ヒョロガリ殿下を逞しく育てたのでお暇させていただきます!

冬見 六花

文字の大きさ
7 / 12

しおりを挟む



王城にある自室へと駆け込み、破るような勢いでドレスを脱いだ。
最近のドレスはコルセットもなく、少々手こずるが1人でも脱げるようになっていてよかったと、こんなときなのに頭の隅で思いながら簡素なワンピースに着替え、すでに中身を入れてある大型のバッグをクローゼットの奥から引っ張り出した。

いつか、マイカちゃんが来た時すぐにここから出ていけるようにと前もって準備をしていた。
今ならマイカちゃんが来たことで王城もごたついているだろう。王城の人全員に顔が割れている自分が逃げ出すとしたら今しかない。


殿下に何も言わずに出ていくことが心苦しい。
私が出て行くと言ったら、優しい殿下はきっと引き留めてくれる。
だけどそれで王城に残って、殿下とマイカちゃんの2人を見つめる生活なんて耐えらない。


殿下はきっと本当は誰とでも食事ができるはず。
だけど私が殿下との食事を楽しんでいたから、止めようと言い出せなかったのかもしれない。
優しい人だ。本当に優しい。

私から解放され、これからはマイカちゃんやいろんな人と食事をするのだろう。



―――……私の役目は、これでおしまい。



やっぱり、最後に一言だけでも手紙を残しておこう。
これまでたくさん良くしてもらったのだから、一言挨拶だけでも。


「これまで、楽しい時間を本当にありがとうございました。私はこれでお暇させていただきます……」


未練がましさを残さないよう短すぎる内容を書いて机の上に置いた後、今まで過ごした部屋を見渡した。
殿下と食事を共にするため当然家には帰れなかったから、気付けば長い時間を王城で過ごしていた。
殿下との食事は私の部屋と殿下の部屋どちらにもつながっていて、本当に他の人を交えず2人だけで食事をした。
寝室も続き扉となっていたけど一度だって行き来はしなかった。
婚約者であれば婚前交渉は良しとされているけれど、殿下にはマイカちゃんとの未来の可能性があったし、そもそも殿下は高潔な人だからそういった行為に興味を持っている様子は微塵もなかった。

……それかただ単純に私のことは食事を共にする良き友人としてしか見ておらず、異性として、性的対象としては見ていなかったのかもしれない。

一度くらい殿下に求めてほしかったと、そう言ったらはしたないと思われただろうか。
だけど赤恥をかいてでも、言えばよかったと少し思った。


名残り惜しさを感じながらも廊下に続く扉の前に立ち、もう一度部屋を見渡して深々と頭を下げて、出ていこうとノブを掴もうとしたとき、――――ドアが開いた。






「―――…エリシア、どこにいくの」






そこにいたのは、赤い瞳を妖光させながら私を見下ろしているテオファルド殿下だった。



しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

愛の重めな黒騎士様に猛愛されて今日も幸せです~追放令嬢はあたたかな檻の中~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
令嬢オフェリアはラティスラの第二王子ユリウスと恋仲にあったが、悪事を告発された後婚約破棄を言い渡される。 国外追放となった彼女は、監視のためリアードの王太子サルヴァドールに嫁ぐこととなる。予想に反して、結婚後の生活は幸せなものであった。 そしてある日の昼下がり、サルヴァドールに''昼寝''に誘われ、オフェリアは寝室に向かう。激しく愛された後に彼女は眠りに落ちるが、サルヴァドールは密かにオフェリアに対して、狂おしい程の想いを募らせていた。

コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。 彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。 そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。 幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。 そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?

【完結】大学で人気の爽やかイケメンはヤンデレ気味のストーカーでした

あさリ23
恋愛
大学で人気の爽やかイケメンはなぜか私によく話しかけてくる。 しまいにはバイト先の常連になってるし、専属になって欲しいとお金をチラつかせて誘ってきた。 お金が欲しくて考えなしに了承したのが、最後。 私は用意されていた蜘蛛の糸にまんまと引っかかった。 【この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません】 ーーーーー 小説家になろうで投稿している短編です。あちらでブックマークが多かった作品をこちらで投稿しました。 内容は題名通りなのですが、作者的にもヒーローがやっちゃいけない一線を超えてんなぁと思っています。 ヤンデレ?サイコ?イケメンでも怖いよ。が 作者の感想です|ω・`) また場面で名前が変わるので気を付けてください

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

転生令嬢は婚約者を聖女に奪われた結果、ヤンデレに捕まりました

高瀬ゆみ
恋愛
侯爵令嬢のフィーネは、八歳の年に父から義弟を紹介された。その瞬間、前世の記憶を思い出す。 どうやら自分が転生したのは、大好きだった『救国の聖女』というマンガの世界。 このままでは救国の聖女として召喚されたマンガのヒロインに、婚約者を奪われてしまう。 その事実に気付いたフィーネが、婚約破棄されないために奮闘する話。 タイトルがネタバレになっている疑惑ですが、深く考えずにお読みください。 ※本編完結済み。番外編も完結済みです。 ※小説家になろうでも掲載しています。

つかまえた 〜ヤンデレからは逃げられない〜

りん
恋愛
狩谷和兎には、三年前に別れた恋人がいる。

憐れな妻は龍の夫から逃れられない

向水白音
恋愛
龍の夫ヤトと人間の妻アズサ。夫婦は新年の儀を行うべく、二人きりで山の中の館にいた。新婚夫婦が寝室で二人きり、何も起きないわけなく……。独占欲つよつよヤンデレ気味な夫が妻を愛でる作品です。そこに愛はあります。ムーンライトノベルズにも掲載しています。

処理中です...