冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

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ストーカーと冤罪令嬢

壊れかけの鳥籠

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 ********
 
 
 大雨が降っている。
 酷い雷の中、ランプの光一つで書類を確認する人影が一つ。

「…」

 ランプに照らされた人影はディードリヒであった。彼は一封の大きな封筒を眺めている。
 その封筒を破り裂いて捨ててしまいたい衝動を抑えて、引き出しに仕舞った。そのまま天井を見上げため息を吐き出す。

 今にも暴れ狂ってしまいたい、そう感じながら。
 愛しい彼女を手放さなくなるくらいなら、暴れて、閉じ込めて、誰にも見せたくない。泣いて叫んで縋って、それで彼女がどこにも行かないでくれるなら。

 それなら、自分はなんだってできる。

「…リリーナが見たら、また『情けない』って言うんだろうな」

 掠れた声で呟く。
 わかっている。“計画”は成就しつつあるから、そんな心配は要らないと。そうならないように親まで巻き込んで根回しをしたのだから。

 それなのに不安でならない。
 彼女がまた立場を理由に飛び立たないと言えないから。愛する家族の元に帰らないとは言えないし、そもそも親権を盾に奪われたら流石にすぐ反応できるほど用意はできなかった。

「…言葉は言葉でしかない。覚悟は、決めないと」

 そう、そのどれかを、彼女が望むなら。
 彼女の意思なら、自分には止められない。

 やっぱり証拠なんか燃やしてここにいてもらえないだろうか。いやそれでは、彼女と婚姻する計画に支障が出る。彼女が持っていたものを返して、堂々と彼女を貰いたい。

 思いは脳を駆け巡る。
 封筒をしまったのとは別の引き出しを開けて一枚のハンカチを取り出した。それを口元に当てると一つ深呼吸をする。

「…やっぱり本物には敵わないな」

 ハンカチにはリリーナの香水が吹き付けられていた。しかしリリーナそのものの香りには程遠く、彼の欲求を満たすことはできない。

 彼は諦めた様にハンカチを引き出しにしまい直した。そのまま虚な瞳で机に飾られた彼女の写真を手に取る。彼にとっては当たり前だが、その写真は隠し撮られたものだ。

「リリーナ…」

 何度だって呼びたい、愛しい人の名前。
 何枚撮っても足りない写真。
 何本増えても足りない録音テープ。
 何時間あっても足りない彼女の行動記録。

 それがあった上で、今は彼女がここにいる。自分に向けて話して、自分が触れられて、いつだって行動を把握できて、まるで夢のようだ。今なら、そう、彼女の香りだってわかってしまう。

 それなのに、彼女は自分に愛を囁く。

 幻聴のようだ。願望が形になってしまっていて頭がおかしくなる。
 ただそこにいるだけでよかった、はずなのに。
 欲が出た。自分を見て欲しいなどと、そう思ったのはいつだったか。一度思えば止められなくなって、彼女を何度も傷つけて。

 でもその度に彼女は自分を見る。
 あの綺麗な金の瞳で、なんの迷いもなく。
 何度心を堕としても、惹き込まれる。いつだって一筋の光になって自分を導く。
 彼女に醜いところなどない。いつだって気高く、美しく、輝かしくそこにいる。

「あぁ…」

 彼女のことを考えるだけで、感情が揺れた。温かいものが、心に広がっていく。
 そして、彼女の言葉が出てくる。“手を繋げばいい”と言った、彼女の言葉が。
 自分は許されるなら、いつまでだって手を繋いでいたい。捕まえて、離さないで、ずっと隣にいてほしい、だけど。

 自信がないのだ。彼女が隣にいる自信が。
 どうすればいい、どうすれば彼女を信じることができる?

「リリーナ…」

 虚空に名前を呟いても、誰も返してはくれない。

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