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30 すぴーち
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最初に連れて行かれた部屋は豪華ではあったが、たくさん集まるには向いていない。
ルルはバフォメトによって「ぎじどう」という場所に案内され、無駄に豪華な壇上に立たされた。
そこは広いうえに豪華だった。
建築好きのコイシたちを連れてきたら、さぞかし喜ぶだろうな、とルルは思った。
「す、すごい場所だな……」
「ニコ、みたことない?」
「使われていない建物は乾いていて、水がないからな。ワラワも入り込めないんだ」
ニコも驚いている。確かに、この場所の建物は全部大きいし、すごく飾りが多いが、すっかり廃れている。
「地上には、喋る水餅がたくさんいるんですか?」
「スライムはたくさんいるが、ニコはポポのなかにはいっている。ポポがしゃべっているわけではない」
「……?」
「……?」
自分で言っていてよく分からなくなったルルは、諦めて「いけばわかる」と言った。
「それでは、さぁ、どうぞご主人様!」
「ここ、おまえがつくったの?」
「いいえ、ここはかつて人間共が使っていた場所です。われわれのヒヅメでは、このような大規模な建築はできません」
それ以前に設計もできないだろうな、と思いながら、ルルは「そうか」と呟いた。
(やたらと、ぎょうぎょうしいばしょだ。にんげんにも、まおうがいるのかもしれない)
高すぎる演台をジャックに退けてもらい、ルルは目の前に集合しているジャックの親戚一同を見渡す。
彼らの数はヨロイほど多くないが、コイシよりも多い気がする。
コイシと違ってカチカチ言わないので静かだが、毛の分体積があるので威圧感がすごい。
「みなのもの、ルルはルルです。よろしくおねがいします」
「ご主人様は自己紹介をなさっています!」
「……おまえ、どうしてせつめいする?」
「彼らにはご主人様のご意思は伝わりません。ワタクシからお伝えさせていただきます」
「……ん」
やはり地上の魔物と地下の魔物は違うのだろう。
ちょっと変なやつではあるが、バフォメトがいてくれてよかったと、ルルは思った。
「ご主人様がご発言なさいました! 今が称賛のタイミングです!」
「じかんがない、おまえはせつめいだけしてくれ」
ルルは手を上げて、咳払いし、できるだけ威厳のある声を意識しながら、ゆっくりと言った。
「みんな、はなしはきいた。みんなは、ここがせますぎるとかんじていると。たしかに、ちじょうはここより、ずっとひろい。しかし、いまちじょうは、みんながへいわにくらせるばしょではない」
「ご主人様は我々に理解を示しています!」
「めぇ!」
「メェメェ!」
「めぇ、めぇ!」
「……ルルは、おおくのちいさななかまがいる。みんながへいわにくらせるせかい、めざしたいとおもっている。みんな、ルルのなかまとなかよくできれますか?」
「ご主人様は、我々の忠誠を問うておられます!」
「おまえ、もっとせいかくにほんやくしろ」
不満げなルルとは裏腹に、ジャックの親戚たちは元気に「めぇめぇ」と返事をしている。
何を言っているのかは不明だが、ルルに対して悪い感情は抱いていないようだ。
「……ルルのなかま、もうすぐ、うえでたたかいはじめる。どうじに、したからたたかう。ひとびと、はさみうちにすれば、にげまどう」
「皆の者、今です! ご主人様を褒めたたえるのです!」
「めぇめぇ!」
「めぇめぇ、めぇ!」
「おまえはくびだ。ジャック、おねがい」
ルルは冷静に判断を下した。
「みんな、できることとしっていること、ルルにおしえて。ルルがさくせんをかんがえる。うえにいるなかまといっしょに、みんなでたたかえば、とっぱできるはず」
「めぇめぇめぇ、めぇ、めえめぇ、めぇ! めぇめぇめぇ」
(ジャック、こんなにしゃべってるのはじめてみたかもしれない)
慣れないことを頼んだおかげで珍しいものを見れたような気がするルルは、ちょっと満足しながらジャックを眺める。
ジャックはツノを振りたてながら、一生懸命に何かを伝えてくれているようだ。
「めぇ、めぇめぇ、めぇ!」
「……」
「めぇめぇめぇ、めぇめぇ」
「……」
「めぇめえめぇ、めぇ、メェメェ、メェ。めぇめぇ、めぇええ。めぇめ、めえめぇ」
(……ながくない?)
「めぇめ、めぇめぇ、めめ、めぇえ」
「……」
「めえめぇ、めぇめぇ、めぇ、めぇ」
「……」
そんなに長い間喋った覚えはないのに、ジャックのスピーチは全然止まらない。
ルルは困惑しながらも、一生懸命に話しているジャックを止めるのもどうかと思い、見守る。
「うっ、うぅ……」
「!?」
気が付くと、バフォメトが泣いていた。
よく見ると、聴衆の親戚の中にも、ぷるぷると耳を震わせている者が何匹かいる。
全然何を言っているのかは不明だが、どうやらジャックの演説は彼らの琴線に触れたらしい。
「皆の者! 今こそ決起せよ!」
「めぇええええ!!」
「めぇええええ!!」
「……」
全員、やる気は十分らしい。
呆気にとられるルルを、ジャックは自慢げに見て、「メェ」と鳴いた。
「……ん」
ルルはちょっと背伸びして、ジャックの頭をなでなでしておいた。
ルルはバフォメトによって「ぎじどう」という場所に案内され、無駄に豪華な壇上に立たされた。
そこは広いうえに豪華だった。
建築好きのコイシたちを連れてきたら、さぞかし喜ぶだろうな、とルルは思った。
「す、すごい場所だな……」
「ニコ、みたことない?」
「使われていない建物は乾いていて、水がないからな。ワラワも入り込めないんだ」
ニコも驚いている。確かに、この場所の建物は全部大きいし、すごく飾りが多いが、すっかり廃れている。
「地上には、喋る水餅がたくさんいるんですか?」
「スライムはたくさんいるが、ニコはポポのなかにはいっている。ポポがしゃべっているわけではない」
「……?」
「……?」
自分で言っていてよく分からなくなったルルは、諦めて「いけばわかる」と言った。
「それでは、さぁ、どうぞご主人様!」
「ここ、おまえがつくったの?」
「いいえ、ここはかつて人間共が使っていた場所です。われわれのヒヅメでは、このような大規模な建築はできません」
それ以前に設計もできないだろうな、と思いながら、ルルは「そうか」と呟いた。
(やたらと、ぎょうぎょうしいばしょだ。にんげんにも、まおうがいるのかもしれない)
高すぎる演台をジャックに退けてもらい、ルルは目の前に集合しているジャックの親戚一同を見渡す。
彼らの数はヨロイほど多くないが、コイシよりも多い気がする。
コイシと違ってカチカチ言わないので静かだが、毛の分体積があるので威圧感がすごい。
「みなのもの、ルルはルルです。よろしくおねがいします」
「ご主人様は自己紹介をなさっています!」
「……おまえ、どうしてせつめいする?」
「彼らにはご主人様のご意思は伝わりません。ワタクシからお伝えさせていただきます」
「……ん」
やはり地上の魔物と地下の魔物は違うのだろう。
ちょっと変なやつではあるが、バフォメトがいてくれてよかったと、ルルは思った。
「ご主人様がご発言なさいました! 今が称賛のタイミングです!」
「じかんがない、おまえはせつめいだけしてくれ」
ルルは手を上げて、咳払いし、できるだけ威厳のある声を意識しながら、ゆっくりと言った。
「みんな、はなしはきいた。みんなは、ここがせますぎるとかんじていると。たしかに、ちじょうはここより、ずっとひろい。しかし、いまちじょうは、みんながへいわにくらせるばしょではない」
「ご主人様は我々に理解を示しています!」
「めぇ!」
「メェメェ!」
「めぇ、めぇ!」
「……ルルは、おおくのちいさななかまがいる。みんながへいわにくらせるせかい、めざしたいとおもっている。みんな、ルルのなかまとなかよくできれますか?」
「ご主人様は、我々の忠誠を問うておられます!」
「おまえ、もっとせいかくにほんやくしろ」
不満げなルルとは裏腹に、ジャックの親戚たちは元気に「めぇめぇ」と返事をしている。
何を言っているのかは不明だが、ルルに対して悪い感情は抱いていないようだ。
「……ルルのなかま、もうすぐ、うえでたたかいはじめる。どうじに、したからたたかう。ひとびと、はさみうちにすれば、にげまどう」
「皆の者、今です! ご主人様を褒めたたえるのです!」
「めぇめぇ!」
「めぇめぇ、めぇ!」
「おまえはくびだ。ジャック、おねがい」
ルルは冷静に判断を下した。
「みんな、できることとしっていること、ルルにおしえて。ルルがさくせんをかんがえる。うえにいるなかまといっしょに、みんなでたたかえば、とっぱできるはず」
「めぇめぇめぇ、めぇ、めえめぇ、めぇ! めぇめぇめぇ」
(ジャック、こんなにしゃべってるのはじめてみたかもしれない)
慣れないことを頼んだおかげで珍しいものを見れたような気がするルルは、ちょっと満足しながらジャックを眺める。
ジャックはツノを振りたてながら、一生懸命に何かを伝えてくれているようだ。
「めぇ、めぇめぇ、めぇ!」
「……」
「めぇめぇめぇ、めぇめぇ」
「……」
「めぇめえめぇ、めぇ、メェメェ、メェ。めぇめぇ、めぇええ。めぇめ、めえめぇ」
(……ながくない?)
「めぇめ、めぇめぇ、めめ、めぇえ」
「……」
「めえめぇ、めぇめぇ、めぇ、めぇ」
「……」
そんなに長い間喋った覚えはないのに、ジャックのスピーチは全然止まらない。
ルルは困惑しながらも、一生懸命に話しているジャックを止めるのもどうかと思い、見守る。
「うっ、うぅ……」
「!?」
気が付くと、バフォメトが泣いていた。
よく見ると、聴衆の親戚の中にも、ぷるぷると耳を震わせている者が何匹かいる。
全然何を言っているのかは不明だが、どうやらジャックの演説は彼らの琴線に触れたらしい。
「皆の者! 今こそ決起せよ!」
「めぇええええ!!」
「めぇええええ!!」
「……」
全員、やる気は十分らしい。
呆気にとられるルルを、ジャックは自慢げに見て、「メェ」と鳴いた。
「……ん」
ルルはちょっと背伸びして、ジャックの頭をなでなでしておいた。
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