滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢

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08 異世界

知らない人の長話——都市

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 この都市にいると、なぜか叫びたくなる。

 エナさんの話を聞いているせいかもしれないし、誰もいないから廃墟みたいで恐ろしいからかもしれない。
 
 首にかけているキースのメダルのおかげで、どうにか正気を保ってる感じだ。


「あ、そういえば、なんでこの都市がこんなことになったのか、まだ説明してなかったね。

 それについてはそんなに複雑な話じゃないんだけど。


 まず、そもそもマナがどうやって生産されてたかっていうと、ほとんどは大樹からなんだよね。

 正確には、大樹の木の実か。

 今は一つもないけど、昔は結構あったんだ。

 
 公園みたいな場所があったでしょ。

 あの場所は元々大樹の森で、一種の農園みたいになってた。

 大樹から伸びた根から伸びた枝が集まって、森みたいになってるんだ。面白いでしょ?」



 エナさんは、わたしを山に連れてきてくれた。
 

 しかし、その山はわたしの知ってるのとは全く違った。
 開発されているのもそうだけど、まるで巨大な氷柱みたいに天井から垂れ下がっていた。

 その山に、木は一本たりとも生えていない。

 逆さまだから当然といえば当然なのかもしれないけど。
 
 
 土は黒く空を覆っていて、その影のせいか辺りは暗くて真っ暗だ。
 
 全部が全部、闇に呑まれてじめじめしている。


 坑道らしき場所へ続くエレベーターみたいなものが、いくつもその山へと伸びている。

 けれどほとんどが途中で折れて、砕けて、壊れている。
 かつては道を明るく照らしていたであろう街灯と一緒に、今は地面に転がっている。
 

 ようやく都市から離れて少しホッとしたのに、ここもまた開発され尽くされているみたいだ。


 

「でもそれが枯渇してきた。消費量が増えた影響もあるし、大樹の生産量もゆっくりと落ちていたからね。

 でもそれは季節性のもので、心配はいらないと……当時は言われてた。
 

 代わりに、山頂から、鉱石をとってきて、それを使った。

 鉱山自体は北の方にもあるんだけど、今は水没してる上にすっごい熱いからね。調査はできなかった。

 まあ当時は山頂の方だけでも鉱石はたくさんあって、この先1000年はもつだろうってことだったから、安心して使ってたんだよね。


 でもまあ、色々あって、鉱石が枯渇してしまった。

 目算を誤ったのと、利権が絡んだのと、自然か何か知らないけど偶発的な現象だ。


 ちょっと運が悪かった。
 ほんのちょっと失敗した。


 たったそれだけで、情勢は一気にほぼ最悪にまで転落した。してしまった」



 ガラガラと頭の上で、何かが崩れる音がした。

 エナさんが「危ないから離れよう」と言って歩き出したので、わたしもそれに従う。

 そういえば、この世界の地面には土がない。
 アスファルトとコンクリート、瓦礫に鉄骨。そんなのばかりだ。
 
 
 この都市の土は、木は、葉は、空にあるらしい。

 空にしか、ないらしい。



「この都市はいくつかの地区に分かれているけれど、全体の大きさはそんなに大きくないんだ。

 交通手段が発達してるのもあって、東の山から西の海まで、30分もかからない。

 しかもテレポートを使えば、一瞬で移動できるね。


 まあとにかく、そんな小さなこの都市で、戦争が勃発してしまった。

 地区は互いの権利を主張し合い、差別、偏見、支配者は人の醜い部分を刺激し、市民を駆り立て、戦いを加速させた。

 幸か不幸か、発展しすぎたこの国の科学は、極めて人道的に気持ちよく、清潔で爽やかに、全年齢対象に、敵を殺戮した。


 シミュレーションゲームみたいに、刺激的で、楽しくて、楽ちんで、簡単だった。

 僕らは指先1つで、互いに互いを殺し合った。とっても平和的に。


 その時はまだ、生死すら些細な問題だった。

 君には想像できないかもしれないけど、死ぬっていうのはそんなに怖いことじゃなかったんだ。

 少なくとも、限られたエネルギーを他の地区の人間が独占するかもしれないという現実よりは、苦痛じゃなかった。
 

 それはこの時代特有の生死感のせいでもあっただろうし、プロパガンダが成功したせいかもしれない。

 いずれにせよ、飽食は希死念慮を招きがちだ。
 
 ……君にも、覚えがあるんじゃない?」


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