18 / 45
17 むじん
しおりを挟む
ニコとポポは、すぐに戻ってきた。
「街には誰もいないぞ」
と、二人は言う。
「子供の一人もいない。まるで廃墟のように静かだ」
『タテモノハ、キレイダッタヨ!』
ジャックに揺られてすぐに、その街は姿を現した。
「……ぉ」
霧の中から姿を現したその場所は、見慣れないエキゾチックな建造物が所狭しと立ち並んでいる。
白い霧で濁って見える建物は、どれも色鮮やかで物珍しい。
木々の間の狭いところを強引に切り拓いて作ったのか、左右は山に囲まれている。
「いつもなら、ここに案内人が立ってるんだけどな」
と、ケケは街の入口で呟いた。
「……」
「ちょっと登るゼ」
良くも悪くも平坦だった遺跡とは対照的に、温泉街は中央の大きな道が真っすぐと坂の上まで伸びていて、その左右に建物が並んでいるような形をしていた。
大通りはじぐざぐで入り組んでいたが、石で舗装されている。
裏通りもあるのかもしれなかったが、とにかく街全体の横の幅が狭くて、しかも建物がどれも大きく派手なので、圧迫感がすごい。
道の半ばまで飛び出した軒が、今にもポキッとなって落ちてきそうだ。
「ホントに誰もいないのか。こんなに静かなのは初めてだな、ケケッ」
「ケケ、きたことある?」
「随分前だけどな」
ジャックは周囲を見回しながら、油断なく目を細めてスンスンと鼻を鳴らしている。
ルルはそんなジャックのツノをちょっと撫でた。
「どこいってる?」
「一番奥だよ。そこには祠があって、水盆が祀ってある」
「すいぼん?」
「水が張ってある、平らな入れ物だな。見ればすぐに分かる。ニコ、祠には行ってないんだよな?」
「ポポの体で街の奥まで入るのは、さすがに忍びなかったからな。見つかってタコ殴りにされたら可哀想だろう」
「……ポポ、こっち」
どうやら、ニコもその水の存在は知っているらしい。
ルルは、だんだん疲れてきたらしいポポを抱っこしてジャックの上に乗せてやった。
そしてそのまましばらく大通りを道なりに行くと、真っ赤な門が見えてきた。
その先は整備された森になっていて、石畳の道の周辺までもが砂利で整備されていて、石の広場のようになっていた。
「こっちだ」
ケケは見知った様子で臆せずずんずん進んでいく。
そして赤い門を避けるように砂利道を通り、その奥へと進む。
ルルとニコとポポを乗せたジャックも、それに続く。
そこには確かに祠があった。
いや、祠というには少し大きくて、扉がついている。
「……すいぼん?」
「この中だよ」
ケケは迷いなくその扉を開けた。
中には、確かに水が入った器が置いてあった。
大きさは思っていたよりも大きく、ルルの両手では抱えきれないほどの大きさがある。
水は透き通っているが、不思議とその深さは底知れず、水盆の底は全く見えない。
水は盆の際までなみなみと注がれていて、今にも溢れそうだ。
「ここの水はずっとここに安置されてるから、民衆の記憶は全部持ってるんだ。どこかに流れたりもしないしな」
「……なるほど」
一端の精霊族だけあって、さすがにニコの力も
「ポポ、水の中に入ってくれ」
『ワカッタ!』
どうやら、人間以外に対する恐怖心は、あまりないらしい。
ポポはニコに従って、その水盆の中にトポンと浸かる。
覗き込む限り、どこまでも落ちていきそうに見えるが、外の器の深さと同じくらいの深さに底があるらしく、ポポは水盆の中央で水晶玉みたいにきらきらと透き通っている。
ポポが入ったというのに、不思議と水は溢れずに、その際でふるふると震えていた。
「……なるほど」
しばらくそうしていると、ニコが小さく呟いた。
「……どうやら、この地は疫病に侵されているらしい」
「街には誰もいないぞ」
と、二人は言う。
「子供の一人もいない。まるで廃墟のように静かだ」
『タテモノハ、キレイダッタヨ!』
ジャックに揺られてすぐに、その街は姿を現した。
「……ぉ」
霧の中から姿を現したその場所は、見慣れないエキゾチックな建造物が所狭しと立ち並んでいる。
白い霧で濁って見える建物は、どれも色鮮やかで物珍しい。
木々の間の狭いところを強引に切り拓いて作ったのか、左右は山に囲まれている。
「いつもなら、ここに案内人が立ってるんだけどな」
と、ケケは街の入口で呟いた。
「……」
「ちょっと登るゼ」
良くも悪くも平坦だった遺跡とは対照的に、温泉街は中央の大きな道が真っすぐと坂の上まで伸びていて、その左右に建物が並んでいるような形をしていた。
大通りはじぐざぐで入り組んでいたが、石で舗装されている。
裏通りもあるのかもしれなかったが、とにかく街全体の横の幅が狭くて、しかも建物がどれも大きく派手なので、圧迫感がすごい。
道の半ばまで飛び出した軒が、今にもポキッとなって落ちてきそうだ。
「ホントに誰もいないのか。こんなに静かなのは初めてだな、ケケッ」
「ケケ、きたことある?」
「随分前だけどな」
ジャックは周囲を見回しながら、油断なく目を細めてスンスンと鼻を鳴らしている。
ルルはそんなジャックのツノをちょっと撫でた。
「どこいってる?」
「一番奥だよ。そこには祠があって、水盆が祀ってある」
「すいぼん?」
「水が張ってある、平らな入れ物だな。見ればすぐに分かる。ニコ、祠には行ってないんだよな?」
「ポポの体で街の奥まで入るのは、さすがに忍びなかったからな。見つかってタコ殴りにされたら可哀想だろう」
「……ポポ、こっち」
どうやら、ニコもその水の存在は知っているらしい。
ルルは、だんだん疲れてきたらしいポポを抱っこしてジャックの上に乗せてやった。
そしてそのまましばらく大通りを道なりに行くと、真っ赤な門が見えてきた。
その先は整備された森になっていて、石畳の道の周辺までもが砂利で整備されていて、石の広場のようになっていた。
「こっちだ」
ケケは見知った様子で臆せずずんずん進んでいく。
そして赤い門を避けるように砂利道を通り、その奥へと進む。
ルルとニコとポポを乗せたジャックも、それに続く。
そこには確かに祠があった。
いや、祠というには少し大きくて、扉がついている。
「……すいぼん?」
「この中だよ」
ケケは迷いなくその扉を開けた。
中には、確かに水が入った器が置いてあった。
大きさは思っていたよりも大きく、ルルの両手では抱えきれないほどの大きさがある。
水は透き通っているが、不思議とその深さは底知れず、水盆の底は全く見えない。
水は盆の際までなみなみと注がれていて、今にも溢れそうだ。
「ここの水はずっとここに安置されてるから、民衆の記憶は全部持ってるんだ。どこかに流れたりもしないしな」
「……なるほど」
一端の精霊族だけあって、さすがにニコの力も
「ポポ、水の中に入ってくれ」
『ワカッタ!』
どうやら、人間以外に対する恐怖心は、あまりないらしい。
ポポはニコに従って、その水盆の中にトポンと浸かる。
覗き込む限り、どこまでも落ちていきそうに見えるが、外の器の深さと同じくらいの深さに底があるらしく、ポポは水盆の中央で水晶玉みたいにきらきらと透き通っている。
ポポが入ったというのに、不思議と水は溢れずに、その際でふるふると震えていた。
「……なるほど」
しばらくそうしていると、ニコが小さく呟いた。
「……どうやら、この地は疫病に侵されているらしい」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
329
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる