冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

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ストーカーと冤罪令嬢

頭を抱える招待状

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 ********
 
 
「ついにこの日がやってきたようです」

 そうミソラが話したのはさる日のお茶会の最中であった。

 のどかな空気であった中、彼女がリリーナに差し出したのは一通の手紙。何やら覚え深い装丁の封筒に嫌な予感を覚える。

「パンドラから、ですの…?」

 それはどこからどう見てもパンドラ王室の正式な封筒であった。リリーナがミソラから手紙と共に渡されたペーパーナイフでそっと封を切ると、中に入っていたのは二枚の招待状と一通の手紙。

「…」

 招待状はどうやら王子とオデッサの婚約パーティのもののようだ。そのまま手紙の中身を確認すると、短い内容ではあるが要点ははっきりと書かれている。要は二人で今度行われる婚約パーティに来いと言っているのだ。
 いつリリーナの居場所がバレたのかは知らないが、内容的にややこちらを挑発しているようにも見える。

「…珍しいですわね」

 リリーナは何事もなかったかのように手紙をディードリヒに渡すと、中々に冷静な様子を見せた。

「珍しい?」

 ディードリヒの問いに、リリーナはすんとした表情で答える。

「彼の方、一応地頭は良い方なのですけれど…火遊びで知能が低下したのかしら?」

 婚約まで決めた男女に向かって“火遊び”とは強気な発言ではあるが、しかしリリーナの所感ではこのように挑発を表に出した手紙を出してくるような人物ではない。

「リリーナを捨てる段階で馬鹿だよ」
「あら、そのおかげで私といる方がよく言うものですわね」

 ディードリヒは手紙を執務室に置いてくるようメイドに申しつけると、優雅に紅茶を一口飲み下す。

「まぁでも、リリーナの言うことには同意かな。どう足掻いても僕らを引き摺り出したいんだろうね」
「やはり知能が落ちたのでしょう。貴方の言った通り向こうから仕掛けてきましたし」

 裏があるようにも見えないわけではないが、それにしては手紙にセンスがない。誰かに入れ知恵された様子も見えないのでおそらく裏はないのだろうと二人は判断した。
 そもそも、今のリリーナに利用価値を見出す貴族もいないだろうが。

「それにしても何がしたいのでしょう、彼の方は。私たちとしては随分お誂え向きでよろしいですけれど」
「負けた女に幸せを見せつけたいんじゃない?」
「それは見下げた趣味ですわね」
「ここにいるってわかってるなら捕らえにきても良いのに、わざわざこんなことするんだから理由なんてそんなものだと思うけどね」
「我が故郷ながら暇ですこと」
「まぁ向こうは僕らの関係までは知らないだろうし、大きな裏もなさそうだからほっとくのも手だけど」
「あら」

 いつになくらしくない発言をするディードリヒにリリーナは少し拍子抜けしたような態度を示す。

「こんなに面白い機会を逃す手はありませんわ。お礼参りでもいたしませんこと?」
「お礼参り?」
「貴方、言ったではありませんか。私の冤罪を晴らすのでしょう?」
「ここでなくても、とは思うけどね」

 ディードリヒとしてはこんなに安い挑発に乗るのは若干気が進まない。何か仕掛けてくるだろうとは思っていたが、こんなに浅はかなお招きに預かるくらいなら、もう少し政治的な影響力のある場でもいいのではないかと考えた。

「安い挑発に乗るから意味があるのですわ。私が引き摺り出されたと見せかけて状況をひっくり返したら、いい復讐になるのではなくて?」
「君がいいならいいけど…」
「では決まりですわ」

 リリーナはご機嫌である。しかしディードリヒの表情は暗い。
 正直、今回を逃せばその分彼女がここにいるのだと、思わないではいられないのだ。そうやってなあなあにして、時間を稼ぎたい。

「…不安でして?」
「!」

 リリーナの言葉に、ディードリヒは何かを見透かされたような気がした。

「なんで、そう思うの?」
「顔がそう言ってましてよ。私がいなくならないか不安なのでしょう?」
「…それは」
「私も正直どうなるかはわかりません。ですがこのままでいいとは思っていませんの」

 リリーナはまた強く瞳を光らせる。

「このままいたいのであれば、私は必ず家名を取り戻さなくては。その名もなく貴方のそばにいることは、私の矜持が許しません」
「リリーナ…」
「わかったら貴方も背筋を正しなさい! 私と共に行くのでしょう?」
「う、うん」
「私の隣に立って恥じない男でしてよ、貴方は」
「…!」

 ディードリヒの中で、不安より喜びが勝った。彼は目を輝かせてリリーナに視線を向ける。

「本当!?」
「本性を隠した姿であれば、ですわ」
「わかってるよリリーナ。君に恥はかかせないよ!」
「わかったら今日はここまでですわね。早速ドレスの打ち合わせをします」
「いつも通り好きに作っていいからね、リリーナ」
「ありがとうございます。そうさせていただきますわ」

 そこからリリーナは席を立つと「ご機嫌よう」と残して去っていった。そこにはリリーナに見せなかった表情のディードリヒが残されている。

「…」

 その表情は激しい憎しみに包まれ、嫌悪さえ含まれていた。しかし彼にとっては当然のことなのだろう。あの王子は彼の愛したリリーナを捨てたと思ったら、今度はお笑い種にしようというのだから。最初に今回行くことを渋った理由も本当は彼女を晒しものにしたくなかった部分が大きい。

 しかし当然黙っているわけにはいかないにしても、問題はそのあとだ。現在計画にズレはない、しかし予想外の事態も考えなくては。

 彼女が決意を決めたならば、自分も覚悟が必要だ。

「…手紙を出す。蝋印の用意を」

 言いつけられた執事が静かにその場を去る。
 それから彼は一つ大きなため息をついて椅子から立ち上がった。

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