27 / 71
一章:教育されてます!
理由と想いと許容 04
しおりを挟む「羽李さん? 何故、泣いているのですか?」
静かに問う神流に、自分が涙を流していることに漸く気付く羽李だった。
神流の手は、服から出ていき、羽李の目元に触れていた。
指先が水滴を拭っていく。
「……っ、お、おれっ! こんなの、イヤだ。お前はっ……良いのかよ。気持ちが通じ合ってなくても、抱けるのか?」
優しい神流の仕種に、胸がもっと苦しくなる。
ぐずっ、と鼻を啜りながら、どうにか想いを口にする。
目と目が向き合う。
神流の瞳が、切な気に細められた。
目尻にあった指が、頬を撫でていく。
「出来ることならば、ちゃんと順序を追えたら、僕だってその方が良いに越したことはないんですよ。ですが、羽李さんは、僕を嫌っている。だったら、仕事でも何でも利用するしかないじゃないですか。体だけでも、自分のものにしたい、気持ちは二の次でも着いてくる。そう思うのが、僕のエゴだったとしても、それでも構わないぐらい、僕は貴方が好きだ。愛しているんです。僕は貴方を諦めない。何があっても手に入れてみせます」
怖いぐらい真剣な眼差しが羽李を貫いている。
羽李は何も言えなくなった。
ただただ、ぐずっずぴっ、ひっく、と年甲斐もなく泣く音だけが部屋を占領していた。
「俺はものじゃない。俺は女の子が好きだ。俺は、お前なんか好きじゃない。お前のものになんかならない」
「ねえ、羽李さん。好きが高じると、殺したくなる気持ち、解りますか? 手に入らないのなら、他の奴に奪われるぐらいならばいっそ、殺してしまいたい。誰の目にも触れず自分だけのものにしてしまいたい。……時々、そんな想いに駆られるんですよ」
飽くまでも、拒絶の姿勢をみせる羽李に、神流は微笑みを向けた。
言い回しはヤケに優しい癖に、声色は低く、内容も恐ろしい。
そんな神流に、羽李は恐怖を覚えた。
体がガタガタと震える。
神流ならばやりかねないと、そう感じたのだ。
頬から、すぅっと手が下がり、羽李の顎を掴んだ。
ぐいっ、と羽李の顔が上向かせられる。
すぐ目の前には神流の顔がある。
「安心して下さい。殺したりはしませんよ、流石にね。ですが、貴方は覚えておくべきです。僕の想いを」
「かっ、勝手なことばっか言うな、よ」
目を逸らしたい気持ちをどうにか抑え、羽李は神流を睨む。
だが、神流は楽しそうに笑うだけで、堪えた様子もない。
顎から首へと、また下がる手に、羽李の体はびくんとびくついた。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
今度こそ、どんな診療が俺を 待っているのか
相馬昴
BL
強靭な肉体を持つ男・相馬昴は、診療台の上で運命に翻弄されていく。
相手は、年下の執着攻め——そして、彼一人では終わらない。
ガチムチ受け×年下×複数攻めという禁断の関係が、徐々に相馬の本能を暴いていく。
雄の香りと快楽に塗れながら、男たちの欲望の的となる彼の身体。
その結末は、甘美な支配か、それとも——
背徳的な医師×患者、欲と心理が交錯する濃密BL長編!
https://ci-en.dlsite.com/creator/30033/article/1422322
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる