはまた潰れた。


「ナンデ、ナゲル!? イタイ!」
「え……だってなんかそういう流れだったじゃん」

 壁や天井がなくても、そこに部屋は存在する。結界は存在する。


「駄目そうか?」

「だめなのかな……あ、そうだ。デュオ・コッド!」


 わたしは王子様に教えてもらった呪文を試しに唱えてみた。
 ……しかし、変化はない。

「ダメそうだよー?」

 レイスさんは透明な壁をキックするが、中には入れないようだった。


「あたしも魔術で変質させようとしてみたけど、なんか無効化されてる。ダンジョンのトラップみたいなのが働いてるんじゃないかな。魔法を打ち消す力」

「そうなんですか……じゃあ、僕も役に立てなさそうですね」


 スードルは、がっかりと項垂れている。
 
 レイスさんは「でも、外側からなら爆発が……」とか不吉なことを言っている。
 

「でも、困っちゃいましたね」

 木の穴は部屋によって完全に塞がれている。
 一度部屋に入らなければ、木の中に入ることはできないだろう。


「……やってみる」

 フェンネルさんは、部屋と木の隙間を狙って斬撃を放った。
 剣は弾かれたようには見えなかったけど、そこには傷すら残っていない。

「魔獣の牙でも傷つかなかったのよ、いくらフェンネルでも無理があるわ」

 シアトルさんが首を振る。
 
「とりあえず壊してみればいいじゃん、やってみる。みんな、離れててー! スードル、手伝ってくれる?」
「え? あ、いや、待って、おい離れろ!」

 レイスさんの提案を受け、ロイドさんは慌ててホーンウルフに飛び乗って退避した。
 他に部屋の近くにいた人も、一緒に下がる。

 どうやら立派に魔導士としての技術を身につけたスードルは望み通りにレイスさんとコンビを組めたらしい。
 

 王都でちょうど出かけようとしていたアリスメードさんたちと出会い、そのまま出発してノンストップで白玉の森まで来たので、スードルとレイスさんの恋愛関係が進展したのかは聞いていない。

 でも、どうやら立派な魔導士見習いにはなれたみたいだ。
 

 レイスさんは杖を取り出し、詠唱を始めた。スードルもまた目を閉じ、集中している。
 具体的に何をしているのかはよく分からないけど。


「スズネ、2人を守ろう」

 わたしたちの気配を嗅ぎつけ、魔獣が寄って来ていた。

 フェンネルさんは言葉少なにそう言って、静かに剣を抜く。

「はい! キースも一緒に頑張ろ!」
「キー!」

 なんだか久しぶりの戦闘だ。

 ちょっとしたワクワクを感じながら、わたしは剣を抜く。

 唸り声にビビッて部屋に逃げ帰っていたわたしじゃないってことを、魔獣さんたちに教えてあげなくちゃ。


「あ。みなさん、いきますよ!」

「え、もう?」

 スードルのお知らせが意外と早く、気合いを入れたのに肩透かしを食らった気持ちになったけれど、それとほぼ同時に恐竜みたいなのがやってきた。

 フェンネルさんが剣を引いたけど、それより早くわたしは走り出す。


 あんまり使う機会はなかったけど、しっかり練習してはいた。

 強く地面を蹴るとほぼ同時、肉体強化。脚力を上げて高く跳ぶ。
 小さな体は軽々と宙を舞い、解除と同時に剣にクレイを纏わせて、突く。

「キー!」

 硬化した刃は容易に鱗を貫き喉元の柔らかい肉を切り裂いて血を見せた。魔獣は怯まずに追撃の姿勢を見せるけど、キースが威嚇して電撃を放つとそっちに気を取られて隙が見える。

「バブル・エレメント・クレイ」

 自分の足を起点に土の塊を作ることで足場を確保し、空中での機動力を維持。
 
 刃に炎を纏わせて斬りつければ、切り落とすとまでは行かなくても致命傷を与えられる。


「うん、上手い」

 魔獣は大きな悲鳴と共に倒れた。地面に降りたわたしを、フェンネルさんは褒めてくれた。


「やっぱり、才能あるね」

 その声が聞こえるか否か、というときだった。


 目の前に巨大な閃光が見えた。
 瞬きくらい一瞬だったから、見間違いかと思った。

 でも、どうやら見間違いじゃなかった。
 それは凄まじい爆発だ。

「……!」

 わたしはキースに包まれた。続けて聞こえる、バキバキという轟音。

 不思議と熱は感じない。
 でもその爆発による魔力の拡散は、わたしが肌で感じられるくらいだったし、握った剣の芯が震えるくらいだった。


「よしっ!」

 爆心地を眺めて、レイスさんが自慢げに仁王立ちしている。

 それは、隕石でも落ちたみたいなクレーターだった。
 
 地面はかなり抉れている。
 異常なくらいに木は傷一つなかったけれど、周辺の土とか草は無事じゃすまなかったみたいだ。

 なんならむしろ、わたしたちが無事だったのが不思議なくらいの爆発。
 

「うーん、ダメそう!」

 そんな爆心地みたいな状況にも関わらず、部屋はそのままで鎮座していた。
 当然のように、その壁には汚れ一つない。

 レイスさんは大魔術をぶっ放して気持ち良くなったらしく、爽やかな笑顔でそう言った。
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